「……どうもあのテーブルの五人組は異国の者らしいな」
「ああ、隣国の自由都市同盟の言葉が聞こえ……あ、!」
テーブル席の五人組は避けるほうが無難かと話し合っていると、ミッターマイヤーの腕から身軽に飛び降りた黒猫がスルスルと椅子とテーブルの足の間をすり抜けて、件のテーブル席へと駆けて行く。
「ええい!なんなのだあいつは!」
ロイエンタールが忌々しげに猫の現在の保護者的存在のはずの男を振り返るが、オーベルシュタインはまるでその視線を無視したまま立ち上がって猫の後を追う。
テーブル席で食事の最中だった五人組で、最初に猫に気付いたのは黒髪の魔道士だった。
彼の椅子の足を引っかいたからだ。
「ん?……おやおや、これは」
「どうかしましたか師匠……猫?」
魔道士の視線を追って床を見た少年は、椅子を引っかく猫を軽く抱き上げる。
「どうして酒場に猫がいるんでしょう。迷い込んだのでしょうか」
「申し訳ない、うちの猫が……!」
真っ先に駆けつけたのは身軽なミッターマイヤーで、を抱き上げていた少年は破顔して猫を差し出そうとする。
「あなたの猫ですか」
「飯屋に動物を連れ込むのはよくないよー」
褐色の髪の武闘僧の、抗議というほどでもない嗜める言葉に、ミッターマイヤーはを受け取りながら頭を下げる。
「いや本当に申し訳ない」
「けれどその子は」
黒髪の魔道士が手を伸ばして、ミッターマイヤーの腕の中の猫の眉間を親指で撫でた。
「呪い?いや、術か。随分複雑な術が組んであるな」
を抱き上げたミッターマイヤーが緊張したように後ろに飛びずさり、すぐ後ろまで来ていたロイエンタールが剣の柄に手を掛ける。
だがロイエンタールの剣は、魔道士には向かわず横から伸びてきた剣を受けた。
「うちの導師に手を出されちゃ困るな」
「賊か?」
「よさないかシェーンコップ!剣を下げて。ユリアンも、ポプランもだよ。騒ぎを大きくしないでくれ。コーネフもその物騒な短剣は仕舞って」
を離して身構えてミッターマイヤーとロイエンタールには、その足元で黒猫が抗議するように鳴きながら足を爪で引っかいていた。脚甲をしているのでロイエンタールは痛くも痒くもないが、鎧を爪で引っかく音が耳障りだ。
「ああ、判った、うるさい黙れ」
ロイエンタールが脚を上げて追い払う仕草をすると、はそれを避けて、身軽に黒髪の魔道士の膝に飛び乗った。
「師匠!」
少年が慌てたように手伸ばしてを払いのけようとしたが、当の魔道士が笑って猫を抱き上げる。
「……うん、だけど私たちの捜し物と、君の捜し物は違うようだから、助けてはあげられないな」
はい、と返されたを受け取りながらミッターマイヤーは眉を寄せた。
「この子の探し物が判ったのか?」
「漠然と。この子からは女性の影響が見えた。我々が探しているのは男だから、違う者だね。その子の助けにはなってやれない」
「……そうか、失礼する」
「おい、ロイエンタール」
肩を軽く叩いて促すと、さっさと踵を返したロイエンタールにミッターマイヤーが戸惑いながら後を追う。
「いいのか。ああは言っているが、もしかして我々の本当に目的まで判ったんじゃないのか?一目見てに術が掛かっていることに気付いた男だぞ。ただの魔道士じゃない」
「判っている。だが深く関わるほうが、よりこちらのボロが出る可能性もある。要は皇女殿下さえ奪還できれば、後から事件が知れても問題はないのだから、あちらの腹を探るより、事を進めるべきだ」
ロイエンタールは、ちらりと後ろのテーブルを伺うような仕草をしながら、先ほどフェルナーが示していた二人組にも目をやった。


1.謎の一団から遠ざかる方が先。店を出る。

2.あちらの二人組にも声をかける。





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