「コンラッドっていつも余裕なんだもん。ズルイ」
そう言って、拗ねたように膝を抱えて背中見せる君は、きっと気付いていないんだ。
いつも俺がどれだけ必死なのかを。



切欠は些細なことだ。というより、日常的なことだ。
中庭の木陰で、並んで座ったままうたた寝をしたに上着を掛けようとして、あどけない寝顔を見ているとキスをしたくなって……我慢できなかっただけのことで。
まだ完全に眠りに落ちていなかったのか、単に眠りが浅かったのか、唇が触れた瞬間に目を開けたは、いつものように「こんなところで」と怒ったりせずに唇を尖らせて急に俺に背中を向けた。
?」
「どーしてこういうことするの?」
声は怒っている様子もなく平坦で、だけど振り返る様子は微塵もない。
「どうしてって……が好きだから」
「好きだったら、いつでもキスするの?」
「起こすつもりはなかったんだ。ごめん」
「そういうこと言ってるんじゃなくて!」
は膝を抱えて顔をそこに伏せてしまった。本格的に怒らせてしまったのだろうか。
今の受け答えのどこがいけなかったんだろう。
機嫌を直してもらうにはどうしたらいいか、必死で会話を反芻するが、はっきりとここが悪かったという点が見当たらない。
「コンラッドっていつも余裕なんだもん。ズルイ」
そう呟いて、膝頭を抱える手にぎゅっと力を入れる。
「したくなったらキスするし、好きどころか、あ……愛してるとか平気で言うし、どこでも気にせず急に抱き締めてきたり、あっちこっち触りまくったり……その、キスはわたしだってしたくないわけじゃないけど、恥ずかしくてできないの!なのにコンラッドは全部簡単にやっちゃうでしょ?ずっと年上だし、恋愛経験だって豊富だし、余裕があるのはわかるけど、なんかヤなの」
そんなことを考えていたとは驚いた。それはもちろん、よりは恋愛の経験もあるけど、いつだって余裕を持っていたつもりはない。
「俺は余裕なんてないよ」
「嘘ばっかり!だってどこでも気にせずキスするじゃない!ゆーちゃんじゃなかったら誰が見ててもいいとか言うし!」
「それは見せつけたいから」
「はあ!?」
どうやら本気で俺がしたくなったらしているだけと思っていたらしく、は信じ難いものでも見るような目で振り返った。
は俺のものだって、見せつけて牽制しておきたいから。あのね、。俺に余裕なんてあるはずないだろう?」
「嘘ばっかり」
疑わしそうな目で睨みつけられて、苦笑するしかない。
「毎日繰り返して好きだと言って、愛していると身体中に触って、の心にも身体にも俺を刻み付けておかないと不安なだけだよ。余裕があるんじゃなくて、その反対。俺に言わせると、二人きりの時間にしかキスする必要も触る必要もないの方がよっぽど余裕があるように見える」
「だ、だって余裕とかじゃなくて、恥ずかしいだけで……っ」
「俺には恥ずかしいという感情を持つだけの余裕もないんだ。君に愛を囁かずにいられない。触れずにはいられない。だけど俺の都合でやりすぎて、君に嫌われることも怖い……だから」
振り返ったの肩を抱き寄せて、そっとその耳に囁きかける。
「今ここで、深く口付けたいけど、恥ずかしがるに嫌われたらと思うとできない」
スカートの裾から少しだけ覗いていた足を撫でると、は顔を真っ赤に染めて俺に手をついて身体を離した。
「あ、あああ、あの」
「ダメ?」
俯いたは、スカートの裾を握り締めて小さく消え入りそうな声で呟く。
「わ、わたしも……したい、かも……」
「じゃあ顔を上げて」
「で、でもここ外だし!ええーとでも、そのぉ……だから、部屋で……」
「やっぱりの方が余裕だ。部屋まで我慢できるなんて」
「その理屈は変!」
勢いで俺を振り仰いだは一瞬で真っ赤に顔を染めて、それからためらうように、だけど瞼を下ろした。

嬉しくなって頬に手を添えて、その甘く柔らかい唇を味わった。







自主的課題
「恋は万人を臆病にする」
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第8回拍手お礼の品です。
言い訳にしか聞こえないのは日頃の行い故ですか?(笑)
屁理屈なのか、本心なのか、知っているのは本人だけです。


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