男としての俺が嫌なんじゃなくて、今までの自分の行為が恥ずかしいのだという話を聞いて、本当に安心した。なにしろ男に嫌悪感を覚えたのだとしたら、それは生理的なものだけに、気持ちの整理をつけるのにかなり時間がかかるかもしれないと心配していたから。 「せ、せめて灯りを落として!」 ベッドに降ろすと上へ上へと逃げるを追いながら、出そうになった笑いを噛み殺す。 は意識していないだろうけれど、『絶対嫌だ』から、『灯りを落とす』まで条件が一気に下がった。 本当に、俺とのセックスが嫌なんじゃなくて、恥ずかしいだけだったんだなあと思うと、今までの寂しさや焦燥が消えて幸せな気分が込み上げてきた。 事、すべからく愛のせい(4) 「灯りを落とすなんてとんでもない。これはが羞恥心を克服する練習でもあるから」 「克服したいなんて言ってない!」 どうせ逃げ道なんてないのに、まだ上へと逃げようとするの足を掴んで引っ張り戻す。 端まで追ってもよかったんだけどね。 「いやぁだーっ」 「大丈夫、恐くない恐くない」 「恐いよ!」 「そんな怯えなくてもいいじゃないか。あらゆることとは言ったけど、痛いことはしないから」 「待って、今のは何の話!?余計に恐くなったーっ」 「俺はを鳴かせるのは好きだけど、泣かせるのは嫌だから、大丈夫」 「セクハラ発言ばっかりで既に泣きそう!」 があまりにも暴れるので、服を脱がせられない。仕方がないからスカートの中に手を入れて、下着の紐を解いてそれだけでも取り去ってしまう。 「や……っ」 手にした黒い下着をわざとの目に留まるようにしながら、俺の服のポケットに仕舞いこんだ。 「ちょっとー!?」 がそれを奪い返そうと、起き上がった俺に釣られたように跳ね起きて、胸のポケットに手を伸ばす。 その手を取って引き寄せて、ベッドの上で胡座をかいた膝の上にを乗せて抱き締めた。 「はい、ご案内」 「に゛ゃーっ!?」 「おや、チキュウの子猫の真似かな。可愛いなあ。ほらゴロゴロ」 「ゴロゴロは顎の下をくすぐるときでしょー!?なんでお尻を撫でるの!」 「の場合はこちらかな、と思って。じゃあ顎に」 「んぅ!」 まだ俺のポケットから下着を取り返そうとしているの顎の下に指を当て、上を向かせて唇を塞ぐ。 逃げようとするので後頭部に手を回して、顎に添えていた指はゴロゴロと猫にするよりも優しくくすぐる。 「んっ……ふ……!」 くすぐったいのか、恥ずかしいのか、くすぐるほどにが小さく跳ねるように震えるけど、唇も、自身も逃がしてあげない。 俺も散々焦らされたことだし、お返しにのこともたっぷりと時間をかけて可愛がるつもりだ。 まずは、触れるだけのキスしか許してくれなかったことからかな。の口内を舌で隅々までなぶることから始めよう。 湿った音を立てて柔らかな肌に口付けを落とすと、触れた唇にも、身体を押さえる手にも小さな震えが伝わってくる。 息が上がるまで口内を舐めて、その間も身体中をまさぐり続けたら、唇を離したときにはもとうとう抵抗を諦めた。だけど見るに耐えないというように、目だけはしっかりと閉じている。視界を塞ぐと、触覚はより敏感になると思うんだけどな。 それも俺としては願ったりなので、今は特に目を開けるようにとは言わない。 どんな格好でも恥ずかしくないようになるためには、まず身体の隅々まで俺が目視していることを自覚してもらおう……ということで、最初は髪に、それから額に、瞼に、鼻に、耳に啄ばむように、だんだんとキスを下へ下へと落としていった。 背中の紐を解き服は手で滑り落としながら、下着の肩紐は口に咥え、わざと歯を肌に掠らせて肘まで運ぶ。 俺のどこか一部が肌を掠るたび、は小さく震えた。 どうしよう、今すぐ押し倒して鳴かせたい。 湧き上がる衝動を堪えながら、左も同じように肩紐を肘まで落とす。それから背中のホックを外す。 「あっ」 は目を開けて咄嗟に手で下着を押さえた。 「、手を外して」 「や……」 「だめ、外して。隅々まで見た証にキスをするって言っただろう?」 今までならここでの手を俺が外させた。今日は羞恥心の克服ということで、俺は手を出さない。 代わりに、身を屈めて胸の谷間にキスをする。 「……」 下着のラインに沿って谷間を舌で辿る。口付けをする。紅い跡をいくつもつけながら、それを繰り返す。 「ふっ……ぅ……」 は息を詰めながら唇を噛み締めて、だけど下着を押さえていた手は段々と力が緩んでいく。 の胸から顔を上げて、羞恥に潤む瞳を見詰める。 「手を、外して」 戦慄くように唇を震わせながら、の手が胸から降りると指先を追うように黒い下着がの肌を滑り落ちた。 「よくできたね」 手首に引っ掛かっている肩紐を指先で摘み、やっぱりその摘んだ爪先をの肌に掠らせながら手を抜いた。肩紐を抜くと、拳を握り締めようとする掌を掴んで指を伸ばさせて、指先にキスを落とす。 細い腰を抱き寄せ、再び肩まで戻って唇を押し付けながらシーツの上にゆっくりとを横たえた。 「じゃあもう少し下まで降りよう」 腰で留まっていた服を更に脱がせながら、その手の動きに合わせて唇もの肌の上を滑らせて降りていく。柔らかな乳房の形に沿い、その頂は僅かに掠めるだけで口には含まず……そのまま更に下へ。 腹部を舌で辿りながら目線を挙げると、は震えながらシーツを握り締めていた。 俺が押さえつけているわけではないのだから、もう一度その腕で胸を隠すこともできたはずなのに、そんなことも考え付かないのかただシーツを握り締めるだけだ。 そんな必死な様子が可愛らしくて仕方がない。 そのまま服を下ろしていくと、そこに何もない骨盤に指先が触れて、が気付いて慌てたようにぎゅっと下ろしかけの服を握り締めた。 「ダ、ダメっ!」 下着は先に脱がせているから、ここにあるはずだった紐がない。服を脱げばすべてが見えてしまう、というわけだ。 「なら、ここは後で」 「あ、後なんてないもん!」 少しだけ見えていた腰骨の横にキスを落として、一度身体を起こすとの足先まで位置をずらす。その爪先に軽くキスをすると、掴んだ足が震えた。 唇を、今度は上へと滑らせて行く。脹脛を過ぎてちらと視線を上に向けると、服を押さえつけていた手は既に押さえるためではなく、単に服を握り締めるだけになっている。 膝を通り過ぎて更に上へと上がり太腿に差し掛かり……そこで唇を離した。 「、自分でスカートを上げるか、服を脱ぐか選んで」 そこがスカートの捲れ上がった裾のある位置だったからだ。 「え……」 「俺は、見えたところにしかキスしないから」 「そ……っ」 驚いたように何かを言いかけたは、すぐにぎゅっと唇を引き結んでスカートの裾を握り締める。 自分で脱ぎたくないなら、ここまでは脱がせておいてと言えばいいのに、それに気付いていないのか、そう言えば脱がせろと自分で望むのも同然だとそちらに気付いたのか、どちらにしてもは服を握り締めたまま、紅く染めた頬で目を潤ませて押し黙る。 俺は身体を起こして、そのの羞恥に頬を染めた顔を見つめて微笑みながらスカートの裾に沿って、太腿を指先でなぞるだけだ。 「裾を捲る?それとも服を脱ぐ?」 人差し指と中指で、の肌の上を歩くように交互に前へ出しながら微笑みかけると、は怒ったように俺を睨みつけたけど、涙が浮かんで快楽が見え隠れしているようでは少しも恐くない。 右手はその裾の境界線を辿り続け、左手は服で隠れた部分を飛ばして再び腹部に触れる。 指先を肌に滑らせ、なだらかな曲線を描く乳房へ上ると、その頂には軽く触れただけですぐに離れる。その周囲をなぞるだけで再び触れようとは、しそうでしない。 「それとも、朝までこうやって晒したところの肌を楽しむだけでも、俺はいいけど?」 本当は、まったく良くない。良くはないがここが我慢のしどころだった。それは思ってもみない案だったようで、が目に見えて動揺する。 よかった、ここで我慢比べを仕掛けられたらかなり辛かった。 太腿を辿る指先を、わざと少しだけ裾の下の潜らせた。 は戦慄く唇を噛み締めて、俺から視線を外してそっと裾を上げる。そういう羞恥に耐える様子がどれだけ俺を煽るのか、もう少し勉強してもらいたい。 これが計算だったら末恐ろしいけど、に限ってありえない。 が裾を上げたところまで指で追い、先ほどまで隠れていた指が通り過ぎた辺りにキスを落とす。 「もっと上まで」 掌で太腿を擦るように撫で上げると、もう少し裾が上へと上がる。 「あと少し上に」 もうかなり上まで捲った裾に、あと少しでその下の秘所が見えるというところで、は涙を零して首を振った。 「できないよぉ……」 の泣き顔はとても可愛いけど、悲しそうな顔をされると弱い。 鳴かせるのは好きだけど、泣かせるのは苦手なんだ。 「……どうしても?」 が涙ながらに頷いて、仕方なしに身体を起こしてベルトを外す。 下衣の中でかなり窮屈にまだ押し込めたままだったそれを取り出して、を抱き起こして俺の膝の上に座らせた。 捲っていた裾が降りてその下は見えなくなったけれど、取り出した竿をの太腿に擦りつけるようにする。 「あっ……」 「が入れてくれないか?」 「え……っ」 「ね?の中に入りたい……」 指先で顎をくすぐりながら首筋にキスを落とすと、がぎゅっと俺の頭を抱え込む。 そのまましばらくは震えていたけど、やがてゆっくりと腰を上げ濡れた入り口に先を当てた。 だが腰を落とすと、中には入らず蜜口を擦るようにして僅かに先端がずれた。 「ひっ……や……だ…………ずれ…ちゃ…う……」 先端が擦ったせいか、がより強く俺の頭を抱えた手に力を入れた。 「腰は支えてあげるから」 砕けそうになる腰に腕を回して支えると、はもう一度震えながらチャレンジして、また失敗した。 「も……む……り………」 俺に抱きつきながら、耳元で甘い声でおねだりをしてくる。 「コンラッドが入れて……」 俺だって早く入りたいのが本音でつい、いいよと言いたくなるのをぐっと堪えて、腰を抱いたまま背中をさする。 「俺のを手で握って。ずれないように」 「ん……」 もう辛くて仕方がないのか、は言われるままにスカートの裾から手を入れて立ち上がった俺の中程を握る。 「入り口に当てて……大丈夫、腰はおれが支えてるから……そう、ゆっくり降ろして」 「あっ……ふ……ぁっ!」 「そのまま……ああ、の中、気持ちいいよ……俺をどんどん飲み込んでる。にも判るね?」 手を当てていた中程まで俺を飲み込むと、は裾から濡れた手を出して俺のシャツを握り締める。 「、言って。今どうなってる?」 「う…ん………は……いって……くる……」 背中を上から下へと何度も繰り返し撫で下ろすと、それに導かれるようには更に腰を落としていく。 「ふぇ………も、いっぱい……だよ……」 「まだ入るよ、ね、俺をもっと奥まで入れて」 「ん……」 震えて息を切らせながら、は俺の膝の上に完全に座るまで自分で腰を落とした。 「入っ……」 「うん、全部入った」 膝の上で、震えてシャツを握って俺を見上げるに微笑みかけて頬にキスをする。 ぎちぎちと痛いほど締め上げられるのが嬉しくて仕方がない。 「でも、もうちょっと奥まで入るよ」 「え……?」 に自分で選んでもらうために随分我慢したから、俺ももう限界だ。 少々乱暴だったが、の腰を抱いてそのままベッドに押し倒す。 「あっ!やんっ」 動いたのが刺激になったらしく、の手が俺の背中に回ってシャツを握り締め、俺はの膝の裏に手を入れると胸に折り曲げるくらいまで押し上げる。 「あっ、あっ、あぁ……あっ……やっ!」 より深くを抉るようにの呼吸に合わせて突き上げて、そのたびにが強く締め付ける。 「コンラッド……コン……ラッ……あっ、も、いやっ」 「いいよ、達って。、可愛い……」 「ああ……っ!」 髪を撫でながら頬にキスをして、震える細い身体を抱き締める。 しばらくその身体を抱き締めて、小刻みの痙攣が治まるのを待った。 「……コンラッド……は?」 浅い息の合間から、俺を気遣うように見上げるににっこりと笑顔を見せる。 「あらゆることをしようと言っただろう?」 「………え?」 快楽を滲ませていた瞳が、一瞬で丸くなった。 「はい、万歳して」 不意を突かれたせいか、は反射のようにシーツに埋れたまま素直に両手を上げて、俺は抱いていた細い腰を浮かせながら残っていた服を脱がせた。 「んっ……」 繋がったままの行動に、が小さく声を漏らして目を閉じた。そのままの身体を反転させてうつ伏せにする。 「や……」 入れたまま捩じれたせいで、吐精しそうになったところを、グッと堪える。も体位の変更の刺激で、俺が耐えていた間に気付かなかったようだ。 瞬間の絶頂を耐え切ると、目の前に広がる滑らかな肌の背中を撫で上げる。そこでようやく今の体勢に気付いたのか、は驚いたように身体を捻って俺を顧みる。 「ちょ……これ……!?」 「うん、が恥ずかしくて仕方がなかったという体勢だね」 「ど……どういう……!?」 目を白黒させるに笑顔で応える。 「だから、ありとあらゆることを試しておこうよ。そうしたら俺との間に恥ずかしいことなんて、もうなくなるから」 「い……」 の目に、恐怖の色が浮かんだのはきっと気のせいだ……ということで。 ベッドに落ちかける腰を上に持ち上げると、いよいよが嫌だと言っていた体勢だ。はベッドに伸びていた手で前へ這って逃げようとするけれど、まだ身体は弛緩していて力は入ってないし、俺が掴んだ腰を離すはずがない。 「頑張ろうね、」 持ち上げた腰からベッドに伏せる胸まで、なだらかな曲線を描くその背中に口付けを落とす。 「いやあぁぁーっ!許してーっ!」 を鳴かせることは、本当に好きだと再確認した夜はこうして更けて行った。 |