街を出ると、は猛スピードで駆け出しながら大声を上げる。 「姫様ー!待っててくださいね、すぐにお救いしますから!」 広い草原を先へ先へと駆けて行くに、男三人で後ろから歩いて追いながら、ロイエンタールが溜息をついた。 「おい!一人で先へ行くな!」 「そっちこそ急いだらどうなのよ!姫様の一大事なのに!」 かなり先に進んだところで、は黒いスカートをはためかせて振り返る。 「こうしている間にも姫様に何かあったら……!」 「殿下はご無事だ。少なくとも命の保障はある」 オーベルシュタインがやはり平坦な調子でそう言って、男たちが追いついてくるのを待っていたは地団駄を踏む。 「なんでそんなこと言えるの!?」 ようやく追いついた見上げてくる黒猫を追い越しながら、ロイエンタールは軽く肩を竦めた。 「殺害が目的なら、王宮の姫の部屋で事を成している。連れ去ったからには生かしたままでいたい理由があるはずだ」 「さ……さつが……い」 「おい、ロイエンタール。何もそう直接的な言い方を……」 不穏当な単語に衝撃を受けて真っ青になったを見て、ミッターマイヤーが苦言を呈そうとした瞬間。 後ろからロイエンタールに飛び蹴りが入った。 「ぐっ」 装甲の上からなので、痛みはないが衝撃はある。 「な、な、なんて不吉なこと言うのよ!」 「俺は無事だと言っただろう!どこが不吉だ」 前によろめいたロイエンタールが体勢を立て直しながら振り返って、ぎょっと言葉を詰まらせる。 目に一杯の涙を貯めていたは、ロイエンタールの青と黒の瞳を睨み上げて、ぎゅっと引き結んでいた口を開いた。 「あ……」 「待て、泣くな、俺が悪か……」 「足が痛い〜」 「そっちか!」 素足に黒い布の靴を履いているだけの足で、甲冑を蹴りつければ下手をすれば爪が割れている。 自業自得だと憤慨して先を行くロイエンタールの背中と、唸りながら歩くを見比べて、ミッターマイヤーは空を見上げた。 「ま、平和と言えば……平和かな」 「ここ、ここ!姫様はここにいるよ!」 が指差す城門の前で、男三人は首を曲げて城を見上げる。 「本当にここなのか?」 「間違いないの!」 「いやしかし、ここは……」 今までに好意的だったはずのミッターマイヤーまでが、急に訝しげな様子を見せたので、は頬を膨らませて本気で拗ねる様子を見せた。 「おい、オーベルシュタイン。これが必ず姫の元へ向かうという卿の言葉が間違っていたのではないのか?」 「いや、これで正しい」 ロイエンタールの不審そうな視線を受けても、オーベルシュタインは特に気にした様子を見せない。 オーベルシュタインが杖を掲げて横に振ると、城門が開き始める。 「いやしかしここは……」 戸惑いを見せるロイエンタールとミッターマイヤーは、左右に広がり開く城門の先に赤い髪の長身の青年を見つけて、唖然として口を開ける。 「あれは……」 「皇子の従者じゃないか!」 「あ、ジークだー」 門が開いた先で待っていた赤毛の青年は、一行に向かって微笑みかける。 「ようこそ、オーベルシュタイン殿、ミッターマイヤー殿、。そして……」 その笑顔の照準が自分に向けられた時、ロイエンタールは不覚にもこのまま王都へ戻りたくなった。 「ロイエンタール殿。どうぞ、アンネローゼ様がお待ちです」 「な、なぜ皇族所有の城に、攫われたはずの、皇女殿下、が……」 何かしら含む笑顔の赤毛の青年の案内に沿って、城内へ。 |