「い……や……っ」 身を捩って逃げようとしても、コンラッドはそれを許さない。 の腰を抱き寄せ、胸に顔を埋めて至るところにキスを落としては赤い刻印を残していく。 普段から、コンラッドがこの跡をつけるのは胸であったり内腿であったり、ちゃんと服を着ていれば見えない位置に配慮をしている。 以前、身体のあちこちに散らした跡を指先で辿りながら、つけた本人のくせにコンラッドは苦笑して肩を竦めていた。 「俺もたいがい、独占欲が強過ぎて困ったものだな。絶対にを俺から自由になんてしてあげられない」 あのときは、も幸せだった。 疲れて気だるい眠気を纏いながら、くすくすと笑ってコンラッドの胸に頭を預け、その逞しい身体に寄り添って鎖骨の上にお返しのキスマークを一つつけた。 「わたしだって、離してなんてあげない」 精神安定剤(5) だけど今、あんな風に笑い合ったことがまるで嘘のようだ。 コンラッドはの身体を乱雑に暴こうとするだけで、ちっとも話を聞いてくれない。 「お願い……やだぁ……」 その上ここは窓際だ。手を縛られて繋がれた窓硝子がガタガタと音を立てて震える。 「こんなのやぁ……こんなとこでなん……て……」 「そんなに嫌?」 当たり前のことを聞かれて、は驚いて胸から顔を上げたコンラッドを見下ろした。 コンラッドは己の唾液で濡れた頂を、指先で転がしたり摘んだり軽くいじりながら、首筋に顔を埋めて強く吸う。 「あっ……や……」 そんなところに跡をつければ、服を着ても見えるだろう。ただ人と会うだけでもコンラッドと何をしたか、宣伝するようなものだ。 「やめて、お願いやめて!……んっ……」 腰を抱き寄せていた手が下へと滑り、尻を撫でながらスカートの裾をたくし上げていく。 「ほらね、そんなに嫌がっているのに、逃げることもできない。だから男にはちゃんと警戒しなさいと言ってるんだよ」 「こ、こんな酷いことする人、コンラッドしかいないよっ!城の人はみんなやさし……いやっ……あっ、やだっ」 スカートを完全に上げられて、下着の紐を解くことなく薄い布の上を指先が辿る。 「いやっ、お願い!外から……み、見えちゃう……」 「それはまあ、見せつけるためにやってるわけだし」 布の脇から指先が入ってきて、は窓枠に繋がれた手を握り締めた。 「俺だって、感じて乱れたの淫らで可愛い表情は俺以外の誰にも見せたくないよ。だから後ろ姿だけ見せるんだ。この長い黒髪はしか持たないからね。後ろ姿だけで誰にでもだって判る」 まだ濡れていない場所に指先が触れて、血の気が引く。 コンラッドは本当にする気だ。 このまま、ここで。 誰に見られても構わないと……見せつけたいと。 蒼白になったに、コンラッドはキスを落としながら苦笑した。 「濡れてないね、緊張してるのかな?大丈夫、無理やり入れたりしないよ。の中は狭いからそれじゃ入らないし、何よりに感じてもらわなくちゃここでする意味がないからね?」 その優しくない笑みに、喉が鳴って、涙が零れ落ちる。 「う……ぇ……」 だがそれは年頃の少女が零す涙というよりは、まるで子供が泣くように……あの時の迷子のように、恥も外聞もなく大声で。 「うわぁぁぁんっ!」 今は両手を縛られて顔を隠せないとはいえ、普段は泣く時いつも俯いて泣き顔を見せないようにする。それは年頃ともなればそうだろう。 なのに今は、上を向いて泣き顔を見られようと構わない……構えないくらい必死に、子供のように大声で泣きじゃくる。 「あ……、、ごめんっ」 嫉妬と焦燥に焦れていたコンラッドもこれにはさすがに我に返り、驚いて両手を引いた。 を宥めようとして、泣かせた原因が触れていいものかと両手を上げ下げして迷う。 かなり戸惑ってから、まず両手を自由にするべきだったと気がついて慌ててリボンを解く。 自由になった途端、に両手で突き飛ばされた。 当然だ。それだけのことをした。 なのにショックを受けて、その強くもない力に押されて後ろによろめく。 「……」 それでもに向かって手を伸ばして……触れる前に、小さな身体の方から飛び込んできた。 予想外の急な行動に、体勢を立て直すことが出来ずの身体を抱いて床に尻餅をつく。 「…………?」 声をかけてもは両手でコンラッドの服を握り締めて縋りつき、首を振ってひたすら泣き続ける。 背中が剥き出しのままなのに、縋りつかれているから服を引き上げることもできない。 かといって、自分の上着も脱げないので、肩に掛けてあげることもできない。 困り果てたコンラッドは、自分の足の間に座り込んで泣き続けるを宥める意味と、少しでも体温が下がらないようにと、両腕で包み込むようにして抱き締め、背中を撫で続ける。 は強く縋りつくだけで、逃げようとはしなかった。 どれくらいそうやって宥めていたのか、の泣き声が少しずつ収まってきて、コンラッドはほっと息をついた。 同時に、これから何と言ってなじられるかと思うと自業自得なのに恐ろしい。 拒絶するように突き飛ばされて、ショックだった。 そのすぐ後に縋りつかれて、困ったのに嬉しかった。 だけどが泣き止んで、コンラッドも冷静になってくると、これは自分に縋りたかったのではないような気がしてくる。 この場に有利がいれば、有利に縋りついたのではないかと思ったのだ。 泣くのにただ、縋りつく人肌が欲しかっただけで。 しゃくり上げながら、はコンラッドの上着を握り締める。 その手首にはコンラッドが乱暴に拘束した跡が轍のようにくっきりと残っている。しばらくは消えないだろう。掴んで部屋まで引き摺ってきた右の二の腕も、指の形が赤く見える。 「……ごめ……」 「な、泣いて……」 謝ろうとしたら、しゃくり上げながらが上から言葉を被せてきた。 「泣いて、今、すごい……ぶさいく……」 「?」 何が言いたいのだろうと眉をひそめると、はぎゅっと強く上着を握り締めたまま、小さく呟くように続ける。 「すごい、顔して、る……けど、い、今、したい……って、言ったら……で、できる?」 「え……」 驚いた。したいって、できるって……つまり。 「許してくれるの……?」 「できるの!?できないの!?」 「で、できるよ」 「ほ、ホント?今、すごい、顔。ぜ、絶対……すっ、ごい顔……して、る」 「本当だよ」 「う、嘘だよ、ほんとに、ほんっとに、すごい、顔、だもん」 「じゃあ顔を上げて見せて」 「な、泣いて、目、赤いし、腫れてるし!……は、鼻だって、出てるし」 両手で頬を包んで、コンラッドの胸に押し付けていた顔を上げさせると、確かに自己申告は間違っていない。その上、頬も染まるどころではなく、泣いた赤ん坊のように真っ赤に変色しているという方が近い。 そんな風に、まるで子供が、赤ん坊が泣くように、を泣かせたのはコンラッドだ。 自嘲に苦く微笑んで、その瞼にも鼻にも頬にも唇にもキスを落す。 「がいいって言ってくれるなら、今すぐしたい」 「や……優しく、して。いつも、より……ずっと」 「うん」 「こ……こわかっ……た、から」 「ごめん」 謝ったら、はまた涙を零しながらコンラッドに縋りつく。 「わ、わたし、コン、ラッドじゃなきゃ……見せたく、ない」 「……うん」 「絶対、絶対、やだ」 「……うん」 「コ………コンラッド、だけのものなんだからぁ……」 「ごめん、……」 「コ、コンラッド、だけのものって…ちゃんと、証明して。ほ、他の人、なんて見せな……」 「うん……は、俺だけのものだよ……ごめんね……」 心の底から謝罪しながら、言われた言葉が、その心が嬉しくて、強く抱き締めて髪にキスを贈った。 昼間から、だが寝室の遮光性の高いカーテンを引いた部屋は薄暗い。 ベッドの下に二人の服は絡まりあって落ちていて、が乱れただけシーツも皺だらけになっている。 「あっ……や……も…ぉ……」 ぎゅっと眉を寄せ、強く目を瞑って、右手の甲に歯を立てて声を堪えていたは、左手で枕を握り締めた。丸まった足の指もシーツを引っ掛けて乱す。 コンラッドはすぐ耳元で自分の指が掻き回して立てる音を聞きながら、の内腿に強く口付けをして新たな跡を残した。 「ね……おねが……きて……」 「まだ……の全身を愛してから」 「だ、だって……も……ほしい……っ」 切なくすすり泣くに、コンラッドはようやく顔を上げて指を引き抜いた。 滑る指を絡めて微笑み、身体を重ねて今度は唇にキスをする。 耳元でコンラッドが湿った音を立てて指を絡めていて、は溜まらず首を捩った。 「やだぁ……」 「二回目は指じゃなくて俺ので達きたい?」 「……うん」 「今日は随分素直だ」 の髪を撫でて額にキスを落としながら腰を進めると、は小さく吐息を漏らす。 「んっ……」 「少しだけ入ったよ。判る?」 「やぁ……い、いじわるしないでぇ……」 コンラッドの背中に細い腕が回って、強く抱き締める。 「や……優しくしてくれる……約束でしょ……?」 「……ごめん、そうだった」 更に深くへ進入してくる圧迫感に、は息を吸おうと喉を仰け反らせる。 「あ……は、入ってくる……」 「気持ちいい?」 背中に回された手に込められる力でそれを知っていながら訊ねると、は小さく何度も頷いた。 「き……気持ちい……あんっ」 脇腹を撫で上げただけでもビクビクと震える細い身体を抱き締め、内壁を擦るようにして突き上げる。 「あっ、あっ……だめっ、まだ……やっ激し……っ」 「の中、凄く俺を締め付けるよ。達きそう?」 汗で額に付く髪を払ってやりながら微笑みかけると、は小さく喘ぎながらただ頷くことしか出来ない様子でコンラッドの背中に爪を立てる。 「や、やだ、も……」 部屋に響く交じり合う水音に、頬を染めながらコンラッドの耳に囁く。 「コンラッドも……」 「ああ、じゃあ一緒に。、もう少しだけ我慢してくれ」 繋がったところからの快楽が溢れ出て、あられもなく声を上げて縋りついてきて、その全てがいとおしく幸せだ。 「……愛してる……可愛い、俺の」 「ん……わ…たし、も……あっ……愛してるっ……ああっ」 愛を囁けば、息も絶え絶えになりながら必死に返そうとしてくれる。 強く幸福に満たされながら、コンラッドはの中で達した。 同時にというの希望通り、の中も一層強くコンラッドを締め付けながら収縮する。 「はっ……あ……キス、して」 求められるまま口付けを落とし、再び腰を少しずつ揺すり始める。 「んっ……あっ、ま……も、ダメぇ……いまイッっちゃ……ばか……り……」 「我慢できないよ……ね、もう少しだけ、の中にいさせて」 「そんな、こと……あっ、あっ…お、おかしく、なっちゃう……」 「いいよ、もっと感じて。乱れたを俺に見せて。俺にだけ、見せて」 は驚いたように息をつめ、それから小さく頷いた。 「……うん……コンラッド……あっ……だけが、見て……んっ」 不安定になるのはいつものことで。 それを安定させてくれるのも、いつもで。 こんなに淫らなの姿を見ることができるのは、二つの世界を含めてコンラッドだけなのだと思うと、それにまた満たされる。 この姿だけは本当に、誰も知らないコンラッドだけの。 「……もっと感じて……感じさせて……」 それからが意識を手放すまで、この焦燥と、そして強い執着を受け止めてくれる小さな身体を解放することができなかった。 |