がバレンタインの贈り物を猊下に贈ったと聞いて、最初は落ち込んだ。 すぐにが来てくれて嬉しかったけれど、俺への贈り物は持って来れなかったと聞いてまた少し落ち込んだ。だがが側にいてくれるなら、それが一番のプレゼントだと思ったのも束の間、は俺の気も知らないで猊下と仲良く部屋を出ていってしまうし。 取りあえず、猊下と二人きりの状況だけはどうにかしようとギュンターを送り込んだら、それがの足止めになって、街にプレゼントを買いに行けなかったとが申し訳なさそうに言ってくれて、そんな様子も可愛くて俺はそれでもう落ち込んだり拗ねたりするのはやめようと思ったのに。 こんな嬉しいプレゼントをもらえることになるなんて、眞王陛下のご加護に感謝だ。 ……いいや、の愛情の深さにこそ、感謝だ。 急遽開いたパーティーということもあるが、何よりギュンターが「陛下と猊下と殿下のご寵愛臣下だけの宴です!」と張り切ったお陰で、ごく近しい者だけのパーティーは豪勢ではあるが小規模だったので、もそんなに疲れなかったようだ。 パーティーの最中は何かと猊下に二人きりになる邪魔をされたが……これさえ終われば、からプレゼントをもらえると思えば心も広くなる。 「ユーリ、そろそろお開きにした方がよくないですか?」 こちらに来たその日から仕事をしたユーリに疲れの様子が見えてそう提案すると、ちょうどいいタイミングだったらしく、ユーリもすぐに頷いた。 「そうだな、ちょっと疲れたかも。グレタはまだまだ元気だけど」 「華やいだ場所で興奮しているんでしょう。部屋に帰って落ち着けば、すぐに眠たくなると思いますよ」 「うん、多分ね。グレタおいでー、もう部屋に帰ろうー」 「はーい」 グレタも素直にユーリの元に戻ってきて、着々と部屋に帰る準備が整いつつあった。 「あれ、もう帰っちゃうの?」 出た。 人畜無害を装った猊下が歩み寄って、何気ない様子でに新しいグラスを勧める。 「村田くん……これお酒」 「ちょっとくらい無礼講、無礼講」 「村田、無礼講の使い方間違えてる」 日本では十六歳は未成年ということで、ユーリは飲酒に渋い顔だ。 「お酒は飲むと眠くなるからパス」 「眠くなるの?まあいいじゃない、もう夜なんだから後は眠るだけだしさ。それとも、まさかこれから何か予定でもあるの?」 「え!?」 はぎくりと肩を揺らして、もう一度押し付けられたグラスに困惑した。 ユーリの視線を感じて焦ったのか、急いでグラスを受け取る。 「べ、別に、何もないけど……じゃ、じゃあせっかく持ってきてくれたから一口だけね」 「あ、……」 よりによって、それはアルコール度が高いのに。 慌ててグラスを取り上げたけれど、既に一口飲んでいた。 「苦っ……村田くん、これ味が濃い!」 「きつかった?ごめんごめん、ま、寝酒にはちょうどいいでしょ」 「おい村田、に酒なんて勧めるなよ!」 「怒られちゃったよ。それじゃ渋谷、、フォンビーレフェルト卿、グレタ、また明日ねー」 猊下はひらひらと手を振って会場の端で待っていたヨザックの方へ歩いて行った。 ようやく厄介な人が退いてくれてほっとする。気になるのはが最後に飲んだ酒だが、一口くらいなら……たぶん、大丈夫だろう。 「、大丈夫?目が回るとかふらつくとかは……」 「ん、大丈夫」 はにっこり笑って頷くと、自然な動作で俺の腕に抱きつく。 「有利とグレタにはヴォルフラムがついてるから、コンラッドはわたしがもらっていい?」 「へ……?」 「ああ、構わないぞ。こっちは任せておけ」 大胆な発言にユーリの目が点になり、ヴォルフは聞かれるまでもないと鷹揚に頷いた。 「ちょちょちょ、!もらうもなにも、方向一緒だろ!?」 「わたしはこの後コンラッドの部屋に行くのー」 ね?と微笑みながら訊ねてくれるのは可愛いけれど……ユーリの目が。 「こんな時間にいくら恋人だからって、男の部屋に行くのは感心しないぞ」 ユーリの目が、据わっている。 叱られたは頬を膨らませて軽くユーリを睨み付けた。 「だって今日はバレンタインパーティーだったんだよ?なのにちっともコンラッドと二人きりになれなかったんだもん。昼間はゆーちゃんがコンラッドを独占してるんだから、晩はわたしのなのー」 やられた……。 普段なら絶対に聞けない言葉の数々に、俺もユーリも判っていた。猊下の最後の仕掛けだ。 酒に弱いは、どうやら一口でも少し回っているようだった。 「……コンラッド、あんたを信じてるからな」 「俺は無理強いはしませんよ」 「酩酊状態にかこつけるなよって言ってるの!」 「……承知しました」 元の約束は素面の時のものだ。 とはいえ、の酔いのまわり具合次第では、今夜はやめておくべきだろう。 ユーリが退いて、はぱっと表情を輝かせた。 「じゃあコンラッドは連れて行っていいよね?」 「ほどほどにして部屋に帰って寝ろよ」 「うん、ほどほどにする」 心配そうなユーリを見送って、広間の入り口ではバイバイと手を振った。相変わらず片手は俺の腕に抱きついたままで、そこを気にしながらもユーリは再度信じているからなと念を押してヴォルフに引き摺られて行った。 あそこまで言われると、逆に信じてもらえていないと思うのは俺だけだろうか。 「少し散歩してから部屋に行こうか?」 「ううん、すぐ行く」 「でも酔いを覚ました方が……」 「わたし酔ってないよ」 酔っ払いはみんなそう言うんだよ、……。 俺が溜息をつくと、は不服そうに唇を尖らせる。 「酔ってないよ……ううん、ちょっと酔ってるけど……ちゃんと自分が言ってることわかってるもん」 「陛下にあんなこと言って、きっと警戒してるよ」 「だからこそ逆に、ちょっといちゃいちゃするだけだと思うんだよ」 それは、確かにそうかもしれない。疑わしそうな様子ではあったけど、結局粘らず退いてくれたし……。 「ね、酔ってコンラッドの部屋に行くんだから、お泊りになってもそれで充分言い訳になると思わない?」 「え……」 それはつまり、その……。 にっこりと微笑んだの頬はアルコールで少し赤く上気していて、俺は心のメモ帳に赤文字で大きく書き記した。 には、少量のアルコールなら、かなり有効。 の希望で(ここを強調したい。俺としてはとてもしたい)まっすぐに俺の部屋に行くと、用意していた花束をに贈った。 「え、嘘……いつ用意したの!?」 「残念ながら俺自身では選べなかったけど、人に頼んで街まで買いに行ってもらったんだ」 「あ、そうか……人に頼むっていう手があったんだね」 まだプレゼントのことを気にしていたらしい。 が花束に埋れながら小さく独り言を呟き、俺は笑いながら花束を回り込むようにして頬にキスをした。 「プレゼント、くれるんだろう?」 は頬を真っ赤に染めて花束に顔を埋めるように俯いてから、そっと上目遣いで俺を見上げる。 「……もらってくれる?」 「喜んで」 間にある花束を取り上げて、唇を深く重ねた。 口付けをしたまま手探りでテーブルに花束を置いて、上着を脱がせた。肩紐を落とし背中の釦を一つ外すと、淡い青色のドレスはすぐに床まで滑り落ちる。 「紐解くのがこんなに楽しみなプレゼントは初めてだ」 「ホント……?」 短めのスリップドレスの紐に手を掛けたらそっと押さえられる。 「ね、ベッドにいこ?」 「……そうだね、じっくり味わいたいかな」 髪を解くと白い花弁と共に、絹糸のように柔らかく艶やかな黒い波が背中まで流れる。 細い身体を抱き上げ、ベッドまで運ぶとその上に横たえた。 白いシーツに黒い髪が広がって、スリップドレスの上から撫で上げるようにして、脇腹から手を滑らせると、は吐息をついて俺を見上げた。 「ん……待って」 「待てない」 光沢のある滑らかな手触りの布の上から柔らかな胸を撫で上げて、首筋に顔を埋めて音を立ててキスをする。手の中の身体が小さく震えた。 「や……ダメ……今日は……プレゼント、なの……」 「え?」 プレゼントで今夜は俺に時間をくれるんじゃないの、と顔を上げると目を合わせたは恥ずかしそうに頬を染めて俺の礼服に指を掛けた。 「いつもしてもらうばっかりでしょ……?その……わたしにしてほしいこと、ない?」 「え、でも……」 「今日はプレゼントなの」 こうなると、ことごとく邪魔立てしてくれた猊下には感謝するより他はない。 「本当にいいの?」 「うん……」 ゆっくりと起き上がった肩から黒髪が流れ落ちて、は少し腰をあげて俺の首に腕を回すと口付けを贈ってくれる。 「何がいい?」 唇が微かに触れ合うほどの距離でが囁くように呟いて、俺はその手を解くとの媚態に少し反応し始めている箇所にその手を持っていった。 「の手でしてほしいな」 こんなこと、普段のには絶対に頼めない。 今日はプレゼントということと……なによりアルコールが入っているからこそだ。 「……うん」 は戸惑いながら頷いて、恥ずかしそうに俯いた。 「下手だと思うけど……き、気持ちよくなかったら、ゴメンね?」 そんなことを気にしなくても、が俺に何かしてくれよういうその気持ちだけで充分に嬉しいのに。 ……だからって、気持ちだけ受け取るからとは言えないわけだが。 の指がたどたどしく俺の下衣をくつろげ、そこで少し戸惑ったようだった。俺の下着はのものとは違い、庶民的なものだ。協力する意味で腰を浮かして下着をずらすと、はほっとしたような、だけど素直には喜べない複雑な表情を浮かべる。 上からそれを見ていると笑いを堪えるに一苦労だった。 「え……っと……お、男の人のって……こんな風に……なってるんだ?」 「見たことなかったっけ?」 「だ……だっていつもそれどころじゃないし……一緒にお風呂に入っても、成長してからは有利のもじっくり見たことなんてないし……」 「ベッドの中で他の男の名前を呼ぶのはルール違反だよ。例え陛下でもね」 「ご、ごめんなさい……」 思ったよりも語気が強かったのか、がしょんぼりと落ち込んでしまって慌てて頬にキスをする。 「怒ったわけじゃないよ。でもこれからも、陛下のをあまりじっくり見ちゃだめだからね」 ユーリにまで嫉妬するのかと言われそうだが、本来なら一緒に風呂に入るのだって言語道断だという気持ちがあるのだから、これくらいは許して欲しい。 「うん。背中の流しっこするだけだから、見ることあんまりないよ」 俺としては、陛下が俺のの裸を見るのもちょっと我慢できないんだけどね……。 せっかくがその気になっているときに叱り付けて落ち込ませたくはない。 それに、が恐々と伸ばした指先で触れてきて、そちらに神経が集中してしまって注意どころではない。 「う……わぁ……こ、こんななんだ……」 「、くすぐったいよ」 指先で辿るように触られて、笑いを漏らしながらそう言うと、は困ったように眉を下げる。 「えっと……ど、どうすれば……」 「掌全体で優しく握って」 「う、うん」 「それから、最初は優しく撫でるように始めて、少しずつ強弱をつけて」 「えと……こ、こう……?」 言われるままに両手全体で俺を覆うとゆっくりと撫で始める。やはり最初はおそるおそるという感じで始められてくすぐったかったが、そのうち驚いたように両手をパッと離した。 「?」 「だ、だってなんか、その、か、硬くなってくるし、おっきくなってくるし、か、形も変わってきたんだけど……!?」 ああ、本当には何も知らないんだなあと思うと、愛しくてたまらない。の中の性知識は俺と身につけたもの以外はほとんどないに等しい。 「それに立ち上がってくるし?」 顔を真っ赤に染めるに笑いを噛み殺して、その手を取ってもう一度そこに導いた。 「こういうものなんだよ。の中に入る時は、もっと大きくなってるし、硬くなってる。ね、触ってごらん」 「え、うそっ!」 もう一度俺のものを握ったは、眉を下げて今にも泣きそうな顔で俺を見上げる。 「これより大きいなんて嘘……は、入らないよ」 「いつも入ってるよ。大丈夫」 「わたし壊れちゃう……」 なんて嬉しい言葉を繰り返すんだ。 もう何度も身体を重ねているのに、まだそんな可愛いことを言う恋人をどうしてくれようかと今すぐにでも押し倒したい衝動をぐっと堪えて先を促す。 「、もっと気持ちよくして欲しいな」 「う、うん……あの……でも……ほ、本当に……?」 不安そうなの唇にキスをして頬をそっと掌でなでた。 「本当だよ。後でちゃんと証明してあげるから、ね?」 手でしてもらったのは失敗だったかと思ったのは、が久々にかなり挿入を怖がってなかなか入れさせてくれなかったときだった。 「、大丈夫だから」 「で、でも、でも、ホントにもっと大きく……!そ、それに硬くて……」 「もちろん大きければいいというものじゃないけど、俺のはいつも気持ちよかっただろう?……どうしても、怖い?」 困ったように弱々しく尋ねると、俺の胸に手をついて突っぱねていたは、その力を緩める。 「ホントに……大丈夫?」 「もちろん。俺はを傷つけたりしないよ」 「……ゆ、ゆっくり……して、くれる?」 「うん、優しくするから」 「絶対?」 「絶対」 はようやく、だけどまだ少し不安な様子で手をベッドに降ろした。 「じゃあが本当に痛かったり、いやだと思ったらやめるから」 「ほ、ホント?」 シーツに落ちたの細い手を握り締めて、焦れる気持ちを押さえてできるだけ優しく見えるように頷く。 「あ、でもダメ……だ、だって今日プレゼントだから……」 「に我慢させたプレゼントは俺も寂しいよ。が気持ちよくなって、感じている顔を見せて欲しいんだ」 「コンラッド……」 は少しだけ瞳を潤ませて、俺の手を握り返した。 「きて……」 「うん」 納得してくれたのかと嬉しくなって、たぶんかなり締まりない顔をしてしまっただろうけど、は怒ったり笑ったり、怖がったりせずに俺を受け入れてくれた。 「あっ……や……大き……」 「痛い?」 「ん……ん……へい、き……」 「じゃあ、気持ちいい?」 は目元を真っ赤に染めて、俺から視線を外して横を向きながら、小さく頷いた。 「気持ち…いい……よ?」 しまった、また顔の締まりが……。 「ね、平気だっただろう?」 「へ、平気じゃ……あぁっ」 の腰を抱き上げて、そのままベッドの上に座った。 スプリングが軋む震動には小さく嬌声を漏らす。 「気持ちが良すぎて平気じゃない?」 「……ばか……」 消え入りそうな声で俺の胸に額を押し当てるの腰をゆっくりと揺する。 「あっ、やんっ……」 「この部屋にも、の部屋のような姿見があればよかったな」 「な、なんで……?あっ……や……ゆ、揺らしちゃ……」 「だって俺達が繋がってるところが、にも良く見えるから」 「や……やだぁ……」 ぎゅっと強く俺に抱きつくの背中を宥めるように撫でながら、下から強く突き上げて腰を動かす。 「あっ、やっ、だめっ……はっ…ぁ……」 「下を見て、。ほら、俺のを全部飲み込んでるよ。大丈夫だっただろう?」 はもう言葉もないようで、俺にしがみつきながら何度も小さく頷く。 「いくよ、いい?」 「ん……きて……あっ、あっ、わ、たしも……も……ダメ……っ」 仰け反ったが俺の膝から落ちないように腰を抱きかかえて、その奥深いところで俺も絶頂を迎えた。 空が白み始める頃、俺はまだ疲れきって泥のように眠るの寝顔を飽きることなく眺めて指先に髪を絡めていた。 あれから何度求めたか、俺ですらよく覚えていない。今日のは最初以外は一度も拒むことがなかったから、思う存分隅々まで味わって可愛がって慈しんだ。 酔いがあったからこそ大胆に始めてくれたわけだが。 「一体どの辺りで酔いが醒めていたのかな」 眠るは答えてくれないけど、たとえ起きていたとしても誤魔化して教えてはくれなかっただろう。 「おやすみ、……よい夢を」 額にキスを落すと、腕の中の身体を抱き締めて、俺も短い眠りについた。 |
表であまりに次男が可哀想だったので、次男救済話でした。 ……ら、今度は次男の幸せに力点を置き過ぎた……。 大賢者の追及が甘いのは、彼も本気で二人の時間の邪魔するつもりはない からだと思います。……たぶん(笑) |
自主的課題
「青い鳥はどこに」
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