「あらあら、随分少ない人数で来たのねえ」
「ヴェストパーレ男爵夫人!」
オーベルシュタインを除く三人の声が重なった。
城に入ってからも特に阻まれることなく、すんなりと到着した城の最上階では、アンネローゼ皇女とその友人の男爵夫人がゆったりとした茶会を催している最中だった。
「どういうことですか、姉上!?攫われたのではなかったのですか!?」
優雅にカップを傾けていたアンネローゼは、軽い吐息をついてソーサーを片手に弟を見やる。
「男爵夫人にご協力いただいたのよ。お父様ったら、いつも私のところを訪れてばかりで、まったく政務をなさらないんですもの。少し懲りていただこうと思ったの」
開いた口が塞がらない状態の弟と従者を置いて、飼い猫のは主の元に駆け寄った。
「だったらわたしだけは連れて行ってくださったらよかったのに!」
「あら……その黒い髪、それにこのアメジストの石のように輝く瞳……もしかしてなのかしら?」
「はいっ」
駆け寄って膝に取りすがる少女の頭を優しく撫でて、アンネローゼは微笑みを浮かべる。
「だってあまり大事にするわけにもいかないでしょう?私のことを早々に探し出してくれるように、あなたには案内役をしてもらいたかったのよ。それにしても、先に魔法のことは聞いていたけれど、本当に人間にすることができるなんて驚いたわ。さすがオーベルシュタインですね」
「お誉めに預かり光栄です。妃殿下」
「なに!?待て、オーベルシュタイン!お前まさかグルだったのか!?」
「共犯と言われると聞こえが悪いですな。小官はあくまで妃殿下の命に忠実に従ったまでのことです」
それをグルというのでは。
ラインハルトとキルヒアイスは沈黙することで、どうにかアンネローゼの前で激することを押さえ込んだ。
「で、ですが男爵夫人の居城はここではなかったはずでは……」
キルヒアイスは辛うじて精神的再建を図って疑問を投げかけると、ヴェストパーレ男爵夫人は笑いながら扇を広げて笑う。
「ここはシャフハウゼン子爵の別邸よ」
アンネローゼの友人である男爵夫人か、シャフハウゼン子爵夫人が普段過ごしている居城なら、すぐにここがどこだか判っただろう。
手が込んでいるのか、手抜きなのか判らないアンネローゼの計画に、最初から全てを知っていたオーベルシュタインと、アンネローゼの元にいられるならなんでもいいとは別に、ラインハルトとキルヒアイスはひどい脱力感に襲われた。


こうしてアンネローゼは無事に城に戻った。
協力者のヴェストパーレ男爵夫人、シャフハウゼン子爵夫人、そしてオーベルシュタインは皇女の要請に従っただけということで罪に問われることもなく、娘の行動に自らの不明を恥じたフリードリヒ四世は真面目に政務に励むようになった。
猫のはあれからときどきオーベルシュタインに人間に変えてもらい、アンネローゼに甘える様が目撃されている。
なお、その際は大抵最後には皇子ラインハルトと喧嘩になっていることも確認されている。


エンド1




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