「いたっ」 せめてちょっとでも有利のお手伝いにと、山積みになっていた書類を調えて運ぼうとしたときに指先を紙で切ってしまった。 薄い線が走って、段々と赤い色が滲む。 「?」 「ううん、ごめん。なんでもない。ちょっと切っただけ」 書類は汚してないよね、と無事な左手で該当箇所を確認して大丈夫だったことにほっとする。手伝おうとして、大事な書類を血で汚すなんて逆に手間を増やしたら大変だ。 紙で切った傷だからすぐに血は止まるだろうけど、今日に限ってハンカチを入れておくスペースのない服を着ていたから、滲んできた血の処理に困った。 舐めるしかないかなあ……でも舐めたあと拭く布もないんだよねー……服で拭くか自然乾燥に任せるしか。 ティッシュでもないかと、怪我をした人差し指を立てたまま周囲を見回したら、手を引っ張られて、その指をぱくりと食べられた。 ……コンラッドに。 「……えっと」 「消毒に」 斜め後ろのコンラッドは文句のつけようのない笑顔で、これが当たり前だと言わんばかりの堂々たる答えを返してきた。 「ウェラー卿はまるでトンボみたいだねー」 じゃあわたしの指は『この指止まれ』で出してたとでも!? 村田くんは笑いながらそう言ったけど、コメントなしよりは笑ってくれる分、まだましだった。 コンラッドの向こうにいる有利の視線が痛い。 すごくすごくものすごく、呆れた顔だ。 ヴォルフラムの哀れみを込めた視線も辛い。 可哀想な人を見る目は、わたしに向いてるの?コンラッドに向いているの!? そんな顔しないで。 わたしが頼んだわけじゃない! 横着しないで素直に洗いに行けばよかった。 |
「目立たない傷でも」 配布元:capriccio 第10回拍手お礼の品です。 ヴォルフの目に映った可哀想な子は、 果たして彼女なのか兄なのか。 (今なら力一杯、本心で血の繋がりを否定しそう^^;) まるマ長編番外編へ お題部屋へ |