おれの青春は野球だと言っていい。
わけあって中学で辞めたと思っていた野球を草野球という形で再開して、それなりに楽しく忙しく日々を送っている。
その、野球チームに先日女の子のマネージャーが入ってくれた。
ものすごい美人ってわけじゃないけど、明るい笑顔は愛嬌があって、一生懸命に仕事をこなしている姿は好印象だ。
おれの青春は野球……なんだけどね。
女子マネとふたりきりで買い物なんて、野球小僧の憧れじゃないか?
とか思ってしまうのは、おれがもてない暦15年だからなんだろうな。



アイス、ぽたり



わがダンディライオンズの女子マネは今、おれの横で買い物メモを見ながら、おれが持っている買い物篭にテーピングテープや冷却スプレーを入れている。
「ごめんね、渋谷くん。キャプテンに買出しの付き合いさせちゃって」
「い、いいよ、大丈夫。女の子ひとりでこんな量を持って帰るの無理じゃないか」
「これでもわたし、結構力あるんだよ?」
がスポーツドリンクの粉末パックを最後に入れて、ぺろりと舌を出す。
「でも、やっぱり助かっちゃったけど」
ああ、なにその悪戯っぽい可愛い笑顔。おれをどうしたいの?
どうしたいって、どうもしたいわけない。
にとってはおれは、単にチームメイトなわけでね。
おれにとっても、まあそうなんだけど。
買い物を終えて店を出ると、がおれの右手の荷物に手をかける。
「こっち持つよ」
「え?大丈夫、これも筋トレの一環と思えば……」
「じゃなくて、はいこれ」
が持っていた小さな買い物袋から取り出したのは、アイスクリームだった。
「ちゃんとチームの買い物用品とは別会計だからね」
「さっきなにかごそごそしてるなあと思えば」
「練習後に買い出しに付き合ってくれたお礼。ミルク味とあずき味とどっちがいい?」
ここで断ってもアイスが溶けるだけだし、素直に好意に甘える事にする。
「じゃ、あずきで」
結構な重さの袋と交換で、冷たいあずきのアイスバーを受け取った。
あずきバーは結構硬くて、地道に舐めて溶かしながら食べる。
「進学校も大変だよね。一年生のうちから休日に全国模試なんて」
「ああ、こんなくそ暑いのに、学校行って試験だなんて村田も大変だよなぁ」
もうひとりのマネージャーである村田が本日の練習不参加ということで、急遽練習後におれがこうしてと一緒に買い物に出ることになったわけだが……。
これはチームのための買い出しで、別にデートなんかじゃないんだけどさ。
こう、どこか浮かれちゃうのはお年頃ってことで許してほしい。
村田、今日こなくて正解。ありがとう。
「村田くんの学校、クーラーあるらしいよ」
「マジで!?さすが私立!」
「ちなみにうちもあるの」
「へえ、は女子校だっけ。女の子ばっかで華やかそう」
「そんなことないよー?男の子がいないから結構みんなやりたい放題だもん」
男がいなくて女の子がやりたい放題ってどんな状態なんだろう?
いけない妄想はお年頃ということで……以下略。
「あ、あのね、夏休みが終わったらね、文化祭があるんだけど」
「ああ、うん」
大体どこの学校でも文化祭は九月、体育祭が十月というところだろう。
「渋谷くん、遊びにこない?」
「遊びにって……ええ!?の学校?って、じょ、女子校に!?」
「あ、そ、その無理ならいいの。ちょっと言ってみただけだし」
「無理じゃない、無理じゃないよ!で、でもいいの?」
「普段は男子禁制だけど、文化祭のときだけは地域にも開放してるから」
そういう意味じゃなかったんだけど。
だってさ、その、いきなりおれが遊びに行ったら、クラスメイトとかに誤解されてが困らないかと思ったわけで……。
「あ、なんなら村田くんとか、友達を誘ってもいいし」
なにか慌てたように付け足されて、おれは期待外れに思わず少し肩を落としてしまった。
なにを期待してるんだ、野球小僧。
そうだよなあ、おれはただのチームメイトだし。
「じゃ、今度村田にも声かけてみるよ」
あれ?
がちょっと残念そうな顔をしたように見えたのは、気のせい?
「って、、アイスが!」
あずきよりも柔らかいミルク味は、しゃべっている間に溶け出していて……。
「え、あ!ひゃんっ」
が慌てて口に入れようとしたしたときは既に遅く、ぽたりとTシャツの下に落ちた。
「冷た〜」
「だ、大丈夫か?」
ここでさりげなくハンカチとか取り出せたらよかったんだけど、残念ながらまだ練習着のままなので、なにも持っていない。
「やだなぁ、ベタベタする」
が濡れたTシャツを引っ張ったお陰で、白いアイスが胸元に流れ落ちていくところを目撃してしまった。
「わ、わわ!?」
ひじょーに刺激的な映像に、つい声を出して思いっきり後ろに飛んで逃げてしまったせいで、なにも気付いていなかったが目を丸めておれを見る。
「どうしたの?」
「な、なんでもありません!」
変態の誹りを受けたくなかったので、おれは慌てて首を振って誤魔化した。







お題に素直な内容でした(笑)

お題元:自主的課題

短編TOP