いつものように部屋まで送り届けて、おやすみのキスをした。
部屋に入るともう少し色々としたくなるので、大抵そのまま帰る。
満足のうちにもう一度と恋人の唇を塞いだら、とんでもない通知が言い渡された。
「コンラッド、しらばくキス禁止」
固まっている間に扉が目の前を通り過ぎて、閉められてしまう前に慌てて手を間に入れた。
「待った、。俺はなにか怒らせるような真似をしたかな?」
怒っているときに、その原因に自覚がないというのは更に怒らせる要因になることは承知しているが、心当たりがあり過ぎる身としては、単刀直入に聞くのが一番だ。
下手にあれかこれかと口にして墓穴、ということだけは避けなければいけない。
は必死に俺の手をドアから外そうとしていたが、どうやら諦めたらしい。
ただし、身体の半分以上はドアの向こうに隠すようにしたままだが。
「別に、コンラッドが悪いんじゃないよ。……ううん、ちょっとコンラッドのせいだけど」
「なに?言ってくれたら、ちゃんと悪いところは直すよ」
「だから、すぐにキスするの禁止……」
「それは悪いところじゃない」
きっぱりと言い切ると、は無言で扉を閉めようとする。
、頼むから」
再び手を挟んで、今度はちょっと強引に引き開けた。扉に引き摺られるようにして廊下に出てきたは、ノブを握ったままバツが悪そうに俯く。
「……だって、寂しくなるから」
「え………?」
「コンラッドがいっつもおやすみのキスをするから、日本に帰ったとき寂しいの」
少し感動してしまった。
が寂しいのはよくないけれど、ニッポンに帰っても俺とのキスがないと寂しいくらいに習慣として浸透しているわけだ。
「時期的に、そろそろ日本に帰りそうだから。だから今からおやすみのキスがないのに慣れとくの。ここでなら、それでもコンラッドと一緒にいられるもん。まだ我慢できる」
俺ができない。
どう言ったら一番を納得させられるか考えながら、そっと肩に手を置く。
「でも、せっかく側にいるときにまで、離れている間を前提に過ごすのはもったいないと思わないか?」
「コンラッドに会えない一日は本当に長いんだよ。それでやっと一日が終わっても、またおやすみのキスがないって寂しくなるのはつらいの」
の意見には絶対反対なのに、その言葉ひとつひとつは俺を浮かれさせる。
本当に、困った女性だ。
こんなにも、俺を捕らえて離さない。
「……会えないのは、たぶんまたひと月ほどだ」
ぴくりとの肩が揺れた。ニッポンに帰ることを考えて、つらくなったのか。
ああ、可愛い。
腰をかがめて俯いたこめかみに音を立てて唇を押し当てると、は真っ赤になって後ろに一歩飛んで逃げた。
「き、禁止って言ったばっかりなのに!」
俺から逃げた拍子に部屋に入ってしまったを追って、俺も部屋へ入る。
「え、あ、あの、コンラッド?」
後ろ手にドアを閉め、ついでに鍵を掛けた音が部屋に響くと、目に見えての顔から血の気が引いた。
「心配しなくても、キスしかしないから」
「え、よ、よかっ……って、よくない!禁止って………」
憤って俺に詰め寄ったに、そのまま唇を重ねる。
じっくりと口内を舌で探り、僅かな吐息さえも飲み尽くしてしまうように深く、深く。
「もう遅いよ、
頬を赤く染めて、キスが息苦しかったのか、乱れた呼吸で俺を見上げるその様は、このままベッドに直行したいくらいだったがそこは理性で我慢。
「少しくらい我慢したってもう遅いんだよ、。君がそうであるように、俺ももう君に囚われてしまったんだから」
の唇を指先で辿り、その深い漆黒の瞳を見つめる。
「だから、どうせなら会えない間の分を今埋め合わせしてしまおう」
だから、もう一度キスを。









自主的課題
「欲するままに、貪って」
配布元


第7回拍手お礼のSSです。
次男にすっかり慣らされているように思えて仕方ありません。
おやすみのキスが習慣化って(^^;)


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