八人の海賊に追い立てられて連れて行かれた甲板では、すでに捕まっていた乗客の みなさんや勇敢に戦って捕まった船員たちがいた。コンラッドとヒスクライフの姿もある。 なぜかミス・上腕二頭筋も男性客側に。三人とも自分の足で立っているということは、 大きな怪我はなさそうだ。 ごめんなコンラッド、せっかく隠してくれたのに。弟さんに非はありません。悪いのは 百パーセントこのおれです。 そっちに行って謝ろうともがいたが、奥衿を掴まれて親分の方へ引き立てられた。 セーラー服って!! と驚いたのも束の間、その直ぐ側で震えているを発見した。 007.大丈夫なんて嘘(4) 「!」 親分をスルーして、おれは震えているに駆け寄った。 「ゆ、ゆーちゃん………」 ああ、。怖いよな。怖かったよな。海賊なんて日本じゃまずお目にかかれるもんじゃ ないもんな。もう大丈夫、おれがついてる。 ぎゅっと抱き締めると、の手が背中に回ってしがみついてきた。 「大丈夫だ、。大丈夫だから」 そう言いつつもなにが大丈夫なのかは、おれにもさっぱりだ。 おれもヴォルフラムもコンラッドも捕まって、おまけにここは逃げ場もない船の上。 どこをどうとっても楽観視できる要素は無い。 だけど、こうして側にいる。 「おやおや、お客さん。新妻を放っておいて妹に構ってばかりはよろしくないんじゃない かのう」 ヴォルフラムはターバンを取りながら、を抱き締めたままのおれに聞く。 「新婚なのか?」 「もう知りませんよそんなこと」 親分は小指を立てたまま、メガホンを口に当てた。 「さあそいじゃご婦人方は隣に移ってもらおうかのう!新しいご主人と出会うまで、 わしらの船で働いてもらうけん」 女性達がさめざめと泣きながら、追い立てられてタラップを渡り始める。 「特別室の娘さんは別じゃ。随分と勇敢に戦ったそうじゃが、わしの前では大人しゅうて 可愛らしい。たっぷり特別に可愛がってやろうかの。お兄さんは新妻とあちらじゃ」 「んな!!」 そんな田舎のじいちゃんがいったなら微笑ましい「可愛がる」も、こんなむくつけきヒゲ親父 が言えば卑猥度百パーセントの台詞!の耳を汚すんじゃない! おれの様子に気付いたのか、十メートルくらい離れているコンラッドが両手を下に向けた ジェスチャーをした。低め低め? あ、抑えて抑えて、か。 おれはぐっと言葉を飲み込んだ。 くそ。 コンラッドの言うとおりだ、ここは抑えておかなくては。おれひとりが文句をつけたところで、 形勢が逆転するわけじゃない。へたに逆らって海に投げ込まれでもしたら、尻拭いをする 彼等が大変だ。それにのことも、他の乗客のこともある。 大きな犠牲を払ってまで、小さな正義感を貫くわけにはいかない。いかないけど……。 の腕が親分に引っ張られた。 思わずそれに逆らって引っ張り返す。 「いたっ」 大岡裁きじゃないんだからと思いつつ、おれはの悲鳴に手を離してしまった。 手を離したんだから、はおれの子供だ、返してくれ。 「おい………っ」 「ゆーちゃん!」 を取り返そうと伸ばした手を、他ならぬに止められた。 わずかの間ながら、どうにか震えは止まっていたようだけど、顔色はまだ悪い。 なのに、そんな状態でも大丈夫だとでもいうように、おれをまっすぐに見て頷いた。 チャンスを、待たなくてはいけない。 の腕を引っ張って移動しながら、親分は樽に片手をついて振り返った。 「そんじゃ続いて高く売れそうな子供ももらっておこうかの!」 「売るだとォ!?」 母親から引き離された幼い女の子が、壊れたアラームみたいに泣き叫ぶ。 他の子供も連鎖して叫び出した。 月もなく濁った曇り空を、人間の燃やす松明の光と、人間のあげる嘆きの声が昇ってゆく。 こんな光景をどこかで見た。受験前の深夜映画で、おれは炬燵に参考書を広げたままで、 テレビの前に座って泣いた。が宥めるように背中を撫でてくれて、恥ずかしいとも 思ったけど、人が人を殺していく理不尽に、父親が起きてくるくらい泣き続けた。 が渡してくれたティッシュで、涙と鼻水を拭くおれに、親父はさらりと訊いてきた。 「お前だったらどうする?」 マックとソーサどっちが好き?くらいの気軽さで。 お前だったらどうする?ちゃんとやるべきことをやれる? やれるさ。 |
この辺りの有利は本当に男前です。 |