「えっくしょんっ!」 「God bless you……おっと」 髪を拭いてもらっていた有利がくしゃみをすると、コンラッドが反射のようにそう言った。 「なんて言ったんだ?」 わたしより半日遅れてスタツアしてきた有利がお風呂から上がってくるまで、有利の部屋のリビングで本を読んで待っていたヴォルフラムが顔を上げた。 「お大事にっていう、あっちでの決まり文句みたいなもの」 わたしが無難に説明したのに、有利が笑いながらいらないことまで付け足してしまう。 「でもさ、直訳すれば神の祝福をあなたに、だもんな。魔王が神の祝福で病気を治しちゃまずいよな」 「なんだと!?コンラート、貴様どういうつもりだ!」 「え、な、何が?」 眉を吊り上げてソファーから立ち上がったヴォルフラムに驚いて、有利が仰け反った。 後ろに立っていたコンラッドは有利が転ばないように肩に手を置いて支えながら苦笑で返す。 「そう怒るな。ただの陛下の世界の慣用句だ。確かに少し不用意だったが」 「少しで済むか!ここに第三者がいてみろ!お前を追い落とす口実になるかもしれないんだぞ!」 「ただの慣用句なのに!?」 有利が驚いて飛び上がった。 「有利、ちょっと考えても見てよ。こっちで法術は、神様にお祈りして使えることになってるでしょう?魔族が神様にお祈りしちゃまずいよ」 「あ、そうか」 眞魔国での宗教が崇めているのは神様じゃなくて眞王陛下だ。 「でもさー、あっち世界の言葉なんだから、聞いただけじゃ誰もわかんないって」 「それをお前が丁寧に解説したのだろうが!」 「うっ……!」 有利が絶句した。そうよね……そのときにわかんなくても、解説したら一緒だよね……。 「まあまあ、今は他に誰もいなかったし」 「元はといえば、お前の不用意な発言のせいだろう!」 コンラッドが宥めに入ると、ヴォルフラムの矛先が再びコンラッドに向かう。 「確かに、反省してるよ。でもヴォルフがそんなにも俺のことを心配してくれるなんて思わなかったよ。嬉しいな」 たぶん確信犯なコンラッドの笑顔に、ヴォルフラムの顔が一気に朱に染まった。 「ぼくはお前の心配なんてしていない!ユーリの心配をしたまでだ!」 「今の話でどこがおれの心配よ。いやー兄弟仲がいいって、見てるだけでも嬉しいことだよなーコンラッド」 「ええ、陛下。当事者はもっと嬉しいですよ」 「陛下って呼ぶな名付け親。言ったばっかだろ」 「ふ……ふざけるなっ!」 真っ赤になったヴォルフラムは、持っていた本を床に叩きつけると、コンラッドにもたれていた有利の腕を掴んでいきなり部屋を飛び出して行った。 「おい、どこ行くんだよ!?」 「ヴォルフ!陛下の身体が冷える!」 「ちょちょ、ちょっと!」 わたしとコンラッドも慌てて追いかけようと部屋の入り口へ向かったけれど、タイミングと角度が悪かった。 進路がお互いに重なって、飛び出した瞬間にコンラッドにぶつかって、後ろに弾かれて転んでしまったのだ。おまけにソファーの足に頭をぶつける始末。 「いったっ!」 「!怪我は!?」 「う〜……へ、平気……」 涙目で起き上がると、コンラッドが上からぶつけた場所の様子を窺う。 「冷やしておかないと瘤になりそうだ。ごめん、。俺のせいだ」 「事故だよ事故。それより、有利を追いかけなくちゃ。湯冷めで風邪引いちゃうよ」 「まさかヴォルフもそこまで迂闊じゃないだろう。すぐにどこか近くの部屋に飛び込んで俺をやり過ごすつもりだと思うよ。の怪我を冷やそう」 ところが、秘めた兄弟愛を見破られたヴォルフラムの動揺はその迂闊な事態を引き起こし、次の日、有利は見事に風邪を引いて寝込んでしまった。 |
自主的課題 「風邪っぴき」 配布元 第7回拍手お礼のSSです。 ヴォルフは怒った顔が一番可愛いとはツェリ様談ですが、 素直でないところもかわいいのではないかと(^^) 大切な陛下と愛しい恋人と可愛い弟に囲まれて、今日も幸せな次男…。 まるマ長編へ お題部屋へ |