「ベーネミュンデ侯爵夫人か!やってくれる。あの女、姉上に何かしていたら目にもの見せてくれる!」
「もう何かしてるよ!断固許さない!」
「ああ、そうだった!まったくだ!」
北へ向かって憤慨しながら旅を続けるラインハルトとを、キルヒアイスはときどき諌めることを忘れなかった。
何しろ、がアンネローゼの居場所を北と感知したことと、ベーネミュンデ侯爵夫人が北へ行ったことこそ一致したが、それだけで夫人を犯人と断定するわけにはいかないからだ。
「証拠を掴まないうちに騒ぎ立てれば、下手をすればラインハルト様のお立場の方が悪くなります。くれぐれも短慮は控えてください」
「判っている。だが、あの女が限りなく黒に近いことは明白じゃないか!」
「もちろんです。だからこそ、言い逃れなどできないように、確たる証拠を掴むことが重要だと申し上げているのです。それを掴めさえすれば……」
ぐっと拳を握り締めたキルヒアイスに、ラインハルトとの怒りは、素直に諌められたときより、少しだけ覚めた。
「……ジークが黒ーい……」
「……うむ……だが、これでこそキルヒアイスという気がしてくるから不思議だ」
「どうしたんですか、お二人とも。そんなに身を寄せ合って。さあ急ぎましょう。、進む道はこっちでいいんだね?」
「はい!この道を真っ直ぐです!」
急に返事の良くなったに、理由がまるで判らないかのように首を傾げながら進むキルヒアイスの後ろを、ようやく静かになったラインハルトとがしずしずと歩く。
最後尾でその様子を見ていたオーベルシュタインは、黙って着いて行くだけだった。


「結局、限りなく黒に近い女がそのまま黒だったわけか」
ベーネミュンデ侯爵夫人の居城の近くで、今にも城内に突っ込みそうなの襟首を掴んだままラインハルトは呆れて荒い息を吐いた。
ラインハルトに掴まれて前に進めないは、少し離れた城を見上げて唸り声を上げる。
「そーこーにー姫様がいるのにー!」
「このまま乗り込んでも広い城の中で、城内のすべての敵と戦わなければならない。正面から乗り込むのは馬鹿のすることだ」
「そうですね……人数も厄介ですが、それ以上にアンネローゼ様を人質にされたらどうすればいいのか……」
「じゃあどうすればいいの!?」
「お前は姉上の居場所をほぼ正確に探り当てることができるのだろう」
「だからあの城の中にいるってば!」
「それを使うんだ」
ラインハルトは城を見上げて悪戯小僧のように、にやりと笑った。



城内へ





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