「……と、いう夢を見たんだ」
目の前には空になった酒瓶が数十本と、グラスに残る僅かな紅い液体。
窓の外には白み始めた空。
真剣な顔をして語る親友で幼馴染みで元上官を持った身としては、むしろ慰められたいのはオレのほうだと言いたくなる。
「もうさ、お前さ、諦めて襲っちゃえば?案外簡単にヤラせてくれるかもよ?」
「そんなことをすればに嫌われるかもしれないじゃないか!」
夢が現実になったらどうする、と叫ぶ酔っ払いには頭が痛い。
これがまた、顔色一つ変えずに泥酔しているのだから始末が悪い。
眠れないから寝酒に付き合えとか言いながら、実際には淫らな夢を見て眠れなくなってしまったから付き合え、というのが正しかったらしい。
酒に酔うほどに口が滑らかになって「先ほど見た夢」を語られてしまったヨザックは、去り行く憩いの時間にハンカチを振りながら頬杖をついた。
「夢の中の夢じゃなくて、そのシアワセな夢のほうが現実になればシアワセだろ?」
酔っ払いはしばし考えるように、紅い液体の残るグラスを凝視しながら、小さくヨザックの言葉を繰り返し、そして何がどう納得できたのか大きく頷いた。
「……帰る」
夢を語ってくる最中はさっさと追い返したいと思っていたが、いきなり立ち上がった友人が心配になって思わず一緒になって腰を浮かせる。
「帰るって、どこに」
酔って夢と現実が混ざった挙句に、まだ清い仲の恋人のベッドに『帰る』ことがあっては大変だ。
主に、その後のヨザックが。
「俺の部屋に決まってるだろう」
他にどこに帰るんだ、と。
繰り返すが目の前の男は泥酔しながら顔色一つ変えていない。
ぶちのめしてやりたい。
だが主に影響されて平和主義になったヨザックにできることと言えば、たかが知れている。
「なに言ってるんだ。姫がベッドで待ってるんじゃなかったのかよ」
こう言って、国を出奔するくらいしか、できない。


しばらくしてもウェラー卿コンラートが婚約破棄されたという噂は一向に聞かなかったので、恋人にはどうにか許してもらえたのだろう。
ヨザックが帰国できる目処は立っていない。





どうしても落としたくなって無理やりつけた小話。
いつぞやのオチと一緒なんですが(^^;)、どうしてヨザックはいつもこんな役……。
彼女の視点については、あれを次男の目で見た場合になっているとお考えください。
一応別の話です。あくまで別の話……。でないと次男が可哀想な人に(あらゆる意味で)
でもきっとこっちバージョンで一番可哀想なのは、酒気くさい恋人(清い仲)に夜這いされた
彼女でも、恐らく肘鉄で撃退された上に騒ぎに駆けつけた陛下に制裁を加えられた加害者
でもなく、安眠できなかった上に出来心のせいで帰国できなくなったお庭番。


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