温泉に浸かっては、のぼせる前に出て一休み。しばらく休んでまた温泉を繰り返して、 夕飯も外で食ってから宿に帰った。 コンラッドととはそこで別れて部屋に帰ると、グレタに左足に乗ってもらって腹筋を 始める。もう大丈夫だと言ってもグレタは気を使って、右足は足首じゃない所を上か ら押さえてくれた。 「そうっ……いや、さ………っ!」 腹筋運動に息を詰めつつ、窓際で椅子に座ってまたワインを飲んでいる三男に話し 掛けてみる。 「ギュン、ター…と!…グウェンっ……に、なん…か!土産……いるっ、かな…っ?」 「土産だと?そんなものがなぜ必要なんだ」 「だって……!絶対っ迷惑……っ掛けてる、し……さ!」 「そんなもので兄上の機嫌を伺うくらいなら城を空けるな。だがそれでもというのなら、 ギュンターにはお前が使った水着でも持って帰ってやればいいんじゃないのか?」 「それ、嫌がらせだろ……」 思わずベッドに倒れたまま起き上がれなくなる。 嫌がらせって、おれに対してかギュンターに対してかは、あえて言及しないでくれ。 052.酔い潰れた後(1) 「適当に温泉饅頭でも買って帰ればいいかなあ」 土産物を買うなら旅行の最終日程にすべきだろう。とりあえず、当日バタバタしなくて いいように、候補を見繕っておこうと宿周辺の土産物屋を覗きにグレタとふたりで部屋 を出たら、廊下でとコンラッドが立ち話をしていた。 「あれ、ふたりともそんなところでなにやってんの?」 何気なく声をかけたのに、はすごい勢いで振り返る。 「ゆ、有利!?ど、どうしたの?」 「どうしたのって……こそどうしたんだ?」 「なにが!?」 勢い込まれておれがちょっと仰け反ると、コンラッドが苦笑しながら割って入ってくれる。 「まあふたりとも落ち着いて。どこかお出かけですか、坊ちゃん?」 「落ち着けって、おれは落ち着いてるよ。どうしたの?」 「はさっきの話を聞かれていたのかと照れているだけで……」 「コンラッド!」 は顔を赤くして……あれ、ちょっと青い? とにかく目を白黒させてコンラッドの服を引っ張る。 「はいはい。まあ、とにかくそういう話をしていたわけです」 「あー……頼むから、廊下ではいちゃつくな。公共の迷惑」 「いちゃついてないっ!」 今度こそ顔を真っ赤にしたは、おれを引っ張って部屋に逆戻りした。 「あ、ちょっと、おい、おれはグウェンとギュンターの土産を……」 「まだあと二日あるんだから、お土産は最終日にした方がいいよ!」 「ってコンラッドがまだ廊下……」 「コンラッド、後でね!」 はコンラッドを締め出して、扉を閉めてしまった。 「なんだ、どうした?」 部屋でひとり酒を飲んでいたヴォルフもの剣幕に驚いたように椅子を立った。 「わ、わかんねえ。どしたの、?」 「べ、別になんでも……緊張したら喉乾いちゃった。ヴォルフラム、ちょっとちょうだい」 「あ、ああ。構わないが」 とヴォルフラムがグラスについで渡したのは、今飲んでいたワインで。 「あ、ストップ!」 止めたときには遅かった。ワイン一気のみ。 「あああ、飲んじゃった……」 「え、なにかダメだったの?」 は空になったグラスとおれを見比べて、ヴォルフラムも首をかしげる。 ああ、そうだよな、ヴォルフはわかんないか。 「お前、それ酒だよ。十五歳で酒なんか飲んだらダメだろ!」 日本では二十歳までは酒も煙草も許されていない。ここは日本じゃないけど、眞魔国で だって十五歳はまだ未成年だ。 あら、とでも言いそうに口を押さえていただが、グラスをじっと見つめた後、ヴォルフ ラムにもう一回差し出した。 「もうちょっと欲しいな」 「!?駄目なんだぞ、未成年が酒を飲むな!」 「ちょっとだけだから。なんていうか、一旦勇気がなくなるとね……お酒飲んでさっさと 寝ちゃえばこっちのものかなって」 なんの話だ? 「でも、さっきコンラッドに後でって。なんか待ち合わせしてんじゃないの?」 「もう夜なのに?まさか。有利を置いて出かけたら大変なことになるから、もうここでは デートはしません」 「た、大変なことしたのはじゃん!……まあおれが切欠だけどさ」 ぶつぶつと口の中で反論していると、気がつけばは二杯目の酒を飲み干していた。 「!」 「もうちょっと味わって飲んだらどうだ……」 自分で注いだくせに、ヴォルフラムも呆れ顔。 「つーか、に酒を飲ませるなよ」 「お前もももう十五歳なら、成人に備えて酒にくらい慣れておいてもいいだろう」 コンラッドにもそんなこと言われたな。 「おれはね、身長が伸びる可能性がある限り酒はやんないの。現役である間は煙草 も絶対吸わないぞ!」 おれほど徹底して無くても、普段は健康に気を使うが酒を自分で飲もうとする なんて珍しい。というより、初めてだ。 いつの間にか自分で三杯目を注いで、おれのベッドに座ってちびちび飲んでいる の隣に座る。 「なあ、ホントにどうしたんだよ?なんか嫌なことでもあったのか?」 「べーつーにぃ」 「コンラッドとケンカした?」 グレタが心配そうに膝にすがると、は一旦グラスを脇のテーブルに置いて笑顔で グレタの髪を撫でる。 「まさか。コンラッドとはとっっっても、仲良しだよ」 なんだか様子が変だ。 いや、普通? 判断をつけかねて、ヴォルフをちらりと窺うと、向こうもこっちを確認していた。 やっぱり変なんだ。 おれとヴォルフが視線で会話しているうちに、は四杯目も飲み干した。 「え、ちょ、の、飲みすぎ……」 遅かった。やっぱり一杯目を飲んだときにグラスを取り上げておくべきだった。 五杯目をグラスに注いだは、それがグラス半分ほどの量もなかったので不満そう に瓶をテーブルに置く。 「喉が渇いたぁ……」 「そんだけ飲めば十分だろ!?」 変なはずだよ。こいつ、酔ってる。 「自分の酒量もわきまえていないのか?」 「初めて飲むのにわきまえるもないだろ!だから飲ませるなって言ったのに!」 「なにを言っている!飲みたいと言ってきたのはだぞ!大体お前たちはお互いに 過保護すぎっ……」 口喧嘩を始めようとしたその瞬間、ヴォルフラムが吹っ飛んだ。 「うえっ!?」 枕の剛速球が、横から顔面にストライク。 ベッドに沈んだヴォルフに慌てて振り返ると、おれの枕を投げた姿勢でワインの残る グラス片手に、座った目をしたが。 「ゆーちゃんにー、いじわるしたらだめー」 原因がなに言っちゃってんの? というよりこれは。 「しゅ、酒乱?」 「くっ……いきなりなにをする、!」 ヴォルフラムが勇猛果敢にも起き上がって枕を投げ返したが、は片手で悠々と キャッチする。 「グレタ、こっちに来なさい」 とりあえずは娘の安全確保だろうと小声で呼びかけると、なんの危機感も感じていない のか、グレタは平然とドアに近付くおれの方に駆け寄ってきた。 「、酒に弱かったんだなぁ……」 飲んだことがないからわからなかったけど、飲み始めてまだ三十分と経ってないのに この状態。ヴォルフラムとふたりで枕投げだ。 ちょっと飲んでいるとはいえ、ほとんど素面のくせに酔っ払いと同じテンションで喧嘩が できるヴォルフもどうなんだ。 「ヴォルフラムばっかゆーちゃんと一緒でずるいっ!」 「ぼくは婚約者なんだから当然だろう!いい加減兄離れしろっ!」 「わたしだって、コンラッドの婚約者だもんっ!」 なんの喧嘩だ。 話が噛み合っていないのは酔っ払いだからか、と思ったらそれまで完全に防御していた の顔面に枕がぶち当たって、そのままベッドにひっくり返った。 |
何一つ悪くないのに巻き込まれたヴォルフラムが気の毒で……(^^;) 未成年の飲酒は駄目ですよ。(とってつけたように…) |