ショッキングなことを聞いてしまった。 有利、わたしお母さんに成り代わって嘆いておくわ。 ゆーちゃん、は悲しいです。 003.迂闊な一言(2) コンラッドと楽しくお話していると、突然有利がギュンターさんになにか猛烈に抗議し始め て、どうしたのかと有利やコンラッドに聞く前に部屋のドアが開いた。 そこに立っていたのは、ゴッドファーザー愛のテーマが似合う不機嫌そうな、だけど顔の いい長身の男性と、ウィーン少年合唱団のOB、ううんそんなものじゃ言い足りないくらい の天使と見紛う美少年。だって合唱団の子はそれでも人間だもの。 この子は、人間じゃなくて神に愛された彫刻が命を吹き込まれて動き出したんですって 説明されても信じることができそう。 人間でないことは確かなのですが。 なにせ魔族。 ええっと、なにここ。美形天国? 個人的な感想を述べさせていただきますと爽やか三四郎のコンラッドがNo,1なんですが、 美人と言われればギュンターさん、美少年を挙げろといわれればこの怒りの形相の天使くん、 そして迫力の点ではゴッドファーザー愛のテーマの人だ。 それぞれ魅力的な外見をしているけど、共通していることは、「派手」。除くコンラッド。 で、みんなでなにか喧々諤々議論していて、有利が突然「メルギブだ!」と叫ぶ。 メル・ギブソンって異世界でも有名なの?などと馬鹿なことが一瞬頭を掠めたがそんな はずはない。現にコンラッドが「モルギフ」と訂正していた。 ともかく、なにか話が纏まったらしい。 纏まったらしいのに、なぜか落ち込みムードの有利を心配して覗き込むと、有利は お兄ちゃんみたいなちょっと引く笑顔でわたしを抱き締めて頬擦りした。 天使くんがまたなにか怒り狂って有利を締め上げて、有利はそれに食ってかかったり 謝ったりな様子を見せて、どうやらわたしを紹介したり彼を紹介してくれる暇もないらしい。 困惑したわたしに気付いたのか、コンラッドは脇に立って有利の代わりに天使くんと ゴッドファーザーの人を紹介してくれた。 「、ユーリが忙しいみたいだから俺から説明しておくよ。さっき出て行った不機嫌そうな 男がフォンヴォルテール卿グウェンダル。この城の城主で、俺の父違いの兄に当たる。 現在不在がちなユーリに代わって国政を担うことが多い」 なるほど、執政官とかいうやつになるのかな?気苦労が多いから眉間に皺が寄るん だろうね。 「で、こっちでユーリを怒鳴り散らしているのがフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。 俺とグウェンの父違いの弟で、ユーリの婚約者でもある」 へえ、見た目全然似てない兄弟だね、とはさすがのわたしも口にはしません。思うだけ。 父親が違うというのだから、そういうこともあるだろう。 ああ、じゃああのふたりが有利の話に出てきていた前魔王さまの息子の大きい方と 小さい方だろう。なんだ、真ん中がいたなんて言わなかったじゃない。 ゴッドファーザーの人がグウェンダルさんで、この天使くんはヴォルフラムくんと。 で、有利の婚約者ね。 ………………なんですと? 「だから!!誤解だ!!」 ヴォルフラムくんのことを有利に問い質すと、蒼白になって頭を抱えた。 「誤解なの?」 コンラッドを見上げると、笑って肩を竦めるだけだ。 こんな動作が嫌味なく決まるなんて、それだけでも世の男性陣にとっては嫌味な存在 だろう。嫌味なんだかそうじゃないんだか。世の女性陣には垂涎の存在。 「なんでそんなことに教えるんだよ、コンラッド!!」 どうやら有利はかなり錯乱しているようで、コンラッドに日本語で食ってかかっている。 英語でも眞魔国の言葉でもないので、細かいニュアンスまではわかっていないだろう けれど、言いたいことは通じているらしい。コンラッドは両手を広げて有利を宥めている。 と、有利はコンラッドを解放して今度はわたしの両肩を掴む。 「いいか、。誤解だ」 「じゃあ、婚約者じゃないの?コンラッドが嘘をついたの?」 「う……………」 有利は油汗を流して言葉に詰まる。 それがすべてを物語っている。 つまり、本当のこと。 「………有利の趣味がどうあろうと、有利が幸せなら…まあわたしはいいんだけど… お母さんたちにはお兄ちゃんが孫の顔も見せてくれるだろうし」 「だから違うんだって!!」 有利は絶叫した。 「ユーリは知らずにヴォルフに求婚したんだよ」 とは後になってコンラッドが教えてくれた。 知らずに求婚ってなによ、と思ったけどどうやら日本ではどうやっても求婚には取れない 行為が古めかしい求婚になっているらしい。 詳しいことは何故か教えてくれなかったけど、ともかく有利はそのときヴォルフラムくんに 激怒していたそうだ。 激怒した相手にしたことが求婚って……ああ、ひょっとしてグーで殴ったのかな? なにしろ有利は前科がある。中学のときの野球部の監督を拳で殴りつけた。 だからものごとは5秒数えてから判断しろって言ってるのに。 男の有利から求婚されたヴォルフラムくんは最初怒り心頭で決闘騒ぎにまで発展したそう で、それでも今では有利が気に入ったようで、婚約者であることを自ら公言しているん だって。 決闘と聞いて顔色を変えたわたしに、コンラッドは「ユーリの完全勝利だったよ」と宥めて くれた。 まあ、現在では有利を婚約者として認めているようだし、有利は大きな怪我も無く日本に 帰ってきたわけだし。 仲良きことは美しき哉。 なんて余裕なことをいえるのは、有利にそのつもりがないのが見え見えだからかな。 別に同性愛が反対なわけではなく―――まあ、そうでないに越したことはないけど――― わたしは単に有利に恋人ができるのが寂しいだけだ。それは自分でわかっている。 それがどんなに問題なことなのかも。 有利は、絶対にわたしを見捨てないから。 |
お兄ちゃんが男と婚約したと聞かされてすぐに受け入れる。 …開放的な家族です(^^) |