バレンタイン。
それは女の子の日。ある意味ひな祭りよりよっぽど女の子のための日!
そういうわけで、有利くんに手作りチョコを渡そうと思ってトリュフを作ってみました。
作るだけは作ったものの、どういう顔をして渡せばいいのか判らなくなって、急遽材料を買い足して、チームの皆に配れるように用意して……テーブルに両手をついて項垂れる。
「これじゃ完璧に義理チョコだと思われる……」
それでは意味がない。意味がないけど、チームの皆に配ろうと考えた時点でもう敗北は決定していたような気がする。
とりあえず皆に配る分は義理チョコなので、一人三粒ずつで透明のセロファンに入れてピンクのリボンで口を括って出来上がり。
せっせと人数分を作ったら、当然最後の問題として有利くんの分が残った。
「有利くんのだけ一個多くして……」
そんな微妙なアピール、気付いてもらえるとは思えない。
「っていうか、アピールとかじゃなくて、はっきり告白したらいいんじゃない!」
それができればテーブルに積み上げられた義理チョコの山はない。
「……一個多くしてラッピングも変えるとか」
それも大して変わらない!
「じゃあどうしろっていうのよ!」
ひとりツッコミをしながらあーでもない、こーでもないと迷う。
そんなこんなでバレンタインには少し早い、練習前日の金曜日の夜は更けていった。



「じゃあ今日はここまで」
「あーしたぁーっ!」
有利くん掛け声で、ダンディーライオンズの土曜日の練習が終わった。明日は練習がないので、チョコを配るのは今日しかない。
「お疲れ様!」
練習が終わって疲れきった皆にタオルと一緒に用意していたチョコを上に乗せて配る。
「あれ、チョコレート?ひょっとしてバレンタインの?」
「そーです。ちょっと早いけど、バレンタイン当日は練習ないしね。練習で疲れた身体には甘いものっていいでしょ?」
そう言ってお礼を返されながらタオルのついでにチョコを配って回る。
有利くん以外の皆には当たり前だけど緊張もなく極自然に渡せた。
さあ、最後に問題の本命チョコです!
先に配っているから、有利くんもチョコを渡されることはわかっているはず。大好きな野球の練習を終えたばかりで、疲れ切っているはずなのに、にこにこと上機嫌の有利くんの前に立って、チョコを入れた籠を手で探った。
残るは有利くん一人。
でも籠には二つの袋。
根性なしのわたしは、皆と同じ包みの(でも数は一個多い)ものと、皆とは違い、ブルーの半透明のセロファンをライトグリーンの紐で括り、Love Youと書いてある札を付けたものの二つを用意した。
「し……渋谷くん……練習、お疲れ様!」
白いタオルの上に乗っていたのは、青いセロファンの袋の方だった。
間違えたわけでも、運に任せたわけでもなく、ちゃんと札を触って確認してから出した。
出せた!
そう、せっかく出せたんだから、言うのよ
「渋……」
「あれ、おれだけちょっと包みが違うんだね?うわー、ラインオンズブルー。おれこの色、好きなんだよ。チームカラーだし、キャプテンにぴったりって感じ?ありがとうな、!おーい村田、見てくれよ。キャプテン特権!」
敗・北・し・ま・し・た!
そもそも義理チョコに混ぜて渡そうとした時点で、こんなオチになるのは目に見えていた。
いいのよ。思わず勢いで言いかけたけど、ここで告白したら皆が見てるじゃない。皆の前で告白なんて、もしもOKだったとしても……ごめんさないだったとしても……有利くんにも迷惑になるわ。
地面に沈みそうになって、どうにか留まったわたしの肩を誰かが叩いた。
振り返ると、村田くん。その後ろでは有利くんが他の人ともキャプテン特権について話している。
「あのさあ、さん。今更遅いと思うけど、渋谷ってすごく鈍いからね。物凄く判りやすくしないと、スルーされちゃうよ」
「………ええ、ご忠告ありがとう……」
村田くんは悪くない。もちろん有利くんだって悪くない。
だって間違いようもなくわかるような言葉やカードをつけては渡してないんだもん。
全部、勇気の足りないわたしが悪い。
!ホワイトデー、楽しみにしててよ!」
有利くんが嬉しそうに手を振って、それだけで敗北感でいっぱいだったはずのわたしの心は少し浮上した。
なんて現金なんだろう。







バレンタイン小話でした。
ネタですので、この時期まで告白できていないかは不明です(^^;)
頑張れ、乙女!

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