鍵のついた暗い部屋に閉じ込めて、鎖で繋いでしまって、朝も昼も夜も、わたし以外
の人がコンラートに近づかないようにしたいですね。
特にだれかさんなんて、絶対近づけさせたくないわ。
笑顔で語られた「わたしの夢」に魔王陛下は戦慄を覚えてソファで硬直していた。
ひょっとしなくても、彼女の抹殺人物リストのかなり上位に自分の名前が載っている
のではないだろうかという不安が脳裏をよぎる。
名付け親への心配は、己の身への心配には勝らなかった。
ちらりと横目で確認すると、話題の彼の弟も青い顔色で紅茶を口にしている。
その目はどこか泳いでいる。
……どうやら彼女の威圧は自称魔王陛下の婚約者へ向いているようなので、有利は
ほっと安心しながらヴォルフラムから拳ひとつ分、距離を開けた。
今日の午前にヴォルフラムがお決まりの「半人間の分際で」と喧嘩腰に吐き棄てた
兄弟喧嘩の言葉を、どこかで聞いていたらしい。
流れるような琥珀色の髪の美少女に初めて会ったとき、有利は健康的な十六歳の
少年として激しい動悸に襲われたものだった。
アメジストの宝石のような瞳を持つ彼女がギュンターの歳の離れた妹と聞いて驚き、
そしてコンラッドの恋人と聞いて激しく落ち込んだ。
だが彼女という人を知れば知るほど、本気で惚れる前でよかったとか、コンラッドって
やっぱり器の大きい人間だよな、それとも趣味が特殊なのか、とか思ってしまう。
今回もそうだった。
恋人を庇いたいにしても、もう少し穏便な方法はないのだろうか。
「そこんとこどうよ、コンラッド?」
こんな空気の中でも、顔色ひとつ変えずに平気で紅茶を飲んでいた名付け親に目を
向けると、首をひとつ傾げて。
「ああ、愛されてるなあ、と感じますね。嬉しいですよ」
にこにこと。
「ま、魔族って……魔族って……」
ヴォルフラムといい、ギュンターといい、彼女といい、愛情表現が激しすぎる。おまけに
名付け親はそれが嬉しいとかいうし。
有利はついていけないと涙する。
「やだなあ、陛下はその頂点に立つ方じゃないですか」
「そ、その事実が一番イヤだよ!」
有利の絶叫に耳を貸すものは、この部屋にはいなかった。
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