お手伝いって……自分で言ったものの何ができるの!?と思わず自分で内心ツッコミ。
だけどコンラッドは優しく微笑んで、何もしなくていいって……触らせてくれるだけでいいって……言ってたけど。
ベッドに降ろされただけで、もう心臓は破裂寸前です。



熱に溺れる(9)



コンラッドはベッドには座らず、中腰でわたしにキスをして、紐を解いていたままだったワンピースに手を掛ける。
「あ、あの!」
思わず両手でがっちりと肩の上のコンラッドの手を止めてしまった。
コンラッドは驚いたように目を瞬いて、それから軽く苦笑する。
「やっぱりやめる?」
「え……えっと……そうじゃなくて……その……もうちょっと……暗くしてくれると嬉しいなって……」
見せてって言われたけど、いいよって頷いたけど!
明るい中でじっくりと見られるのは……ちょっと。
本当ならもう真っ暗にしちゃってと言いたいくらいなんだけど、約束だから……。女にも二言はないのです!……たぶん。
コンラッドはすぐにランプの光量の調節を絞ってくれたけど、ほのかに暗い部屋というのはなんだか妙にいやらしい。
こんなことしてるから余計にそう思うのかもしれないけど、ベッドに戻ってきたコンラッドを見上げてその色っぽさに明かりを落としてもらったのは失敗したかもと早くも後悔した。
だって……わたしを見下ろすその瞳が微かに揺れているように見えるのが、わたしが緊張しているせいなのか、ランプの明かりの加減のせいなのかわからない。
コンラッドはわたしの隣に腰を降ろして、肩を撫でるようにワンピースを下に落とした。
心臓が耳の横に移動したんじゃないかと疑いたくなるくらいに鼓動がうるさい。
でも怖いより恥ずかしいの方がずっと強い。大丈夫、だってこれはコンラッドの手だから。
それでも、その手が肩から滑るように下りてきて、ブラジャーの中に滑り込んできたときは思わず震えてしまった。
「……怖い?」
「う……ううん……でも……は、恥ずかしい……」
「いや?」
「大丈……夫……」
まだそこまで怖くはない。怖くはないし、恥ずかしいだけなんだけど、それがどんな意味でも拒絶の形を取ったらコンラッドは引いてしまうかもしれない。
大きな節立った指が敏感になっているところを触って、小さく声が漏れてしまった。
すぐにコンラッドが手を引きそうになったから、慌ててその肩に額を押し付けて強く目を瞑る。
「やめないで………」
こんなこと言うなんて、恥ずかしいと思ったら声が掠れてしまった。
また我慢していると思われたら嫌だと、顔を上げて背伸びするようにしてコンラッドの唇をかすめるキスをする。
「好き……コンラッド……大好き……」
………」
コンラッドはゆっくりと微笑んで、そっと唇を重ねてきた。
背中のホックが外されて、下着がベッドに落とされた。
「ん………」
恥ずかしさを誤魔化したくてコンラッドの首に腕を絡めて抱きついて、深く舌を絡める。
下から衣擦れの音が聞こえて、何気なくそちらに視線を落しかけたらベッドの上に完全に押し上げられてしまう。
「あ、靴……」
こんなときに失敗。靴なんて脱いでおけばよかった!
紐を解かなくちゃと伸ばした手を掴まれて、導かれるままにコンラッドに抱きつくように首に絡める。
「いいよ、シーツくらい後で替えるから。それより膝で立って、そう」
言われる通りにしたら、ベッドの上に膝で立ってコンラッドの頭を胸に抱えるような態勢に。
え、ちょっとこれって。
訊ねるより先に胸を舐め上げられて、変な声が出そうになった。
慌てて唇を噛み締めたのに、声が漏れちゃう。
「んっ………やっ……ふ……ぁ……」
の胸……柔らかくて温かい……」
音を立てて谷間にキスをされて、思わずコンラッドの頭にしがみついてしまう。
でもそれって余計にコンラッドを胸に押し付けることになってしまうわけで。
ちくっと小さな痛みがあったと思ったら、コンラッドはそのまま右の胸に移動して赤ちゃんみたいに口の中に含んでしまう。
「やんっ……だ、だめ……」
軽く歯を立てられたり、舌で転がされたり、気がつけば左の乳房は掌で包み込むように柔らかく揉まれていて、恥ずかしくて頭の中が真っ白になってしまった。
「コン……ラッ、ド……やっ、つ、摘んじゃダメっ」
「……だって、……」
ちょっと泣きそうになりながら訴えると、コンラッドはようやく少し顔を上げてくれたけど、また胸にキスをする。
そうしてる間にも指先はまだ弄ってるし!
「……感じてる?」
「かっ……!」
感じてるってなにを!?
触られているところがくすぐったいような、何かそれとは違う、背筋がむずむずとするような変な感覚ならあるけれど、これをどう言葉に直したらいいの?
「へ……へへへ、変なこと言わないでっ」
「そう?でも、の身体は気持ち良さそうだけどな」
「そ、そんなこと……!」
そんなことないと抗議しようと下を見る。
やっぱり赤ちゃんみたいに胸に吸い付いているコンラッドの頭でよく見えないけれど、その下で何かを弄っているらしいコンラッドの右手が目に入った。
え、えっと、それって、あの、その……じ……自分で……してるんだよ…ね?
嬉しいのか恥ずかしいのか、もうよくわかんない。
コンラッドがわたしの身体で興奮しているのだと思うと嬉しいし、でも今触られていることを思うと恥ずかしい。それに、ホントにわたしこのまま何もしなくていいの?
身体が熱くて、心臓がドキドキして、熱に浮かされたようにぼうっとしていたら、腰の辺りに引っ掛かっていたワンピースがベッドに落とされたところが見えた。


「待って……!」
コンラッドの指が下着の紐を摘んだのが見えて、思わず泣きそうな声で止めてしまう。
今日の下着は眞魔国の紐パンツを履いてたんでした!
この下着、紐を一本解いちゃったらもう脱げちゃうんだもんっ!
そんな下着で夜に恋人の部屋に来て、エッチなお誘いなんて、まるでわたしにその気があったみたいじゃない!?
違うのー!偶然なんです!というか、この国では持ってる下着の大半がこれなだけで!
頭の中で必死に言い訳がぐるぐると回っている間に、コンラッドは紐を離してくれた。
「じゃあ今日はここはやめておこうか」
「……え?」
あっさりと承知して、コンラッドは手をわたしの腰にまで戻して胸を舌と唇で愛撫してくる。
「やんっ、ちょ……」
ちょっと待って。
思わず止めてしまったけれど、今日はコンラッドに喜んで欲しくて、わたしがそう訴えて、それでこんな事態になったんじゃなかったっけ?
で、でも別にコンラッドがものすごくがっかりって顔をしたわけでもないんだし、今日はお互いに我慢しないでおこうねって……。
視線を下げると、胸には谷間の近くとか、鎖骨の近くとか、いくつも赤い跡が残っている。
コンラッドがたくさんつけたんだ。
途端にまたさっきの熱が身体中を駆け巡って、まるで赤い色に興奮した動物みたいと思いながらコンラッドの髪に指を掻き入れた。
我慢じゃない。
これは我慢じゃない。
怖いけど、でもそれだけじゃない。怖いのと同じくらい、それ以上に恥ずかしい。
それは我慢じゃなくて度胸の問題、だよね?
ここまできて中途半端に逃げるなんて、きっと後で後悔の元になる……と思う。
それにコンラッドは我慢したことにならない?
せっかくコンラッドが素直に引いてくれたのに、という弱気な思いは心の端に蹴り飛ばして、コンラッドの頬に両手を添えて無理やりに上に向いてもらった。
?」
不思議そうに訊ねられたけど構わず口付けを落とす。わたしの方が上からというのは珍しくて、何となくおかしな感じがした。
舌で唇を辿るのも、口内に割って入って舌同士を絡めるのもコンラッドみたいにうまくできない。
わたしの方から仕掛けたキスなのに、終わったときにはわたしの息が上がっていた。
かなりたどたどしかったけど、コンラッドはそれでも喜んでくれる。
「嬉しいな……から積極的になんて」
「……うん、だから」
これから言おうとしていることを思うと、心臓が跳ね上がって息が詰まりそう。
だけど、我慢しているわけじゃない。
怖いけど、ちょっと……かなり無理しているけど、でも我慢じゃない。
コンラッドの頬から手を下に滑らせて、少しも乱れていなかったシャツのボタンに手を掛けた。
「コンラッドも脱いで」
「え、いや俺は……」
「だって、わたしだけなんて恥ずかしい」
恥ずかしくて逸らしたくなる目をぐっと耐えて困惑するコンラッドをまっすぐに見下ろす。
迷いがあったらきっとコンラッドは承知してくれないから。
「少し……怖い、の」
途端に腰の上にあった大きな手が引いて、わたしはまたキスを落す。
止めて欲しいわけじゃないと、そう伝えたくて。
唇が触れるか触れないか、吐息をお互いに混じり合わせて、恥ずかしさに上がる呼吸を抑えようとしながら驚くコンラッドの銀の光彩の散る瞳をじっと見つめる。
「だから、抱き締めて。コンラッドの温かさで、怖さを溶かして」
「無理はしないと……」
「じゃあどうすればいいの?」
あまりたしなめられると振り絞った勇気が萎えてしまいそうで、涙が滲んだ。
「どうすればいいの?怖いけど……少しだけ…無理してるけど……でも、もっとあなたが欲しいの。この気持ちはどうしたらいいの?」
………」
「言ったよね?コンラッドが喜んでくれたら嬉しい。コンラッドが感じてくれたら嬉しい。あなたの喜びを、想いを……あなたの熱を」
声が引き攣りそうになって、一旦言葉を切った。
唾を飲んで、呼吸を整えて、コンラッドの瞳に期待が滲んでいるように見えるのは、わたしの願望なんかじゃないよね?
「わたしの中に……ください……」








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