「めっちゃくちゃな劇になった……」 観客たちが退場した後の広間で、有利は頭を抱えて反省会を開いた。 「いや、まあアドリブばっかり続くしさ。渋谷なんて森のシーンで飛び出すし」 「だってコンラッドがさ!グレタが見てるのにキスなんてするから!」 「やだなあ陛下。手の甲への口付けは挨拶ですよ」 「わたしとしては、、って、村田くん以外誰も赤頭巾と呼ばない赤頭巾ちゃんって何と言いたい……」 「それ?それが一番気になったの?ウェラー卿のアドリブの数々はいいの?」 村田は指折りコンラッドの台本にない行動を数え上げる。 その1.森での名前を聞いて手の甲にキス。 その2.おばあさんの家を訪ねた時、声真似の裏声をする気ゼロだった。 その3.ヨザック自身がベッドから安全に落ちるはずだったのに蹴り落とした。 その4.赤頭巾が訪ねてきた時も、おばあさんの声と口調も真似る気がなかった。 その5.との問答のセリフを一部勝手に変えていた。 その6.をベッドに引き摺りあげた時、被る予定のなかった毛布を被った。 「そうだ!特に最後のはなんだ!」 「そう興奮するなヴォルフ。俺だって舞台上でやましい真似をするはずがないだろう」 「のスカートが捲れ上がってたのは!?」 「あ、それ逆。ベッドに引き上げられて捲れてたスカートをコンラッドがあそこまで引っ張り下ろしてくれたんだよ」 有利の悲鳴にが軽く手を上げて、恋人のために訂正すると有利の目が点になる。 「あ、そうなの……?」 有利とヴォルフラムの勢いが弱まって、コンラッドはすかさずナレーションに話を移した。 「アドリブといえば猊下もじゃないですか」 「なにがー?僕は我慢できずに飛び込んだ渋谷とかフォンビーレフェルト卿のフォローだけだっただろう?」 「俺に必ず腹黒いとか極悪とかずる賢いとかスケベとか付けてたじゃないですか。あんなの台本にはなかったですよ?」 「あれえー、そうだっけー?君の行動の数々を見ていたら、全然違和感なくて気がつかなかったよー」 ヨザックとダカスコスは反省会には参加せずに、黙々と会場の後片付けをしている。 は溜息をついて、まだ放置されていた椅子に座った。 「問題はグレタの目にどう映ったかと思うんだけど。反省会って言っても再演するわけでもないし」 「ああ、それね。ちゃんと聞いたよ。お父様が一番強いんだ、だってさ」 「どうしてそっちになるんだ!?知らない人に声を掛けられてもほいほいついていかないとか、寄り道するなって言われたのに寄り道したらいけないんだって、そっちを気にしてほしかったのにーっ!」 「そりゃだって、それらの注意はお父様がしてたわけだし。役柄でも頑として母親は嫌だと言うフォンビーレフェルト卿のために父親にしてさ、最後も狩人の活躍の場を奪って狼を倒しちゃうし」 「ああ!そうだよっ!おれはどう見えたんだ!?」 「うーん、あの話運びだと確かに何のためにいたのかよく判んない人だね」 「く、くそ……」 有利ががっくりと床に両手をついて項垂れた。 「陛下、そう落ち込まずに」 「誰のせいだよ、誰のーっ!」 「え、でも俺のアドリブは特に話の筋を変えるようなものはなかったでしょう?」 言われて思い返せば、確かに話の筋を狂わせてしまったのは有利とヴォルフラムだけだ。 「お、おれのせいか……」 「あ、渋谷。あとお姫様の感想がもう一個」 「……なに?」 「人を騙す時ほど爽やかな笑顔で、だって」 有利を慰めていたコンラッドの表情が強張り、有利が鋭い目で睨み上げた。 「コンラッドォーっ!!」 「ああ、ヨザック。それは俺がやる」 すたすたと衝立を片付けるヨザックの方へ逃げてしまったコンラッドを、有利とヴォルフラムが怒りも露に追いかけた。 と二人、残った村田は軽く肩をすくめる。 「ま、あの配役になったところで大体、こんなことになるんじゃないかとは思ってたんだけどね」 「でも、狼役は最後に殺されるから、有利や村田くんにはさせられないっていうのがコンラッドの意見だったし」 「いっそとフォンビーレフェルト卿の役を交換したらよかったかもね」 「え、赤頭巾くん?」 が笑ってグウェンダル作の赤いフードを取りながら掲げてみた。 「うーん、確かにヴォルフラムだったら似合いそうだよね」 「だけどフォンビーレフェルト卿は女装を嫌がったし、の言うような赤頭巾くんと男の子にしちゃうとせっかくの隠喩が潰れるからダメだったし」 「隠喩って?」 「あーれー知らないの?今日やったのはグリム童話版だよ。そのグリム版の元になったシャルル・ペロー版」 「へえ、そんなのあるんだ」 「うん。で、ペロー版だと、赤頭巾ちゃんはおばあさんに化けた狼に言われるままに服を脱いでいくんだよ」 「……なんで?」 「添い寝して欲しいって言われて」 「添い寝でなんで服を脱ぐのよ!?」 村田は、声に出して笑ってコンラッドを指差した。 「だってほら、狼は男の隠喩だから」 唖然とするの肩に手をおいて、小さく教訓を告げた。 「だからねえ、ぺロー版だと赤頭巾は助からない。そりゃそうだよね。無くなった純潔が戻ってくるわけないんだからー」 笑って軽く二度ほど、硬直したの肩を叩いた。 「気をつけてね、赤頭巾ちゃん」 |
実は今回、大賢者が一番やりたかったことはこれでした(笑) (そのためにこの配役でGOを出したというか^^;) |