有利の名前を出したらコンラッドが硬直したので、安心して笑っていたのに、急に喉の奥で声が詰まった。 「…………コンラッド」 「なに?」 それなりに広い湯船の中で、こんなにも隙間なく抱き合って密着しちゃって……確かにそう密着なんてしちゃってるんですが。 ……密着なんてしてるから、お、お腹の辺りに硬いものが……。 「そ、そろそろ上がろうか!?」 声が裏返った! わたしが気付いているのはバレバレで、コンラッドは困ったように眉を下げた。 「うーん、でもさすがにこれで廊下は歩けないな」 ごもっとも。 唇から魔法、指先から愛(5) 「に先に部屋に帰ってもらおうとかとも思ったけど、髪の色を落としてしまったから、一人で動いて欲しくないし……」 髪の染料を落としたがったのはコンラッドだけど、そういうことはサラリと流してしまう。 ……コンラッド、さすがだわ。 「それよりも話の合間に……髪や額や頬にキスするのは……やんっ、ダメっ」 軽く当てられた指先に顎を持ち上げられて、コンラッドが頬に唇を押し付けてくる。 腰に回った腕ががっちり抱き締めてくるから逃げることもできない。 「なにかの拍子でもその気になってくれないかと思って」 「こ、ここで!?」 「まあ、そうなるかな」 「む、無茶言わないでよ!誰か来たら……」 来ない。ここは貸切なんでした。 「で……で、でも」 「うん。だから、は先に上がって待っててくれるかな?すぐ済ませるから」 ちゅっとわたしの額にキスをして、コンラッドは脱衣所のほうを指差した。 「済ませるって」 どうするの、と思わず下を見てしまう。わたしってバカなんじゃないかしら。 どうせ薄暗いからお湯の中は見えないんだけど、それでも! 「」 コンラッドが困ったようにわたしの顔を上げさせて、今度は髪にキスをした。 「それは……がしてくれたら嬉しいけど、そんなこと無理だろう?気にしなくても、が着替えている間に追いつくから」 「え、そんなに早く終わる?」 「…………………………」 し、しまった……沈黙が痛い。 引きつったコンラッドにどう言おうと、しどろもどろでフォローを考える。 「だ、だって!いつもコンラッドってしつこい……じゃなくて、ほら、長いし!……じゃなくて、えーとえーと……」 何か言うほどにコンラッドが青褪めてくる。こうなると今更黙るほうが気まずくて、必死に別の言葉を探してひらめいた。 「強いし!あ、そう、これだ!」 「……」 青褪めたコンラッドの大きな手で口を塞がれた。 「先に上がっててくれ……」 どれを取っても失敗でした。 言われた通りに先にお湯から上がって脱衣所に向かったものの、振り返ると湯船の中のコンラッドは肩を落として落ち込んでいるように見える。 想像するのもなんだけど、あの項垂れたコンラッドを見ていると、わたしが出て行った後に、ここで非常に寂しい光景が広がるような……。 しばらく唸って考えたけど、哀愁漂うコンラッドの背中が気になる。 それにちょっと誤解があるような気がするけど、しつこいっていうのは全体的な拘束時間のことだし、長いというのはコンラッドが言ってたみたいな片手間で終わる早さじゃないと思っただけで……い、一緒なのかしら。でも不満を言ったわけじゃないんだけど。 脱衣所のドアと、湯船のコンラッドの背中と、両方を往復して見て、決心を固めてもう一度湯船に戻った。 わたしが戻ってきたことに、気付いているはずなのに振り返らないコンラッドの肩を人差し指で恐る恐る叩いてみる。 「どうかした?」 う、振り返ったコンラッドの表情に元気がない。 気分的にはそんなに盛り下がっているのに、まだ廊下を歩けそうにはなってないんだ、とか思ってしまった。ごめんなさい、コンラッド。 「上がって」 「?」 「いいから」 右の二の腕を両手で掴んで引っ張ると、コンラッドはかなり迷ってから立ち上がった。 「………こ……こっち」 つい下を見て、口ごもってしまった。だって何か覗いてますよ!? コンラッドの水着って絶対犯罪的だわ。 わたしがいると歩きづらそうなので、洗い場から椅子を湯船の近くに持って来る。 「コンラッドはそこに座って」 「……まさか」 「いいから!」 ぐいっと下に腕を引いて、コンラッドを椅子に座らせる。 皆まで言わせるな!恥ずかしいでしょ!? 戸惑うコンラッドの半端に開いていた膝を両手で割って、その間に身体ごと入り込むと、すぐ目の前で正座した。 し、心臓が破裂しそう。 ドキドキとうるさい胸を一度押さえて、コンラッドの水着に手をかける。 「、ちょっと待った」 「黙って」 戸惑うコンラッドの制止する手を叩いて払って、水着を下にずらす。 しまった、脱がせてから座ってもらったほうがよかったかしら。 窮屈そうに出てきたそれにそんなことを考えて、なんだかいつもと立場が逆だと思わず項垂れた。 我ながら信じられないほど大胆なことしてますよ!? 「、無理はしないでいいから」 わたしが項垂れたせいで勘違いしたらしいコンラッドが手で隠すようにして遮ったから、その手をどけて、もう硬くなってきているそれを両手で握り締める。 「っ……」 「わたしがするから……」 「いや、でも」 「したことないから下手だけど、頑張る」 「え……?なっ……待っ……!」 握っていた手を下に滑らせて、先端に舌を這わせたらすごい力で頭を押し返された。 「痛いっ!首痛いっ」 「あ、ご、ごめん……いや、そうじゃなくて、な、なにを!?」 非常に珍しく、コンラッドが判りやすく動揺している。 「何って……その……口ですると……気持ちいいんだって聞いたから……」 それまで焦って動揺していたコンラッドが、急に真顔になった。 「誰に?」 「え?」 「今、『聞いたから』って。誰にそんなことを……まさか」 「ビデオだけど……」 友達から録画した映画を借りたら、向こうがお兄さんのビデオと間違えてただなんてベタなボケをやってくれたもので、あのときは家族がみんな留守で本当によかった。 一旦すぐに停止したものの、あの頃はまだコンラッドとは足踏み状態だったので、つい後で何か役立つかと見てしまっただけのことで……。も、もちろん早送りで。 まあ……後学どころかびっくりしてあの時は余計に怖くなったものだった。 今となっては、あれがどれほど作り物かはよく判るけどね。 ちょっと遠い目をして思い出していて、ふとコンラッドの変な言葉に気がついた。 「コンラッドこそ……『まさか』って…………まさか有利に教わったとか思ったの?」 「………いや」 そんなことを言いながら、口元を押さえてどこか遠くに視線をそらす。 「いくらなんでもこんなの兄妹で教え合わないでしょ!?」 ヴォルフラムじゃないんだから、コンラッドまで変なこと疑わないでよ! 「う……いや、ごめん……」 謝ったところをみると、やっぱり有利とこんなことしたと疑ったわけね。 ……コンラッドのバカ! 憤慨したけど、この騒ぎでも手の中ではまだ元気なまま。 ここでやめるわけにもいかず、埒があかないと、コンラッドの動揺は無視してそれを口の中にゆっくりと含む。 「!だから……そんなことまでしなくていいから」 さっき急に押し返されて首が痛いと抗議したからか、コンラッドは戸惑うだけで今度は実力行使には出てこない。それをいいことに最後まで口に含もうとしたけど……無理でした。 「んぐ……」 途中で喉につっかえる。 仕方がないので進むのはそこまでにして、少し下がって、また降りてを繰り返す。 いざ始めてみると、なんだかものすごく単調で、本当ならもっと色々やれることがあると思うんだけど、何をどうしたらいいのか判らない。 ……だって、ビデオって肝心なところが見えないんだもん。見えたら気持ち悪くて見てられなかったと思うけど。 「……ん……」 困ってしまってコンラッドの希望を聞けたらと、少しだけ口に含んだまま目だけで上を窺う。 その途端、コンラッドは驚いたように目を見張って、今度はわたしの両肩を掴んで後ろに押し返した。 |