ちゃんと考えて言ったはずなのに、次の瞬間には自分が何をお願いしたのか混乱していた。 「本当にいいの?」 コンラッドはわたしの足を恭しい動作で取りながら、確認するように囁いた。 緊張しすぎたせいで変に笑いたくなって、それを堪えようとしたら眉間に皺が寄ってしまったけれど、とにかく頷く。取り消すつもりなんてない。 履いたままだった靴をコンラッドがゆっくりとした動作で紐解いて脱がせてくれるのをぼんやりと見ながら、もう何も着ていなかった胸を隠すように両手を交差させて肩を抱く。 今まで何をしていたのか、何をされていたのか、これから何をするのかと思ったら眩暈がする。 おまけにコンラッドは脱がせた靴をベッドの下に放り投げると、左足の靴も脱がせながら膝にキスとかしてくるし。 「んっ……」 唇が足を上に内側にと滑りながら上がってきて、恥ずかしいのに甘えたみたいな声が漏れる。 まるで強請るみたいに足が揺れてしまって、素足の指先がシーツとは違う布地に触れた。 わたしが着ていた、コンラッドに脱がされたワンピース。足が揺れたら引っ掛けたワンピースがずれてその下にあったブラジャーまで見えた。 ものすごくはしたないことをしているんじゃないのと身体が熱くなったとき、コンラッドが内腿を強く吸い上げた。 熱に溺れる(10) 「あぁ……」 いやだ。今、変な声が出ちゃった。 胸を隠す腕の合間にも、コンラッドがずっとキスをしながら上がってきている足にもあちこち赤くコンラッドの跡が刻まれていて、更に上に上がってこようとするコンラッドの頭を慌てて押し返す。 「それ以上……上がっちゃダメ……」 だって、それ以上きちゃうと……。 コンラッドは無理に押し通したりせずに身体を起こして、わたしの顔を窺った。恥ずかしくて、それから少し怖くて目を合わせられない。 目を逸らしても、視界の端でコンラッドがシャツを脱いでいるのはわかった。 「大丈夫だよ。俺に身を委ねて」 「う……うん……」 ゆっくりとベッドに横たえられたときは、口から心臓が飛び出すかと思った。 何も隔てない素肌で抱き締められて、くらくらと頭が沸騰しそうになる。 コンラッドはわたしの頬を撫でてから、胸を隠していた手を取り上げてしまう。解かれた腕を背中に導かれて、言われるままに抱きつくと胸が直接触れて恥ずかしいけど、コンラッドの温かさに少しだけ安心する。 「怖い?」 「……うん……でも……」 「これ以上無理だと言ってくれたら、やめるというのはこれからも一緒だからね?」 何度もそう言われたけど、びっくりしてコンラッドを見返してしまった。銀の光彩を散らした瞳は優しくて、それが嘘じゃないことを教えてくれる。 「やめちゃやだ……」 だって、やっとコンラッドの熱がほしいと思えたのに、今やめちゃったらまた勇気がなくなってしまう。 怖いけど、恥ずかしいけど、今はわたしの中の熱がコンラッドの熱を求めているのに。 コンラッドはわたしをぎゅっと抱き締めて、耳元で囁くように確認した。 「じゃあ、恥ずかしいだろうけれど顔を隠さないで。声も堪えないでいいよ。の本当を俺に全部見せて」 隠さないでって……堪えないでって……。 絶対変な顔とか変な声が出ちゃうのに! 胸を押し上げられるように掌で撫でられて、身体の奥のおかしな感覚に唇を噛み締めた。 「ん……っ」 「声、噛まないで」 声色はとっても優しいけど、コンラッドの要求は無茶だよ! 「……あ……や………は、恥ずかしいよ………ふぁ……」 そう思うのに、噛み締めた唇が震えて、出したくもない声が喉から溢れて漏れてしまう。 「あ……ぁんっ……」 変に震えて、でもどこか甘えてるみたい。嫌だ、コンラッドに変に思われちゃうよ。 人が頑張って変な声を漏らさないようにしているのに、コンラッドは力を抜けと唇にキスをして舌で辿るように舐めてくる。 「唇が切れてしまうよ。力を抜いて」 「………っ」 切ってもいいから絶対にヤダとぎゅっと強く噛み締めると、コンラッドはわたしの脇腹を手で撫で下ろして通り過ぎ、その下の下着の紐を一気に解いてしまう。 「あっ!」 思わず声を出すと、コンラッドに捕まってしまった。唇を重ねて舌が口の中に入ってくる。 唇を噛み締めることができなくなって、口を塞がれて篭っているとは言っても喉の奥が震え続ける。 おまけに紐を解いてしまうと下着を抜き取られて、とうとう何一つ着ていない状態にされてしまった。 身体を洗いっこしたことのある有利にだって触られたことのないところに、コンラッドの指が触れた。 「んんっ」 思わずコンラッドの背中に爪を立ててしまう。 だ、だって指が、指先が。 コンラッドの指はそのまま少し上に上がってきて。 「んっ……ふっ……んぁっ」 身体が痺れたような甘い疼きが押し寄せてきた。 コンラッドは柔らかく指先で軽く触れているだけなのに、そのたびに身体が跳ねるように震える。 「――――」 身体中を走る強い刺激に翻弄されている間に、コンラッドの指はそこを弄ったままその下のさっき触れた部分も爪先で撫でていた。 知識ではわかっているけれど……。 「やっ……こ、怖い………」 「大丈夫だよ。力を抜いて」 「で、でも……」 コンラッドはわたしを宥めながら、爪先を少しだけ入れてきた。 「やっ………」 震えてコンラッドにしがみ付く。 コンラッドはそのまま爪先だけ動かす。 ぐちゃぐちゃと聞こえてくる湿り気のある音が、コンラッドの指先の触れているところから上がっているのだと気付くに時間がかかった。 知識ではわかってたけど! ゆっくりと指が中に入ってくる。 「あっ………く……ぅ……」 「痛い?」 痛いって言うか、変。気持ち悪い。 粘膜って口の中もそうなのに、口の中を舌で舐められているときはこんな気持ち悪くなったことはない。あれは気持ち良いのに、こっちは下から押し上げられているような心地の悪さが押し寄せる。 ドキドキとした不安も、不快感の方が強くてそれもどうかと思うけどちょっとだけましになった。 でも痛くないことは伝えなくちゃと億劫になっている首を振る。 「で…でも……変な、感じ……」 「気持ち悪い?」 ずばりと言い当てられて、思わず押し黙ってしまう。 だって、触られて気持ち悪いなんて、コンラッドが気を悪くするかも。 「いいよ。正直に言って」 「……少し……だけ…。お、押し上げられてる……みたいな……」 本当はものすごく違和感があるのだけど、コンラッドに嫌な思いをしてほしくなくてそう言うと、苦笑しながらわたしの目尻にキスをする。 「少しの間、我慢できる?」 「うん……へい…き……んんっ」 更に押し上げられて息が詰まる。コンラッドが身体のあちこちを撫で回してキスをしてくれるけど、それって気持ちいいところと気持ち悪いところの感覚が交互に押し寄せて来て頭の中が混乱する。 おまけにコンラッドの指って長いから、奥の方まで内側から指で触られてしまう。その奥にくるほど、気持ち悪いにときどき痛いが混じる。 「あ……やぁっ……いた………」 震えて跳ねる身体を抱き締められて、コンラッドの指が根元まで入ったんだとわかるとほぼ同時に身体の中で指が蠢いた。 「いやぁ……」 痛いのか気持ち悪いのか、他のよくわからない感覚も混じり合って、どうしても力が篭ってしまう。そうすると中の指の動きがもっと伝わって、耐え切れずにとうとう泣き出してしまった。 「も……もうやだ……」 悲鳴のような声で胸にあったコンラッドの頭を抱き締める。 たぶんコンラッドはとっても気遣ってくれているんだろうけれど、だって気持ち悪いんだもん。 痛いのと気持ち悪いのと、その後ろにあるよくわからない感覚が、胸や腰を撫でてくれる気持ち良さと合わせて身体を駆け巡るみたいで、頭が真っ白になる。 「……きて………」 もうこんなわけのわからない状態は嫌だと先に進んで欲しくてお願いすると、コンラッドは困ったように唇に軽くキスをしてから、また中の指を動かした。 「でも、もう少しここを解した方が」 「やっ……!へ……変なんだもんっ」 身体を内側から触られる違和感と、痛みと、それから奇妙な感覚に身体が疼いて熱い。 「やっぱり気持ち悪い?」 「そ……れは……少し、まし……だけど……」 もう気持ち悪いだけじゃないからそう言って、でももう指は嫌だからぎゅっと強くコンラッドに抱きつく。 「ね……お願い……」 コンラッドはゆっくりと指を引いてくれて、このときもやっぱり身体の内側を撫でられるようなおかしな感覚に身体が震えてしまった。泣きたくないのに涙が零れる。 ようやく指が全部抜けて、それだけ疲れてぐったりとしてしまったけれど、これは嫌悪の涙なんかじゃないことを証明したくてコンラッドを見上げた。 茶色の瞳に揺れている光は困惑なんかじゃないと信じて、身体を起こしていたコンラッドに両手を伸ばす。 「コンラッド……」 抱き締めて、安心させて。 コンラッドは柔らかく微笑んで、身体を重ねてくれる。 温かい鼓動が胸に伝わってきて、広い背中にぎゅっと手を回した。 コンラッドの体温に安心していると、さっきまでコンラッドの指が入っていたところに硬い何かが押し当てられる。 それが何かわかった途端、一気に緊張が押し寄せた。 「力を抜いて。、緊張しないで」 「そ、それ無理……」 入り口を何度も擦られて、怖くて泣きそうになったらコンラッドが肩を撫でて安心してと囁いて唇を重ねた。 キスだけは、いつだって優しくて、いつだって同じ。 ほんの少しほっとしたら、耳にキスをされた。 「そのまま……」 そのまま……なに? 小さな囁きに聞き返す前にもう一度口を塞がれて、同時に焼け付くような引き裂かれるような激しい痛みが襲い掛かってきた。 「んぅっ!」 悲鳴はコンラッドの口の中に飲み込まれた。 痛い、とにかく痛い。ものすごく痛い。 指のときの違和感なんてものじゃなくて、とにかく激痛! コンラッドを気遣う余裕なんてちっともなくて、背中を掻き毟ってしまった。 コンラッドの唇が離れた途端、大声で悲鳴を上げてしまう。 「いたっ……痛いっ……!お願い、待ってぇっ!」 「いたたっ!もう少し我慢して……」 「い……いたぁいっ」 だってコンラッドの大きすぎるんだもんっ!指の何倍!? ホントに裂けちゃう!とういうかもう裂けてるんじゃないでしょうね!? 「これ以上は、無理そう?」 無理に決まってます! そう言うつもりだったのに、心配そうに見下ろして頬を撫でてくれるコンラッドの眉を下げた表情を見た途端、言葉が入れ替わってしまった。 「ぎゅっとして……」 「?」 「抱き締めて……強く……」 ぜえぜえと色気の欠片もない呼吸でコンラッドの方がやる気を無くすんじゃないかと心配しながら、密着した肌の暖かさにわたしの方は愛しさが込み上げる。 だってコンラッドの熱だから。 抱き締めてくれている体温も。 そしてわたしの中にあるものも。 「きて……」 「だけど」 「……こ……ここで、やめたら……きっと、ずっと……コンラッドと……エッチできない……」 ここでやめてしまっても、次も同じように痛いに決まってる。そしてまた泣いて止めて。 こんなことを繰り返したくなんてない。 「そんなことないよ。の身体はまだ成長の途中だから、負担が大きいんだ。だから」 「やめたくないの……お願い……」 引かないでと背中に回した手に力を込めると、コンラッドは宥めるように肩を軽く叩いた。 「……本当に駄目だと思ったら、言ってくれ。できるだけ呼吸をちゃんとして。つらかったら、めちゃくちゃに俺にしがみ付いていたらいいよ」 「うん……」 言われたことがどれだけ実践できるかは不明だったけど、承知しないとコンラッドはやめてしまうだろうと頷いた。 でも、今度こそ途中で止める気だけは、絶対ないんだから。 奥に奥にと入ってくるほどに、熱い鉄の棒を押し込められているような錯覚を覚えた。 呼吸どころか息をしているのかも怪しい。とにかく悲鳴を上げるとコンラッドがびくりと恐れるように止まってしまうので、唇を強く強く噛み締める。 「、やめないから痛いなら声を出して。それで少しでもましになるなら」 それにうんと言ったのかううんと言ったのか、もう覚えていない。 とにかく、コンラッドがほっと肩の力を抜いたときには、下半身が痛みに麻痺したように感覚が薄くなっていた。 「……入った……?」 震える声で訊ねると、コンラッドがすごく嬉しそうな顔をして頷いた。 「全部入ったよ」 コンラッドの嬉しそうな様子がわたしも嬉しくて、痛いのとかつらいのとかでぐったりと疲れていた身体に少しだけ力が戻る。 「じゃ……動いて……いい、よ?」 「まだもう少し。がこの状態に慣れてからね」 そんなこと気にしなくてもいいのに。 コンラッドが喜んでくれたら嬉しくて、コンラッドが気持ちがいいと感じたらそれでいいのに。 コンラッドはわたしの涙の跡を拭うように目尻を唇で辿って、優しく胸をさすりあげる。 「ん……」 腰を優しく撫でて、指先で胸を弄られて、麻痺していたはずの感覚を思い出してしまう。 痛いのに、気持ちよくて、気持ち悪いのに、ふわふわする。 「あっ……んん……っ」 少し腰を揺すられると、途端に痛みが身体を駆け抜けて息が詰まった。 「つらい?」 首を振ろうかと思ったけれど、嘘をつくとまたわたしが無理ばかりしているとコンラッドが気を遣いすぎるかもしれない。 正直に頷いて、でもと付け足した。 「でも……やめないで……」 コンラッドのうなじに手を回して、ぎゅっと強く抱きついたら抱き返してくれた。 腰を押し付けるようにして身体を揺すられて、苦しさと痛みに息が詰まる。 「んっ………ぁんっ……い…た……ぁ……」 ゆっくりと揺らすようだった動きが段々激しくなってきて、耐え切れずに涙が零れる。 コンラッドにキスをしたら、舌で口内を乱暴に荒らされる。 だけどそれが気持ちよくて、夢中になって舌を絡めていたら、ベッドの軋む音と液体が混じる音ばかりが酷く耳についた。 「んっ!あ、ああっ……!やっ!ぁあん……っ」 そして部屋いっぱいに響くあられもない声がわたしのものだとわかった瞬間に、かっと身体が熱くなった。 こんな声がコンラッドに聞こえてるなんて! 耐え切れなくて、抱きついていたコンラッドの肩に噛み付いた。 だってこうしないともう声を我慢できない。 「…………」 コンラッドの熱の篭った声で何度も名前を呼ばれて、背筋にぞくぞくと悪寒にも似た感覚が駆け抜ける。 「あっ!ひあ……っああぁっ!」 揺さぶられて突き上げられて、なにがなんだかわからないままに、身体の一番奥に温かいものを感じると、その熱に溺れるように意識が遠のいた。 |