わたしだってコンラッドに逢いたかったし、傍にいることができたら嬉しいのは本当なの!
だけど今は事情があってあんまりエッチとかしたくないなーって……キスはしたいけど……。
で、でも夜に二人きりになったらコンラッドのことだから絶対それ以上までしようとするし!
再会して五日目、いつもこっちに帰って来たらすぐにしようと言うコンラッドが、今回はどうしてか待ってくれていたけど、そろそろ強引に部屋に押し入ってきてもおかしくない。
……と思ったら、どれほどおかしいと思われようと我慢できずに逃げ出してしまった。
部屋に入ってほっと一息ついたのに、廊下から有利のとんでもない悲鳴が聞こえてきて堪らずドアを開けてしまった。
そうしたら、有利もコンラッドも廊下で膝を抱えてしゃがみ込んで頭を突き合わせていた。
人の部屋の前でなにやってるのよ!



事、すべからく愛のせい(3)



廊下の二人を怒鳴りつけると、有利はまるで幽霊とかゾンビが現れたとでもいうように、尻餅をついて後ろに逃げるし、コンラッドは笑顔でドアに手をかけるし……え、ドア?
「よかった、から開けてくれて」
「あ!」
慌てて閉めようとしても、もう遅い。ノブを握って引っ張ってもドアはびくともしない。
「そんなに必死に逃げなくても」
「だ、だって!」
「大丈夫、今ユーリから話を聞いたから、いきなり変なことはしないから」
「……話って……」
コンラッドが、わたしで何か想像してるとか聞こえたんですけど!?
よく有利にそんな話ができると、いつもなら怒ってコンラッドを止めてくれるはずの有利のほうを見てみると、もう廊下の向こうまでこっそりと移動していた。
「ちょっと有利!?」
「ちゃんと話し合え、ちゃんとー。じゃ、じゃあコンラッド、あとは……」
「ええ、ゆっくり話し合いたいと思います」
ちゃっかりと、いつの間にかコンラッドは横に並んで身体半分を部屋に入れている。
「待って有利!」
今二人きりにされたら、コンラッドがどんなことするか判らないのにっ!
有利はわたしたちがまだ健全なお付き合いをしていると思っているからなのか、夜にコンラッドが部屋に入ってくるというのに、止めもせずに逃げてしまう。
「誰のせいでこんなことになったと思ってるのー!」
有利は、慌てて廊下の向こうの自分の部屋に引っ込んでしまった。
途端に廊下が静かになる。
「……コ……コン、ラッド……?」
逃げ続けていた身としては、沈黙に耐え切れない。そっと声をかけつつ振り返ると、意外なことにコンラッドはわたしから一歩距離を開けて両手を上げて立っていた。部屋には完全に入っちゃってるけど。
「今は触られたくないかなと思って」
またまた意外な言葉に目を瞬いてしまう。
「え、そんなことないよ」
むしろコンラッドには触りたいくらい……と言いかけて慌てて口を噤んだ。あ、危ない、そんなこと言ったら即ベッドへ連行されてしまう。
「そうなの?」
コンラッドも意外らしく、驚いたように瞬きをする。
「あの……え、えっと……コンラッドの傍にはいたいけど……」
本当は、やっと久しぶりに逢えたんだからもっと傍にいたいし、いちゃいちゃもしたい。
けど……。
「その……今は……エッチがしたくないの……」
だから逃げ回っていたのよ。コンラッドといちゃいちゃするには有利の傍じゃないことが前提だし、でも有利がいないと……コンラッドはどんどん先に進もうとするし。
ドアを開けたままこんな話はどうかと思うけど、恐くて密室状態になりたくない。開けたままのドアにもたれてそう言うと、コンラッドは困ったような表情で首を傾げた。
「やっぱり、男は野獣に見えるとか……」
「え、どうして?」
何の話だろうと首を傾げると、コンラッドも訳が判らないというように首を傾げる。
「だって、ユーリが持っていた淫らな本を見てしまったから、俺を避けていたんじゃないの?」
「それはそうなんだけど!」
そんな直球でこられるとは思わなくて、真っ赤になってコンラッドから目を逸らす。
本当に、あんな本見なければよかった。
……だってまさか……後ろからとかだとあんなに丸見えだと思わなかったんだもん。
今まで、エッチのときに自分がどんな格好してるとか、気持ちの上では恥ずかしくても、どんな風に見えるかなんて具体的には判らなかった。
本に載ってた写真のようなあーんな格好もこーんな格好もさせられていて……でもあんなのだとは思わなかった。しかもなんというか……結構グロテスク。考えてみればあれって内蔵の入り口なんだもん、はっきり見えたら気持ち悪かった。
今までコンラッドにあんなの見られてたの!?
今更と言われようとなんだろうと恥ずかしいものは恥ずかしい!
あんなポーズを平気……ではなくても、コンラッドの前でしてたなんて、穴があったら入りたい!
……ということで逃げてたのに、どうしてそこで男が野獣とかいう話になるんだろう。どちらかというと、むしろ自分がケダモノみたいで恥ずかしいという話なのに。
噛み合わない話にコンラッドから逸らした目を床に向けて考えていたら、正面からもふむと考えるような声が聞こえた。
「どうやら、俺は考え違いをしていたのかな?これはじっくり話し合わないと」
「ええ!?」
そんなじっくりだなんて、せっかくコンラッドが勘違いしてくれていたなら、そのままでいて欲しかった。どうもわたしに都合のいい勘違いだったみたいなのに……わたしの馬鹿ーっ!
逃げ出そうと身を翻した途端に、腕を掴まれて部屋に引きずり込まれた。後ろからコンラッドに抱きこまれて、片腕だというのにびくともしない。
「コン……っ」
無情にも、目の前でドアは閉められてしまった。
「今したくないーっ!」
「そのための話し合いじゃないか」
このまま寝室まで引き摺られるかと思っていたけど、ドアを閉めて鍵をかけてしまうとコンラッドはあっさりと解放してくれた。じりじりと後退りしても、閉めたドアにもたれて苦笑するだけ。
「へ、変なことしない?」
が本当に嫌がるならしないよ」
やっぱり両手を挙げて降参のポーズを取るコンラッドに、ようやく息をついてソファーを勧めた。でも話し合いって……何を言えと。


飲み物を出そうにも、もう寝る前だったから水しかない。お茶を淹れに行こうとしたら、そのまま逃げ出すことを警戒したコンラッドに止められたのでしかたなくテーブルには水が二杯。
「それで、はどうして俺としたくないのかな?」
やっぱり……そんな直球な話になるよね……だってそれしか嫌がってないわけだし。
今まで自分がどんなケダモノな格好をしていたのか知ってしまったから……。あまり自分の口から言いたくない。
「コ、コンラッドはどうしてだと思ってたの?」
ずるいけど、先にコンラッドの勘違いとかいうのを聞いておきたい。そこから別の上手い理由を捻り出せないかと質問返しすると、コンラッドは苦笑して膝の上で指を組んだ。
「ユーリみたいに純情な男でも、入手しにくいような物を努力して欲しがるほど、男の欲望が強いと知って、俺の男の部分に嫌悪感があるのかな、と」
「嫌悪感だなんて!」
「うん、どうやら違うようだね」
コンラッドを嫌ってなんていないと慌てて否定すると、本人もにっこりと笑って頷いた。
「先ほどユーリから話を聞いた時はそう納得しかけたけど、それなら昨日までおやすみのキスを拒まなかったことと矛盾すると、今気付いた。はセックスそのものだけが嫌みたいだね」
「はう……」
段々逃げ道がなくなってきた。コンラッドの勘違いはとっても無難で、それに飛びついておけばしばらくは時間が稼げそうだったのに……。
「それで、はどうして嫌なのかな?」
「それは……」
再びコンラッドから目を逸らし、右を見て、左を見て、膝の上に目を落として、指先を捏ねる。
「……ひょっとして、今までも俺のために、嫌なのを耐えていた?」
「そんなことないっ!」
弾かれたように顔を上げると、心配そうなコンラッドと目が合った。
どんなに恥ずかしくても、それだけは否定しなくちゃとぎゅっと手を握り合わせる。
「それは……た、多少強引だと思うことはあるけど……コンラッドといやいやしたことなんて、一回もないよ。それだけは絶対にないの」
コンラッドの目を見てはっきりと首を振ると、心配そうな表情を崩して微笑んでくれた。
「よかった」
嫌だったことはないと判ってもらえてほっとすると、コンラッドは微笑みはそのままに少し身を乗り出してきた。
「じゃあ、どうして今は駄目なんだろう?」
……もちろんそこに帰るよね。
このまま誤魔化し続けられるものでもないし……他にいい言い訳も出てこない。
諦めて、正直に話すしかなかった。


しどろもどろで理由を説明するほどに、コンラッドの顔に呆れたような色が浮かんできて大層辛かった。
ええ、今更だってことは、わたしも重々承知しています。
「つまりは、後ろからは嫌だと……」
「そういう限定的なことじゃなくて!」
こんな話を差し向かいでしていること自体が痛い。
「じゃあ正面から正常位で……」
「その格好もヤなの!」
「座ってなら?対面で……」
「だからそういうことじゃなーいっ!」
明るい部屋で、おまけに真顔でどんな体位ならいいかなんて聞かれてどう答えろと!?
組んだ手に顎を置いて真面目に訊ねてきたコンラッドは、癇癪を起こしたわたしに苦笑して手を解いた。
「軽い冗談だよ。の話を総合すると、俺の目にがどう映っていたのかがはっきり判ってしまったのが原因なんだろう?」
「そう!そういうこと!」
正解とばかりに掌でテーブルを叩いて正解者を指差すと、コンラッドはひとつ頷いて立ち上がった。
「そういうことなら」
「し、しばらく待ってくれる?」
「荒療治しかないと思うんだ」
「どうしてそうなるのー!?」
ベッドに連れて行かれてなるものかとソファーの肘掛けに慌ててしがみつく。
「だってしばらくって、自身でどれくらいで思い切れるようになるか、大体でもいいから予測がつく?」
「それは……その……で、でもずっとってわけでは!」
「だったら今でも一緒だよ。それよりいっそのこと、あらゆることを試してみるといいんじゃないかな。ほら、そうしたらもうどんなことだって恥ずかしくない。大丈夫、久しぶりだから俺も回数をこなせるし」
「あらゆるって何!?いいいい嫌だ!絶対に嫌だっ」
おまけに久しぶりだからなんて言われたら余計に恐い!
テーブルを回り込んできたコンラッドは、もうこれこそ恋人だと言わんばかりにソファーに抱きつくわたしに、上からいい笑顔で覆い被さってきた。
「ちょっと!」
「じゃあまずは椅子を使ってできることから始めようか。はそのままでもいいよ」
スカートの中に手が入ってくる。
「う、嘘!本当に!?ややややヤダーっ!本当に嫌がるならしないって言ったのにっ」
「うん。だから、本当に俺に触られるのが嫌ならしないと言ったんだよ。恥ずかしいだけなら、いつものことじゃないか」
「でもイヤなのーっ!」
「気持ち悪いとか、吐き気がするとか?」
「それはないけど……」
スカートの中の手を押し返そうとしながら、コンラッド相手にそれはないとつい正直に言ってしまったら、コンラッドは笑顔で軽々とわたしを抱き上げた。しまった!両手を肘掛けから離してた!
「それなら大丈夫。すぐにもっと恥ずかしいことをして欲しくなるようにしてあげるから」
「ならないっ」
懸命にコンラッドの腕から逃げようと暴れても、活きのいい魚を抱える釣り人みたいに、しっかり胸に抱き締められて、そのまま寝室まで連行されてしまいました……。






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