「なぜ俺がフリードリヒ四世などの息子にならねばならんのだ!おぞましい!一応俺と姉上には、口に出すのも嫌気がさすがセバスティアンという父がいただろう!」
「その御仁では、誰のことか判らぬ者も出るだろうからだそうです」
「判らぬとは、誰が何を判らぬというのか」
「さあ?」
癇癪を起こしていた皇子と、それに動じた様子もない無表情な魔道士は正面から向かい合ったまま、しばらく沈黙した。
「どうぞお怒りを鎮めてください、ラインハルト様。物は考えようです。これならアンネローゼ様も寵姫などではなくなるのですから」
「むう……確かに、キルヒアイスの言うとおりか……しかし職業が皇子とはなんだ?それは身分じゃないのか?……まあ細かいことには目を瞑るか……」
「そうだよ、ラインハルトなんて人間なんだからまだいいじゃない!わたしなんて猫なんだからね!」
ぷりぷりと怒りも露に自らを指差したに、皇子とその従者は顔を見合わせる。
そして皇子が軽く肩を竦めて息を吐き出した。
「ぴったりじゃないか」
「なんだとー!?」
がラインハルトの胸倉を掴んで引き下ろそうとしたとき、後ろから襟首を掴んで後ろに引き摺り戻された。
「殿下に無礼である」
「ちょ、首、首が絞まってます!」
「オーベルシュタイン!何もそんな猫の子を扱うような真似をしなくてもいいだろう!」
掴みかかられた当の皇子が魔道士を咎めると、その無機質な目が皇子に向けられる。
「これは猫の子ですが」
改めて強調されて、部屋に沈黙が降りた。
「……さ、では行くか。キルヒアイス、俺の装備は」
「こちらに用意してあります」
聞かなかったことにされた。
キルヒアイスの手伝いを受けながら鎖帷子と胸甲をつけていたラインハルトは、自分と同じくそれほど重装備ではない従者を見る。
「俺はどうやら剣で戦うだけらしいが、キルヒアイスは」
「私はそのまま、あなたの従者です。魔法剣士ですから、剣と魔法の両方を操れます。ただし私が使える魔法は傷を癒すものだけですので、ご注意ください」
ラインハルトは腰に剣を履きながら頷いた。
「判った。使える魔法とやらが回復だとはキルヒアイスらしい話だな。よし、それでは行くぞオーベルシュタイン。まずはどこに行けばいい」
「この猫は必ず皇女殿下の元へ向かいますので、その案内に沿うか、あるいは街の外の様子の情報を先に収集するか、どちらかですな」
「もちろん姉上の元へ急ぐぞ!」
「賛成賛成!!」
握り拳で意気込むラインハルトに、が右手を高く上げて挙手する。
「お待ちください。たしかにアンネローゼ様のことは心配ですが、相手のことも外の様子もまったく判らないままラインハルト様を向かわせることではできません」
「小官は従者殿に賛成ですが……」


意見が二対二に分かれました。

1.直接アンネローゼの元へ向かう

2.街に出て情報収集




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