人の気配に目を覚ますと、ベッドの傍らに立つ影が見えた。
「………?」
カーテンの隙間から入る月光に照らされた恋人は、枕を抱き締めて困った顔で立っている。
「どうかした?」
部屋に入ってくるまで気付かないなんてどうかしていると首を傾げながら起き上がって手を伸ばすと、は枕を抱き締めて少し俺から遠ざかる。
?」
「あの、あのね……」
「うん?」
手を伸ばしたまま優しく笑って促すと、は恥ずかしそうに抱き締めた枕に隠すように半ば顔を埋める。
「恐い夢を見たの……」
「恐い夢?」
傍においでと手を伸ばしても、はベッドから少し遠ざかったそこから動こうとしない。
「ご、ごめんね夢くらいで。でも、あの」
「謝らなくてもいいよ。陛下じゃなくて、俺を頼ってくれて嬉しい」
だから、ともう少し手を伸ばしてもやっぱりは動かない。
「有利じゃだめなの。コンラッドでなきゃ……」
嬉しいことを言ってくれる。
「おいで。一緒に寝よう。恐い夢なんて、眠りの淵で俺が追い払ってあげるよ」
「ホント?ちゃんと傍にいてくれる?」
「もちろん。だからおいで。俺が傍にいれば恐くないだろう?」
はようやく枕を抱き締める力を少し緩めて顔を上げた。
「うん。コンラッドが一緒に寝てくれたら恐くないよ」
伸ばしていた俺の手に、がそっと右手を。
「だって、コンラッドがいなくなっちゃう夢だったから」



目が覚めると、暗い寝室に一人。
まるで誰かを誘うように手を伸ばして。
誰か、だなんて。
もう一度目を閉じて、詰めていた息を吐きながら天井に向かって伸ばしていた手の甲を額に当てる。
が俺にそろりと差し出した手を掴む前に目が覚めた。
誰か、だなんて。
逢いたくて、愛しくて、焦がれて。
「夢でさえ、触れることもできないのか」
望むなら、その指に触れて抱き寄せて。
君の傍にいた日々はもうこんなにも遠い。
それは戻らない刻だから。



独りの夜を見る勇気が持てなくて、閉じた瞼を開けることはできなかった。





「はるかに遠い」
配布元:capriccio


第10回拍手お礼の品です。
大シマロンでの一夜。
一夜の夢は良い夢といえるのか、
悪夢というべきでしょうか。



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