は部屋に入ると、後ろ手で閉めた扉にそのまま背中を預けた。 シンプルな形の直線型のエプロンは、アニシナ特性ハートのエプロンのようにフリルなどついていないだけに、逆に少しでも動けばサイドのラインから微妙に素肌が見えてしまいそうだ。 無機質な扉に背中をつけてその冷たさに身体が震えたに、宣言どおりに上から下までじっくりと眺めていたコンラッドが気付いたように手を差し出す。 「おいで。寒いだろう?」 できることならこのまま逃げ出したい。 真っ赤になって、両手でエプロンを握り締めながらはゆっくりとベッドに近付いていった。 幸せについて各々の考察(6) エプロンの裾そのものは膝上十センチほどの長さにあるが、サイドがスリムなだけに歩くたびに、ちらりとエプロンの脇から肌が覗いた。そこはも心得ているらしく、できるだけ大きく足を動かさないように歩くことすら慎重だ。 「、顔を上げて。可愛い顔を見せて」 「恥ずかしいよぉ……」 「そんなことないよ。よく似合ってる」 「嬉しくない!」 ベッドに上がってきたは、エプロンの裾を握り締めて恥ずかしさに涙を溜めた瞳で窺うようにコンラッドを見上げた。 「そ、それでここから……どうすればいいの?」 「その前に寒かっただろう?おいで。暖めてあげるから」 そう両手を広げられても、その腕の中に収まれば当然エプロンの紐しか括ってない背中がコンラッドから丸見えになる。 背中だけならまだいい。その下まで見えてしまうのが問題なのだ。 いっそシーツを被りたいけど、それをしてしまうと恥を堪えて裸エプロンになった意味がない。 「じゃあ目を瞑っているから、向かい合うようにじゃなくて、背中を向けて膝に座って。それならいいだろう?」 ぐっと歯を噛み締めて恨みがましく見上げてくるに、思わず吹き出しそうになりながら目を閉じる。 ぴったりと背中をコンラッドにくっつけてしまえば背後も見えない。ゆっくりしていると逆にコンラッドが様子を窺おうと目を開けるかもしれないから、は素早くコンラッドの膝に座った。 すぐに後ろから両腕で包み込むように抱き締められる。 既にの手でシャツの釦を外していたから、背中をぴたりとくっつけると肌が直接触れ合った。 「やっぱりちょっと冷たくなってる」 音を立てて耳にキスをされて、ぎゅっと目を瞑って抱き締めてくる腕にしがみついた。 「すぐ暖めるよ」 しがみつかれて動きにくいはずなのに、の手はまるで飾りとでもいうようにコンラッドの両手はするりと簡単に両脇からエプロンの下に滑り込んでくる。 「ん………」 コンラッドの手は温かく、触れられるほどに確かに身体が冷えていたのだと実感する。 片手は胸を下から擦り上げ、片手は腹を滑り降りていく。 「あ……んっ……ま、待って……」 「なに?」 問い返しながら、コンラッドは少しも待たずに指先で胸の頂を軽く摘み上げ、耳朶に舌を這わせる。 「や……ぁ………ね……ダメ……」 与えられる刺激に吐息を漏らしながら、はコンラッドを顧みるようにして見上げた。 「こ、これじゃいつもと一緒だよ……?」 「じゃあいつもと違うことしようか?」 「ん……」 恥ずかしい思いを押してまでこんな格好をしているのだから、いつもと同じことをしているだけなら意味がない。今日はコンラッドに刺激を感じてもらうことが目的なのだ。 の心臓は、恥ずかしさとこれから何を要求されるのかという不安でドキドキとうるさいぐらいに高鳴っている。 滑り降りていた手がエプロンの下から抜け出して、の右手を取った。それをどうするのだろうと思っていると、コンラッドは握り締めた右手を口元へ運び手の甲にキスをする。 「あの……」 「手でしようか?」 「えっ………!?あ………う、うん……」 コンラッドのなんて初めて触る。触るどころかまともには見たことだってない。 頑張ろうと膝から降りようとしたら、後ろから抱き締められた。 「降りなくていいよ。やったことないだろう?俺が一緒にして教えてあげるから」 「え?う、うん、初めてだけど……でも降りないと触れない……」 コンラッドに取られた右手は導かれるままにエプロンの裾を潜った。 指先が触れたのはコンラッドの身体ではなく、コンラッドに愛撫されてもう少し湿り始めているところ。 「え、ちょ……」 「一人でしたことない?」 「ないよっ」 「やっぱり。じゃあ俺が教えてあげるから。ああ、もうちょっと先に濡らした方がいいね」 指先がコンラッドに動かされて、少し上の小さな突起に移動する。 「んんっ……あ……いや……」 風呂で身体を洗っているわけでもなく、恋人とベッドの上にいるのにこんなところを自分で触ることになるなんて、想像したこともなかった。 力を入れて手を押し下げようとしても、ぴったりと重ねられたコンラッドの手がそれを許してくれない。 「ね……や…だぁ……おね……がい……やめ…」 「気持ち良い?じゃあ左手は胸を触ってごらん。こうやって」 コンラッドはいやいやと首を振るの左手を取って、一緒に重ねた手をエプロンの脇から差し入れた。 「胸はね、強弱をつけて揉んでみるといいよ。最初は優しく撫でるように、それから強く掴むように。ね、ほら、ここ。硬く尖ってる。もっと指先で可愛がってあげようね」 耳元で息を吹きかけるように卑猥なことを囁かれて、羞恥に身体が震える。 コンラッドに握り込まれた指先は、再び下へと降ろされて蜜を絡めるように上下に動かされる。 「、聞える?のここ、いやらしい音を立ててるよ。そろそろ指を入れてあげようか」 「や、やだっ」 「どうして?入れたらきっと気持ちいいよ」 どうしてと問われたことの方が驚きだ。気持ちがいいよりも、恥ずかしい方だけで精一杯だというのに。 「が自分の指で乱れるなんて、すごくいやらしいよ。想像だけで興奮してゾクゾクする」 唇で耳朶を挟んで囁くと、力の限りつっぱねようと抵抗していたの手が止まった。 「ホント……?」 「え?」 真っ赤な顔でが後ろのコンラッドを少しだけ顧みた。 「ホントに興奮する……?」 恥ずかしさに涙を溜めながら、窺うように訊ねた言葉はそれで。 コンラッドはの手を解放しながら、にっこりとまるで他意などないような笑みを浮かべて頷いた。 「んっ………く……」 耳に届く水音と、噛み締めた唇の間から零れる吐息と、何よりその下で行われていることを知らしめるように、エプロンの裾が蠢くところが何とも言えない。 エプロンを外して正面に座ってよく見えるようにしてもらいたいという欲求もあるが、こうして自分の膝の上で、エプロンのせいで見えない、というのはまた格別な趣があった。 それに、こうして直接には見えないからこそ、が辛うじてコンラッドの希望を叶えることができるのだともわかっている。 「、聞かせて。どの指を入れてる?」 「………な……か…ゆび……」 「そう、いいね。じゃあもっと奥まで入れてみようか。中を擦るようにね」 「ん………」 立てた膝の震えと聞えてくる水音がの指の動きを伝えて、コンラッドはエプロンの両脇から手を差し入れてその乳房を優しく揉み解した。 「手伝ってあげるよ。気持ちいい?」 「……コンラッドの手、は」 「の指は?」 「わか……ない……へ、変……な……かん…じ……」 「慣れないのかな?大丈夫だから、もっと激しく動かしてごらん」 「む……むり………」 俯いて小さく首を振るの耳朶に柔らかく舌を這わせる。 「あ………っ」 「じゃあ数を増やして、人差し指も入れてみるといい。バラバラに動かしてあげると気持ちいいよ」 「……も……やぁ……」 ポロポロと涙を零しながら首を振る恋人に、頬を伝う涙を指先ですくう。 「……もう無理?」 こくりと頷くに、コンラッドは優しく微笑んでエプロンの裾に手を入れた。 の手を取って、ゆっくりと指が抜けるように引いてやる。 ようやく許してもらえてほっと息をついたは、だがその指にコンラッドの指が絡められて羞恥に頬を赤く染めた。 「でも中途半端なのもつらいだろう?どうして欲しい?」 絡まる指がぬるぬると滑り、見るまでもなくの快楽をコンラッドに伝えてしまっている。 「ね、言って。俺にどうして欲しい?」 「やだ……」 膝の上で怯えた子猫のように震える様子が可愛くて仕方がない。コンラッドは指を絡めたままエプロンの下から手を出して、濡れたの手を口元に運んだ。 「やっ……!」 指を這う舌の感覚に、は目を瞑って手を引いた。コンラッドが何を舐めているかと思うと、恥ずかしくて見ていられない。 「き、汚いよっ」 「汚くなんてないよ。言っただろう、俺はを隅々まで味わうんだって」 「だからってそんなのっ!」 「じゃあ言って。俺にどうして欲しい?」 ぎゅっと目を閉じて俯いたまま、は小さく掠れる声を口にした。 「コンラッドの……指、で……」 「指で、どうして欲しい?」 段々と前のめりになる身体を抱き込みながら、コンラッドはエプロンの裾に手を入れた。 指先で蜜口を刺激する。だが中には入れない。 「どうして欲しい、?」 は吐息をついてエプロンを握り締めた。 「指で、達かせて……」 「うん、よく言えました」 「あっ……!」 身体の中に自分のものよりずっと太い指が入ってきて、は大きく仰け反った。 「気持ちいい?」 「………うん」 微かに頷いたに、コンラッドは音を立てて肩に口付けを落すと指の動きを激しくする。 「あっ……んっ……やぁんっ」 「こんな風にしてあげるといいんだよ。覚えておこうね?」 「い……いやっ……いらな……」 「どうして。気持ちがいいだろう?ね、……」 「ん……ぁ……コ…コン……ラッ…ドの……だから…だもん……っ」 「え?」 は身悶えしながら、涙を湛えた瞳でコンラッドを僅かに振り仰いだ。 「コンラッド……だから……気持ちいいの……っ……」 そんな可愛いことを言われたら、これ以上焦らすことなんて出来やしない。 のもっとも感じるところを指で刺激すると、びくびくと小刻みに震える。 「あ……も……ダメ……っ」 掠れた声に、悶える肢体に、指を濡らす快楽の証に、じっくりと楽しみながら恋人を絶頂へと導いた。 背中を預けて力尽きたようにぐったりといているの顎を捉えて後ろを向かせると、唇を重ねた。 「ん……」 まだ少し荒い呼吸を塞がれて辛そうに眉を寄せたが、もコンラッドを突っぱねたりせずに身体を捻って少しでもキスが楽になるように体勢を変える。 こんなにも可愛いを見ても肝心な部分は反応が鈍い。これはやはり夜を待つしかないようだ。 残念なような、夜の楽しみができたような。 「………次…どうしたら、いい?」 囁くように微かに訊ねるに、コンラッドは笑顔でその頬を撫でる。 「今はここまで」 「え……でも……」 は戸惑うように眉を寄せた。 「その……ぜ、全然コンラッドに触ってない……んだけ、ど……」 視覚的興奮を提供することはできたが、肝心の直接の刺激は何もしていない。目的を思うとが戸惑うのは当然だろう。 「だけどそろそろ支度しないと、風呂に入る時間がなくなるよ?このまま服を着て陛下を起こしに行ってもいいならお願いするけど」 「そ、それはちょっと……」 ちらりと窓の方を見ると、遮光性の高いカーテンは光を通さないが、その隙間は確かに薄明るくなってきているようだった。 「だから、続きは今夜。……のこの可愛い手で、してくれるかな?」 悪戯っぽく笑いながら甲にキスをされて、頬を染めながらはそっと頷いた。 |