力尽きたように気を失ってしまったの髪を撫でながら、幸せを噛み締めて涙の残る目尻にキスをする。 「ありがとう、頑張ってくれたね」 温かく心地の良いの中は名残惜しいがいつまでもこうしているわけにもいかない。 ゆっくりと引き抜くとの赤と俺の白が混じり合って中から零れ出した。 わかってはいてもこう、の初めてを俺がもらえたのだと視覚的にも訴えるものがあって、別に処女信仰なんて持っていないつもりだったのに思わず感慨にふける。 ただでさえ、できることならもう少しの身体を味わいたい気持ちがあるのだから、あまりじっくりとその肢体を眺めていると目に毒だ。 風呂で身体を洗った方がもさっぱりするだろうと、風呂場まで移動するために、抱き起こしたに脱ぎ捨てていた俺のシャツを羽織らせたところで、小さく目覚めの声が聞えた。 熱に溺れる(11) 「ん………コン……ラッド?」 「お疲れ様。寝てていいよ」 「う…ん……でも……」 俺から身体を起こそうとしたは、小さく悲鳴をあげて崩れるように俺にもたれる。 「い……たぁ……」 「大丈夫?」 言わずもがなのことを訊ねてしまった。あれだけ痛がっていたんだから大丈夫なはずがない。 「ま、まだ中に入ってるみたい……」 「ごめん……」 間違いなく俺のせいなので、少しでも痛みが宥められないかと腰を撫でながら謝ると、痛みに顔をしかめていたは驚いたように俺を見上げてきた。 「コンラッドのせいじゃないでしょ?」 「いや、でも確実に俺の責任のような」 「じゃあ……後悔してる?」 「まさか!」 自分でも驚くくらいに激しく否定してしまう。が目を丸めるのも当然だ。 わざとらしく咳をして気まずさを誤魔化すと、擦っていたの腰を抱き寄せる。 「俺はこの上なく幸福だ。大体後悔しているかと訊ねるのは俺の方だよ」 「してないよ」 は俺のシャツをかき合わせながら、目を閉じて俺の胸にもたれかかった。 「後悔なんてしてない。痛かったし怖かったけど、でも今すごく幸せ。だってコンラッドとひとつになれたんだもん」 胸に迫る幸福感に酔いしれながら、の絹糸のような髪を指で梳く。 「……どうして君はそう、俺を喜ばせてばかりくれるんだろう」 「ホント?コンラッド嬉しかった?」 「ものすごく」 「よかった……」 はほんのりと赤く染めた頬を、シャツの袖に隠れた両手で押さえる。 「わたし、ずっと痛がってばかりで、コンラッドはずっと気を遣ってくれてたでしょ?もしかしたら楽しくなかったんじゃないかって、ちょっと心配だったの」 「その心配も俺がするものだと思うな。俺はずっと嬉しかったし幸せだったよ。が怖いという気持ちを克服してまで俺を受け入れてくれたことも。もちろん、とても気持ちよかったことも含めてね」 「気持ち……っ」 ほんのりと染めていた頬が一気に真っ赤になって、は絶句した。 そんなところも可愛くて、髪を櫛梳いていた指を柔らかな頬に滑らせて背中を丸めるようにして腕の中の赤い唇に口付けを贈る。 「痛がっているのは本当に可哀想だったけど、俺を包み込んでくれた君の中はとても温かくて、狭くて気持ちよかったよ。君の熱に、俺はまんまと溺れてしまった」 「なっ………」 絶句したは耳まで赤く染めて手を振り上げた。 「セクハラだよっ」 バチンと音がするくらいに激しく掌で口を押さえられる。ちょっと痛かった。 俺の口を塞いだ小さな手を取って、掌に口付けをしながら怒ってつんとそっぽを向いてしまったを覗き込む。 「風呂に行く?よかったら俺が身体を隅々まで洗うから、寝ててもいいけど」 「だからそんなこと言わないでったら!」 は俺に手をついて身体を離すと、自分で立ち上がろうとして肩を落とした。 「い、痛くて動けない……」 「無理しないで。俺が運ぶから。俺の部屋の風呂はの部屋と比べるとずっと狭いけど、我慢してくれ」 「別に狭いのは気になんないけど……」 はどこか疑うような目で俺を振り返る。 「もうエッチなことしない?」 「しないしない」 信用ないなあと苦笑すると、は唇を尖らせて拗ねた顔をして見せる。そんな表情も愛らしい。 「じゃあ移動しようか」 の細い身体を抱き上げようと肩に触れた途端、小さな悲鳴が上がった。 なにかしただろうとかと思わず手を離してしまう。 だがは、ベッドに座り込んでシーツに視線を釘付けにしたまま震えるだけで俺を見ていない。しかもその顔色は蒼白だ。 「………中」 「……?どうかした?」 「……中に、出したの?」 の視線の先は、正しくは俺を受け入れてくれた場所だった。 赤と白の混じり合った体液の伝い落ちた足を見て小さく呟く。 どうやら中で射精したことがお気に召さなかったらしい。 俺が避妊を思い出したのは本当に最後の辺りで、婚約しているわけだし既に挿入した後だったし、まあいいだろうと思ったんだが。 「ああ……つい、気持ちよくて抜く暇がなくて」 「つい!?ついで赤ちゃんできちゃったらどうするの!?」 「産んでくれたらいいじゃないか」 怒りのままで振り返ったは、俺の簡潔な答えを聞いて口を開閉させた。 「が俺の子を産んでくれたらいいなと思うよ」 まだずっと先の話だとは思っていたが、それが別にすぐに変わっても問題はない。 それどころか妊娠すればこちらの魔族との間の子だ。チキュウでは産めないだろうから、がずっと側にいてくれることになる。 俺にとっては何の問題もないどころか、いいこと尽くめじゃないか。 そう思ったのも束の間。 「もう結婚まで絶対エッチしない」 低い声で宣言されて、内心かなり焦る。 「、ごめん。そんなに君が怒るとは思わなくて……」 「怒るよ!それはっ……きょ、今日はわたしからさ、誘ったんだけど、でもそんな簡単にあ、あっさり……」 「……?」 の怒りの表情が段々と力を無くしていって、心配になって手を伸ばしたら、それとほぼ同時にの大きな瞳から涙が零れ落ちた。 「!?」 「そ、そんなあっさり……ほ、ほんとにわたしとの未来、考えてくれてる?」 「当たり前じゃないか!」 の瞳からはらはらと透明な雫が零れ落ちて、迂闊な発言に後悔する。 あんなにもは俺を想ってくれるのに、俺は自分の願望ばかりで酷いことを言ってしまった。女の子のにはデリケートな問題なのに。 今回は確かに急なことでなんの準備もしていなかったし、避妊にはまったくならないとはいえ、それでもせめて外に出すくらいの配慮はあってよかったはずだ。 「赤ちゃんができちゃったらどうしようとか不安に思いたくない。だってもし本当にここに赤ちゃんがいたら『どうしよう』なんて、そんなの赤ちゃんだって可哀想だよ」 「うん、ごめん」 が腹に手を置いて俯いてしまって、その身体をそっと抱き寄せる。 跳ねつけられることも覚悟していたが、は抵抗せずに俺に身を委ねてくれた。 完全に愛想を尽かされなかったとほっとする。 「……わ、わたしだってコンラッドの赤ちゃん欲しいよ?でも今じゃないの。来てくれてありがとうって、最初から言えるようになってから欲しいの」 「ごめん……。本当に俺が考えなしだった。との子なら欲しいとそればっかりで」 は涙を拭いながら頷いてくれた。 そっと顔を上げると、まだ涙は残っていたけれど俺に微笑んでくれる。 「結婚前に妊娠なんてなったら、きっと有利がすごく怒るよ?」 「そうだね。だけど陛下がお怒りになるのはわかっているし、もしそうなっても甘んじて拳の一発や二発は受けるよ」 そうでなくても、既に今の時点でも見つかったら拳どころか魔術で懲罰が下りそうだが。 「そんなのわたしがヤダ。わたしのせいで、コンラッドが有利に殴られるところなんて見たくないもん」 「……」 こつりとと額同士を軽くぶつける。 「明日すぐに避妊具を用意するよ」 そう約束したのに、拳で殴られた。 「一回エッチした途端にそれしか頭にないの!?」 「そ、そういうつもりじゃ……」 ないこともないけど。 殴られた頬を押さえて、ガクガクする顎が外れていないことを確かめながら、口の中で小さく呟いた。 「また明日すぐにしようとかいうつもりじゃ……」 「当たり前でしょ!?」 今度は枕を投げつけられた。 すっかり怒らせてしまった。何が悪かったんだろう。 「しかも気がつけばあっちこっちにキスマークつけて!こ、こんなの有利に見つかったらどうするのよ!」 「大丈夫、衿を詰めたドレスなら見えないよ」 太腿やふくらはぎ、腹や胸はもちろんのこと、首筋にも下の方に限定してつけたから、ユーリの前で服を脱がない限りは見つかるはずがない。ユーリと一緒に入浴したがっていたけど、これで自身で避けるようになることだろう。 「………なんっか、納得いかない……」 受け止めた枕をベッドの脇に置きながら、ふくれるの肩に手を伸ばす。一度振り払われたものの、めげずにもう一度挑戦すると今度は素直に抱き寄せられてくれた。 「今日は無理したんだし、そんなに怒ると身体に障るから……」 「誰が怒らせてるの!?」 「俺のせい?」 「なんで疑問系なの!」 の腹の上で手を組んで、腕の中に抱き込む。 むっつりと口を引き結んだままで振り返りもしないけど、背中を俺に預けるようにもたれかかってきた。少しは許してくれたようだった。 「はそんなに俺とのセックスがいや?」 「いやじゃ……ないけど……」 「痛かったから、もう二度としたくないとか?」 それはありえるような気がして恐る恐ると訊ねたら、は呆れたような表情で振り返る。 「そんなことないよ。だけどコンラッドの言い方だとエッチのことばっかり考えてるみたいなんだもん」 「そういうつもりじゃ……」 ないこともないけど。本日二回目の心の中での呟き。 そんなことないとあっさり否定してくれたことがこの上なく嬉しかったが、それを言うとまた怒るかもしれないから、黙って後ろからを抱き締めた。 「そろそろ風呂に入る?」 「……うん」 触るなと言われなかったのは、たぶん身体がいうことをきかないせいなのだろうけど、それでも俺の首に腕を回してくれたので、もう怒り自体もだいぶ収まったんだろう。 俺がほっと安堵すると、今度はが息を飲んだ。 「ご、ごめんなさいっ」 「え?」 「は、歯型ついてる……」 が指先でそっと触れた場所は、そういえば確かに噛み付かれたところだ。 「いいよこれくらい。が頑張ってくれた証拠だろう?」 むしろが俺につけた印だと思うと嬉しくすらある。これと、背中と項もひりひりと痛むから、風呂ではさぞかし染みるだろうけれどね。 しばらくは風呂に入るたびに痛みでとの情事を鮮明に思い出せるだろう。 俺が怒る理由なんて少しもなかったけど、が恐縮してくれたおかげですっかりさっきまでのお怒りは溶けて消えたので助かった。 が。 「や……やだっ!エッチなことしないって言ったのに!」 一緒の風呂に入っての身体を撫で回したら、すぐに怒りは復活してしまった。 えっちって、セックスのことじゃなかったんだろうか。 右の頬にはっきりとついた手形を擦りながら、今度はどうやって機嫌を直してもらおうかと同じ湯船に浸かる背中に困惑しながら思案した。 |