勉強に疲れて眠って起きたらに怒られた。

どうやらおれはコンラッドが相乗りの名付け親だって言い忘れていたらしい。

それでおれの魂をコンラッドがあっちに運んで、おれが生まれるまで見守っていたらしい

という聞いた話もしておくと、なんだかの不機嫌度が少し上昇した。

なんで!?





004.嬉しい誤算(2)





ついでにその時コンラッドから、コンラッドがの存在も知っていたことを聞いた。

おれたちが生まれてから少しの間は様子を伺っていたらしく、当然双子の妹の存在も知って

いたというのだ。

なんとなく、ムカ。

理由のわからないむかつきに首を捻りながら船を乗り換えるべく降りて、次の乗船の手続きを

していたコンラッドが困惑した顔で戻ってきた。

「この先の船なんですが、どうやらギュンターが客室をふたつ取っていたみたいなんです」

「へ?それでなにか困ったことでも??ああ、もしかして金の問題?だったらひとつキャンセル

しちゃっても。って、あ、当日だとキャンセル料取られちゃうか。どうしよう?」

「いえ、金の問題ではありません。ただ、男性ふたりと女性ひとりで部屋を取ったみたいで…」

コンラッドとおれの視線が同時にに向いた。

は今、男装しています。

そしておれは精々仕方ないという顔で溜息をついた。コンラッドもそれに便乗する。

そりゃね、眞魔国の美的センスで言えばおれが美形になるんだから、なんて超絶美少女

だろう。だったら男装より着飾った姿が見たいよな。おれも見たいから。

「しょうがないな、。服を買いに行くか」

「そうですね。折角ですからいい服を買いましょう。黒いドレスがないのは残念ですが」

「は?え??で、でもメンバーが代わりましたってことでいいのでは!?」

おれとコンラッドの不純なオーラが伝わったのか、は後退りながら手を振った。

「ダメダメ!できるだけ目立ちたくないんだから、変なことで船員に注目されるのはだって

嫌だろう?」

別の意味では注目されるかもしれないけど、その場合は鼻の下を伸ばした不埒な視線だ。

それはそれでムカつくが、相手の目が緩くなることならあるだろう。

おれとコンラッドのタッグ攻撃からが逃れられるはずもなく、ヒルドヤードの港町で

新しいドレスを何着か買った。

はそんなに何着も買っても無駄になると主張したが、コンラッドに言わせると豪華客船の

一等客室に乗り込む以上、絶対にお茶のお誘いやパーティーに出席することになるから、

何着かないと恥をかくし、なにより変な注目を集めてしまうということだった。

上手いこと言うと思ったが、どうやらマジだったらしいことは、後で嫌というほど思い知る。

とにかく、淡いクリーム色のふんわりしたドレスを身に纏ったをエスコートしてタイタニック

までとは言えないが、代打ニックくらいはいえるだろう豪華客船に乗り込んだ。

そもそもコンラッドは海賊騒ぎの横行している場所で、こんな豪華客船に乗るつもりはなかった

ようなのだが、ギュンターに船の手配を任せたらこうなったらしい。

まあ、の服のことも合わせると、おれ的にはプラスマイナスゼロだ。

豪華客船だからって絶対に襲われるとは限らないし、このご時世で出航するからには、客船側も

対策はばっちりのはずだし。

ただ、なにが起こるかわからないのが世の中なわけで。

………なにが起こるかわからないのが世の中なわけで。




「なんでダブルベッドあんの?いや、それ以前に」

「遅いぞ!お前たち!!」

おれの方の部屋では、ヴォルフラムがベッドに座って待っていた。

「これは、新婚さん向けの部屋のようですね。陛……坊ちゃんたちは、まだ婚前さん……

信じていいんですよね?」

「……アヤマチのおかしかたが判んないよ」

力なく項垂れたおれは、ふと今の言葉に疑問を覚えた。

「…あれ?なあ今の話し方だとさ……」

「さあお嬢さん。俺たちも荷解きをしないとね」

の背中を押してコンラッドが早々に部屋を出て行こうとする。

「ちょっーーと待った!!なにか、コンラッド!あんたと一緒の部屋で寝泊りする気か!?」

「今までだってそうだったじゃないか」

「あれはおれも一緒にいただろ!?ふたりきりなんて、それこそ婚前のにさせられるか!

と同室はおれ!あんたは兄弟なんだからヴォルフラムと一緒にしろよ!!」

おれのセリフに、コンラッドに連れて行かれそうになっていたは明らかにほっとした顔をしたが、

今度はコンラッドとヴォルフラムから抗議の声が上がった。

「なに!?ユーリ、ぼくにこの半人間と一緒に寝泊りしろというのか!?」

「それを言うならおれだってそうだろ。だいたいお前らは兄弟仲良くしなきゃダメだぞ」

「婚約者のお前をおいて他の男と寝泊りしろと、そう言うのか!?」

「ぎゃ!なんかその言い方だとヤラシイことまでおれが奨励してるみたいじゃん!単に同室って

だけでいいだろ!」

「それより坊ちゃん、俺は警護の関係上それを認めるわけにはいきませんよ。俺とヴォルフが

一緒となると、護衛対象と護衛官が完全に分かれることになるじゃないですか」

「ええい!じゃあせめてヴォルフがと一緒!」

それに抵抗がないわけではないが、ヴォルフラムだったら一応おれの婚約者であることを強固に

主張しているくらいだし、は安全だろう。

それに、「男」よりも「可愛い」が前面に出ているヴォルフラムだと、も少しは落ち着けるはず。

「あ、それなら………」

と、やっぱりも納得しようとしたが、これにさらに猛抗議を挙げたのはヴォルフラムだった。

「そんなことできるか!ユーリとコンラートが同じ部屋だなんて………!!こんな狼とユーリを

ふたりきりにするなんてできるか!!」

「酷い言われようだな」

「狼って!?コンラッドくらい信用できる剣豪はいないだろう!?」

すったもんだの挙句、おれととヴォルフラムが一緒の部屋で、コンラッドだけ隣の部屋と

いうことで決着がついた。

コンラッドがちょっぴり残念そうな顔をしたのを俺は見逃さなかったぞ。







船に乗るだけでも一騒動。
このメンバーで旅って、引率者のコンラッドの苦労が忍ばれます(^^;)



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