のおれへの呼び方がゆーちゃんから有利に戻ってほっとした。 昔はゆーちゃんだったが、今では普段は有利と呼ぶ。おれをゆーちゃんと呼ぶのはが どうしようもなく弱ってるときだ。 は自覚がないらしいけれど。 ゆーちゃんって呼ぶはぎゅって抱き締めたくなるくらい可愛いんだけど、やっぱり 弱ってる顔は見たくない。 いつもこの境目で、ほっとしながら寂しくなる。 おれも大概だな。 003.迂闊な一言(1) とコンラッドが仲良く握手すると、有能な王佐の顔をしていたギュンターがぎゅっと唇を 噛んで恨めしそうにコンラッドを睨付けた。 さっさとと仲良くなったコンラッドに嫉妬らしい。 まあ、わかるよ。はほんとに可愛いもんな。 しかもこっちの基準で言えば、おれと同じ貴重でウルワシイ双黒なわけで、ギュンターが 嫉妬するのも無理はない。 ギュンターといえば、風呂場で悲鳴上げられてばっかだったもんなあ。半分以上こいつが 悪いんだけど。 どうせ双黒に反応して飛び掛ったに違いない。当分はギュンターが近づけば軽い拒否 反応を見せるだろう。無意識に。拒絶まではしないと思うけど。 は男が苦手なだけだと主張するが、正しくは怖いんだ。 あんなことがあったんだから仕方ない話だろう。 普段は不断の努力で(これは親父が言っていた駄洒落だ)男とも普通に接しているけど、 ちょっとしたきっかけで昔みたいに男がダメになる。 簡単に言えば、さっきみたいにリラックスした状態でいきなり男の前に放り出されるとか。 家から出るときは、いつも心に完全武装、満員電車で痴漢に遭うくらいなら軽く返り討ち にする。 脳筋族のおれとは違うが武術に傾倒しているのは、護身のためだ。まあ、今では居合い も純粋に好きらしいけど。弓も精神集中に良いって言ってたし。 とにかく。 落ち着いたらは基本的に人当たりがいい。男相手でも。 その点、コンラッドならもっといいだろう。 笑顔は爽やかだし、ギュンターみたいにいきなり豹変したりしないし。 おれに好意的だし。 おれに冷たいグウェンダルやヴォルフラムあたりとはどうだろうなあと思っていると、 その長男、三男が同時にご到着だった。 ドアが開け放たれると、黒に近い灰色の髪と青い眼の不機嫌そうな顔のいい長身の男と、 金髪にエメラルドグリーンの眼を持つ見た目だけなら天使のごとき少年が立っていた。 「そいつが私の城に入る許可を、与えた覚えはないのだがな」 「ユーリ!戴冠式の最中に消えるなんてっ、まったくお前というやつは……」 おれを見下して嫌っているグウェンダルはそう言い捨て、おれにくってかかるのが趣味の ヴォルフラムはそう切り出した。 二人が同時に歩き出して、中央のテーブルに寄ってくる。脚の長さの違いからか、グウェ ンダルが先におれとの座るソファまで来た。 高い位置から見下ろしてくる眼は、権力者の威厳と自信に満ちている。 「しかも、曲がりなりにも魔王だけならまだしも、どこの馬の骨とも知れぬ小娘がいる」 不愉快そうに吐き捨てたグウェンダルに、おれは瞬間的に頭に血が上った。 普段のおれならゴットファーザー愛のテーマが似合いそうなこの超迫力な男に反論する なんてできっこない。 だがが侮辱されたとなると話は別だ。 おれが怒り心頭でソファから立ち上がるとほぼ同時に、グウェンダルに遅れていたヴォル フラムが到着しておれの出鼻を挫いてくれた。 「な、………なんだユーリ!!この女はだれだ!?ぼくというものがありながら、愛人 連れで兄上の城に入るなどなにを考えている!?」 「あ、愛人って」 グウェンダルにくってかかる前に、ヴォルフラムに胸倉掴まれて揺すられる。 「しかもこれはどういうことだ!?ぼくがやった金の翼は身につけていないのに、コンラート の魔石だけは持っているなんて……ッ」 「え?だってあれはブローチだったからさ、まさか胸にじかに針刺すわけにはいかないだろ。 なにしろ今回、全裸だぜ!?全裸でこっち喚ばれちゃったんだから」 「服も着ずに!?まさかお前、この女と情事の最中だったのでは」 「情……はあ!?おれが!?と!?」 そんな恐ろしい誤解よくもしてくれる。 「妹だよ!妹!!おれの妹!!目玉ひん剥くような誤解は止めてくれ!おれは兄貴みたい な変態じゃねえんだからな!?」 いや、兄貴だってさすがにをそっちの対象にはしてないだろうけどさ。 あ、でもギャルゲーのヒロインにの名前使ってたことあったな。 …いや、だけどおれの名前も使用していた。なんだ、やっぱりただのシスコンプチ変態だ。 よかった。………いいのか? 「妹?そんな使い古された言い訳………ッ」 おれの首を締め上げんばかりの勢いだったヴォルフラムは言い捨てながら、ソファで突然 の事態に驚いているを見下ろした。 おれの襟を掴んでいた手がようやく外れる。 「…………確かに、お前に似ているな。しかも双黒だ」 「双子なんだよ。似てるのは当たり前」 ホントは二卵性だからそうでもないんだけどな。 まあ、家族でおれたちが一番似ているのは事実だ。お互い母親似だが、母親よりはお互い の方が更に近い。 最近では、がめっきり女っぽくなってきて可愛さに磨きが掛かってきているから、野球 小僧丸出しのおれとは相違がはっきりし出したけど、それでも昔はまるで鏡に映したみたい だと言われたもんだ。 双黒に関しては、もう言っても無駄だからほっとく。おれの家族みんなそうよ? それどころかお隣のおばちゃんもおっちゃんも兄ちゃんもみんなそう。黒髪黒目は日本人の 優性遺伝子なんだってば。 「二人とも、そういうことは、まず陛下に報告するのが筋じゃないか?」 おれがヴォルフラムととんちんかんなやり取りをしている間に、ギュンターとグウェンダルの間で 進んでいた真面目な政治の話題に、いつもどおりのんびりした、けれど背中には真実を隠した 声で、コンラッドが待ったを入れてくれた。 おれは全力で、コンラッドが靴をはさんで開いてくれた扉の隙間に駆け込こんだ。 ら、いつの間にか話は地すべりを起こしてとんでもない方向に。 いや、まあ戦争を回避できる可能性が出てきたんだからそれに飛びついたわけなんですが。 魔剣、ねえ……聖剣ならまだしも、魔剣。 魔王なんだから魔剣。当たり前だけどさ。 がっくり落ち込んでしまったおれを、まったく話がわかっていないが「大丈夫?」と覗き 込んで心配してくれた。 ああ、のその優しさだけでおれの感傷は癒される。 眞魔国は好きだけど、魔王とか魔剣とかって、やっぱ悪役イメージがね、ほらおれ、普通の 日本人だから。 後で聞いた話によると、のことを馬の骨呼ばわりしてくれたグウェンダルはがおれの 妹だとちゃんと知っていたらしい。 風呂場にいたオカマさんたちから報告を受けていたとか。 あの野郎。 ちなみに、おれがにグウェンダルとヴォルフラムの紹介を一切していなかったことに 気付いたときには、コンラッドが全部英語でやっててくれた。 ついでにヴォルフラムがおれの婚約者だってことまで。 ……ひょっとして、わざとか?コンラッド!! |
魔剣を取りに行くことになるくだりは省略で。主人公には会話内容がわかりませんし。 それにしても、主人公が絡まない(=_=;) |