「はい、ラインハルト。ジーク」
それぞれ差し出された小さな袋を前に、ラインハルトとキルヒアイスは揃って目を瞬いた。
「なんだ、一体」
「ものの本で読んだんだけど、大昔の地球の一部地域で新年にした風習なんだって。お年玉とか、エイディーとか、リシとか、呼び方は様々みたいだけど」
袋を受け取ったラインハルトは呆れながらそれを開ける。
「またものの本か。暇だとお前はろくなことをしないから不安だな」
「不安とは失礼だね!」
……これ、お金が入っているけど?」
「そうそう!年明けに大人から子供にそうやってプレゼントするんだって」
「お前、それでは大人と子供が逆だろう」
目を細めて、馬鹿にしたような哀れむような目を向けられて、元々しゃれのつもりだったとはいえ、の神経をぴりりと逆撫でする。
「うるさいな!たかが五歳年上なくらいで!」
「しかし、子供にプレゼントするものが現金とは即物的だな」
百帝国マルク紙幣をヒラリと裏返しながらラインハルトが呆れると、は肩を竦めて苦笑する。
「ある意味合理的だけどね」
「違いない」
「なにか由来があるんじゃないのかい?」
それが習慣だったのならとキルヒアイスがごく常識的な疑問を尋ねてみると、は両手を広げて首を捻った。
「かもね」
「かもねって、調べたわけじゃなかったの?」
「その本は由来まで載せてなかったし。わたしは遊びとか面白い話が判ればいいから」
「なんてらしい…」
「なに?どういう意味?」
「別に」
にっこりと笑顔で済せるキルヒアイスに、ラインハルトは溜息をついた。
「お前が一番手厳しいよな……」
なのにその笑顔ですべてをうやむやにしてしまう。
「まあいいや」
「いいのか……」
そしては、それに簡単に誘導されるほど単純だ。あるいは、キルヒアイスに対しては無意識のうちに防衛が働いているのかもしれない。ラインハルトに対してあんなに素直に引くことは滅多にない。
「あとねー、サカヅキ?こーんな平べったい小さなお皿みたいなもので少量のお酒を飲んで」
「皿?皿でわざわざ酒を飲むのか?」
「お皿みたいなグラスだって。こんなの」
が指で空中におおよその形を描くものの、どうしても平皿にしか見えないそれにラインハルトとキルヒアイスは首を捻る。
「バクチクっていう、音と光だけの爆弾を爆発させて」
「閃光弾を上げるのか?新年早々軍事訓練か何かをやる習慣でもあったのか、地球は」
「……物騒ですね」
きっとなにか勘違いが含まれているのではないだろうか。
当り障りのないコメントで、昔の変わった習慣を話し合う二人を、再現したいとさえ言い出さなければいいかとキルヒアイスは遠巻きに見守ることにした。






明けましておめでとうございます!
遅きに失した感がありまくりですが、年賀ご挨拶SSです。
それにしてもジーク…遠巻きと言う辺りが何気に冷たいです(笑)



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