、ちょっといい?」
旅行から血盟城に帰って来て一ヶ月、夜にコンラッドが部屋にやってきた。
「忙しくて荷解きした荷物をつい適当に収納していたらしくて、今出てきたんだ……」
コンラッドは片手に、あみぐるみと石鹸を乗せた箱を抱えている。
「ああ!アニシナさんのお土産!」
今はグレタがカヴァルケードに行ってて血盟城にいないからうっかりしていた。
「そう。それで、この玩具と石鹸はグレタと遊ぶという話だったから保存しておくとして」
その二つをテーブルに置くと、上に物がなくなった箱を開けてわたしに中身を見せてくる。
「入浴剤は種類も豊富なんだ。ほら、骨飛族のような滑らかな骨になる白湯とか、砂漠で天然の砂風呂、サラサラ体毛の砂熊に負けない髪質を作る赤湯とか、ほかにも色々」
「……滑らかな肌じゃなくて骨……?」
美骨成分って、それは浸透しすぎだと思う。
そして入浴剤なのに髪質って。
「……本当に売れてるのかな」
アニシナさんが嘘をついたとは思わないけど、結構思い込みが激しい人だからなあ。
「まあ、物は試しというし、も試してみたらどうだろう?俺も興味あるし」
「コンラッドが?入浴剤に?」
「まあね」
曖昧に笑うコンラッドに首を傾げながら、箱を押し返す。
「じゃあコンラッドにあげる」
「アニシナに使い心地を聞かれるかもしれないけど」
「う……」
貰い物を人に回すって、お中元とかお歳暮とか、同じ物が大量に重なってきた時にはやるけど、だからって贈ってくれた人にはバレないようにするのが礼儀ってもので。
「一緒に試してみよう。水着を着てればヒスクライフ氏の店と同じだろう?」
「あー……うーん……それはそうかなあ……」
あの大量の種類が並ぶお風呂を思い出して、首を捻る。
後でつくづく思ったんだけど、どうしてここでわたしは最終日ばかりを思い出して、その前の二日間を思い出さなかったんだろう。
「いいじゃないか、行こう」
「行く?」
「俺の部屋の風呂のほうが狭いから、入浴剤を入れるならそのほうがいいだろう?」
「ああ、そっか」
「そうだよ。じゃあ、水着を持って」
「うん」
う……ん?
当たり前のように促されて、寝室に移動して仕舞い込んでいた水着を取り出していることに気付いて首を捻る。
いつの間にか一緒にお風呂に入るの、決定事項になってる?
「あのね、コンラッド」
寝室から顔を出すと、コンラッドが手にしていた袋を一つヒラヒラと降る。
「美人の湯成分に近い、黒湯なんていうのもあった。黒湯なんて、まさかインクみたいな湯じゃないとは思うけど」
美人の湯という言葉に反応してしまった。やっぱり、コンラッドの傍にいるならちょっとでも綺麗になりたいし。
でもそれはもう充分に格好いいコンラッドと使うより、一人で使いたいかも。
「そ、それよりさっきの白湯を試してみたいなー」
水着を手にリビングに出て、コンラッドの手から黒湯という妖しげなものを取り上げる。
コンラッドは、にっこりと笑った。
「そう?じゃあ今日は白湯にしようか」
「うん」
わたしの手に黒湯の袋を残したまま、コンラッドが箱の蓋を閉めたので、なんでもないような振りでテーブルの端にそっと置いてコンラッドと一緒に部屋を出た。






コンラッドの企みは当初の予定通り運んだご様子で……(あそこまでしても)
一ヶ月経っても帰ってないなら、最初から普通に温泉館に行けばよかったですね(^^;)


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