書棚と書棚の間という場所は狭いが、横に並んで立つならともかく、正面から抱き合っている分には十分なスペースがある。 けれど時間のなさはどうしようもない。 コンラッドは抱き寄せたの細い腰を撫で下ろしながら、耳朶に舌を這わせた。 せっかくの機会なのだから、本当ならじっくりと時間をかけて全身を愛でたいところだが、戻りがあまり遅いと誰かが様子を見に来る可能性もあるし、そうでなくても多少の遅れはあっても疑惑を持たれない時間で戻らなくてはいけない。 有利に嘘をついて騙したことは反省したし、今後はしたくない。となれば、残された道は元から疑惑を持たれないようにするしかない。 を抱き締めた手を下に滑らせて、スカートの裾をたくし上げてその下へと手を入れる。 服を脱がす時間はないので、このまましようというコンラッドの意思は伝わったらしく、もコンラッドの下腹部に手を伸ばすと制服の前をくつろげた。 「……随分と積極的だ」 そっと耳元で囁くと、は顔を赤らめてコンラッドの肩に額を当てる。 「だって時間がないって……」 「ごめんね……でも、時間の限りで目一杯に可愛がってあげるよ」 耳まで赤く染めたの髪に口付けて、黒い紐を引いて下着を床へ落とした。 林檎に魅せられし者は(4) を抱き寄せ少し後ろへ移動すると、書棚に背中が当たった。は引かれるままにコンラッドに身を寄せて身体を預ける。 スカートの下に入れた手で、下着を取り除いた柔らかな肌を直接なでさすると、も小さな手でコンラッドの下腹部をさするようにする。 最近では少しは慣れてきた行為とはいえ、密着した動きにくい状態では、まだまだその手つきはつたない。そこがますます可愛く思えるのは、恋人の欲目もあるだろうけれど。 「」 嬉しそうに耳元で囁くと、は顔を赤く染めてコンラッドの胸に顔を埋めた。 音を立てて耳にキスを落としながら、コンラッドは更に手を進めて閉じた足の間に指をねじ込んでいく。 「、もう少し足を開いて」 「……うん」 「そう、俺にもたれていいから……」 指を進めたコンラッドは、そこで少し困ったように手を止めた。 「……もう少し、濡れてないとが痛そうだな」 「だ、だって急だったし……こ、こんなところだし」 「もしたがっているのに」 「そうだけど……」 気分は盛り上がっているはずなのだが、そうそう何もかもが上手くいくものでもないようだ。 書庫で偶然に会えたから、布石を打っておくだけのつもりだったことが、急にそのままチャンスに変わったのを生かしたつもりだったのに、自身でもどうしようもないらしい様子に少し考える。 「あの……痛くてもいいから」 「いや、それは……さすがに」 「その……は、入っちゃえばよくなると思うの……」 からの意外な発言に、コンラッドは思わずぱかりと口を開けて呟いた。 「随分大胆だね」 「う……」 いつも散々にスケベだとかエッチだとか言っている恋人に言われると、より恥ずかしいようだ。 言葉に詰まって赤く染めた顔を俯かせたの秘所は、指先で誘うようにさすっても僅かに湿るだけで、いくら指でも入れるには性急すぎる。まして、が言ってるほうのものはさすがに入らない。 「そんなに俺としたい?」 耳元で囁くと、は赤く染めた顔を上げてコンラッドを覗き込む。 「さ、さっきまではそんなことなかったもん」 「うん」 「で、でも、なんだか急に……その、もっと一緒にいたいって……」 欲求不満が溜まっていたにしては、の身体の反応は鈍いというべきだろう。当然だ。書庫で偶然顔を合わせた時点では、まだは約束の軽いキスでも十分楽しそうだったのだから、そこまで求めていたわけではない。 あえて言うなら、条件反射に近いものだとコンラッドは見ている。 この状況で何かしないコンラッドではないので、抵抗するしないは別にして、気持ちも身体も恐らく構えていたのだろう。けれどコンラッドが次への布石として、ここは淡白にあっさり振舞おうとしたことで、構えていたところに空振りどころか球が投げ込まれなかったことになる。 「打ち返そうと待ち構えてた分だけ、前のめりになるんだろうなあ……」 「え?」 「なんでもないよ」 小さな呟きを聞き返されて、笑顔で誤魔化しながら、さてここからどうしようと考える。 元々コンラッドは、ここでは健全に別れて、に「あれ?」と肩透かしをさせるだけのつもりだった。周りの目が気になる以上に、寂しいとか物足りないとか、そちらのほうに気を逸らすことができれば、あとは時間を上手く調節してのところに忍び入るつもりだったのに。 思った以上の反応が返ってきたのは、それこそ日頃の行いというやつだ。コンラッド自身としては自然に赴くまま動いていたのでそんなつもりはなかったが、それだけ常日頃からにすぐ手を出していたのだろう。 ある意味では、日頃の結果と言うわけだ。無意識の産物とは恐ろしい。 「うーん、そうだな……」 互いの部屋ならもう少しゆっくりと広い場所で愛撫に勤しむか、香油などの潤滑油を使えるのに、書庫では場所が悪く、今は時間もない。 明かり取りのためのランプは燃料油なので、不純物が混じっているためにの身体に塗り込むわけにはいなかいし、時間がないからゆっくりと身体の隅々まで可愛がってほぐしている暇もない。 「俺はいいけど、まだ序盤だしは嫌がるだろうな……」 小さく呟いて、抱き寄せていたの身体を離した。 「コンラッド?」 「はそのまま」 目を瞬くに微笑みかけて、コンラッドは床に膝をついた。 足元に跪いたコンラッドにワンピースのスカートを捲られて、は驚いて声を裏返しながら上からスカートを押さえつけようとする。 「な、なに?なにするの!?」 「何って」 太腿までスカートを捲り上げていたコンラッドは、顔を上げて軽く舌先を出して見せた。 「直接舐めようかと」 「なっ……!?」 「大丈夫大丈夫」 「だだだ、大丈夫じゃないっ」 「うん、じゃあはスカートを持って。はい」 スカートを押さえようとしたの手に逆に裾を握らせて、コンラッドはその下に頭を突っ込んだ。 「ちょっ、や、やだっ」 足を閉じようとしても、先に入れられていた手に邪魔をされて上手くいかないし、逃げようにも書棚を背にしていて、更に下から押し上げるように押し付けられていて動けない。 そうこうしているうちに舌で太腿を舐め上げられる。 「や……っ」 「汚れるから、しっかり裾を上げておいて」 「そうじゃなくて……っ……ひっ!」 既に下着を脱がされていたから、舌が直接入り口を辿って、そのまま上へと上がってくる。 先端を舌先で丹念に舐められて、は持たされたスカートの裾を握り締めた。 「や……」 もぞもぞとスカートの下でコンラッドが動いているのが判って、見えていないのに何をされているのか、いやと言うほど伝わってくる。見えていないだけ、聞こえてくる音に行為の卑猥さが増しているような気さえする。 「……やだ……」 スカートの下で勤しんでいたコンラッドは、ふるふると震えるの左足を、太股を掴んで抱え上げて肩に乗せ、より愛撫し易い態勢に変えさせる。わざと唾液をつけるようにして、最初の渇きを補いながら敏感な箇所を舌で丹念に刺激した。 肩に乗せたの足に力が入って、踵が背中に力を掛ける。震える身体から、の羞恥と快楽が伝わってきて、コンラッドは舌をもう少し下へと滑らせた。 「も……いい……から……っ」 「もう少し」 そろそろ入れるだけなら入るだろうけれど、時間がないからといって性欲処理でもあるまいし、コンラッドとしてはにも気持ちよくなってもらいたいのは当然だ。 ほぐれ始めていた入り口に唇を押し付けて、強く吸い上げる。 「あっ!」 途端に、に上から思い切り頭を押し下げられた。 「、……」 「もういい!もうダメっ!」 首がおかしくなりそうなほどに力を込められて、仕方無しにスカートの下から顔を出すと、今にも泣きそうなくらいに涙を浮かべたに睨みつけられる。 「そ、そんなことしなくていいのっ!」 「だって俺のを咥えてくれるのに」 快感に頬を染めて、涙の浮かんだ目で睨まれて少しも怖くない。コンラッドが笑いながらそう言うと、はますます赤くなってコンラッドの頭を押さえた。 「いたたたっ、、でももう少ししておいたほうがが痛くないのに」 「ちょっとくらい痛くてもいいから!」 舐めるのは別に初めてでもないのに、やはり他の箇所を愛撫せずにそこだけ攻められるのが恥ずかしいのだろうかと、コンラッドは僅かに痛めた首を擦りながら仕方なく立ち上がる。 「本当に、痛くていいの?」 「………そんなに濡れてないのが気になるなら、わたしがコンラッドのを舐めるほうがいい」 「いやそれは……」 それをされると理性が飛ぶとコンラッドは右手を上げて謝絶する。 「ほらー!コンラッドだって嫌がるくせにっ」 「根本的に嫌がる理由が違うんだけどね」 恥ずかしかったり、汚いからと嫌がるとは違い、コンラッドの場合はじっくり時間をかけて部屋で交渉しているときなら大歓迎だ。 あまり揉めている時間はないし、それなりに潤ってはきたし、本人が強固にいいと言い張るので、コンラッドは再びの左足の下に手を回した。 「じゃあ入れるよ。足を上げて……」 スカートが汚れないように裾を上に捲くり、に左足を上げさせて腰を落とす。も少し右へ身体を捻って、書棚に手を掛けてコンラッドが入れやすいようにと態勢を変える。 「ん……」 蜜口を何度か先端で擦り、コンラッドのものも少しでも濡らしてから、ゆっくりとの中へと埋めていく。 「……っ……あっ」 眉を寄せ、押し付けられた書棚に縋るように掴む指が白くなるまで力を入れている様子を見て、コンラッドはの頬を撫でて目じりにキスを落とす。 「……痛い?」 「へい……き……」 そう気丈に答えるものの、は立った状態ですること自体が初めてだし、普段は理性が蕩けるくらいまでコンラッドが全身を可愛がってから始めるし、色々ときついだろうと思う。 コンラッドが下から支えているとはいえ、右足だけで立っているのもつらそうで、いっそのことと、コンラッドは更に腰を落として、の右足もさらった。 「ひゃっ……ちょっ……!」 完全にコンラッドに抱え上げられた状態に、今度は身体を捻っていると不安定で、は慌ててコンラッドにしがみつく。 「コンラッド……!」 「大丈夫。落とさないから、俺に身体を預けて」 「で、でもっ……あっ!……んっ」 両足とも宙に上げられて、背中は書棚に押し付けられて、コンラッドに揺さぶられるままになるしかない。 「あ……預けてもなにも……」 何度も念を押されたように、コンラッドが入ってきたときは潤いが足りなくて引き攣れるように痺れて痛かったところが、段々と気持ちよくなってきた。 は何度も細い声を上げて、必死にコンラッドにしがみつく。 「全部持っていかれてから言われても、預けるしかないじゃないっ!」 「うん、だからは俺だけを感じてたらいいよ」 不平すらも嬉しそうに返されて、は涙を浮かべてしがみついたコンラッドの背中を握り締めることしかできない。 元より、落とされるかもなんて不安は、コンラッドを相手に持つはずもなく。 「や……あっ……あ、ダメっ」 突き上げられて揺さぶられて、震える手でコンラッドの制服を掴んでいたら、嬉しそうな微笑が耳元で聞こえた。 「、気持ちいい?中がすごく蕩けてるよ」 「ん……気持ち、いい……」 「じゃあ、このまま中で。いい?」 「うん……いい………」 耳元の甘い囁きに、深く考えることも出来ずに頷いてから、は瞑っていた目を開ける。 「って、え?」 コンラッドの肩に埋めていた顔を上げて目が合うと、コンラッドは輝くような笑顔で微笑んだ。 「つ、つけてないの!?」 「……さすがの俺もいつも持ち歩いているわけじゃないから」 「そ、それはそうだけど!持ってないならそう言ってよ!……っあ、やんっ」 半泣きになってコンラッドの肩を掴むが、揺らされるとまたしがみついてしまう。 「外に出すと服を汚すし」 「でもっ!」 「外に出すだけでは、しっかりした避妊じゃないからもう一緒だよ」 「え、笑顔で言わないでーっ!」 悲鳴を上げても、抱え上げられた足は空を切るだけだ。 逃げようもなかった。 |