に付き合わされて買い物に来た繁華街でうっかりはぐれてしまって、この人込みなら諦めて帰るしかないかというときに、ばったり村田と出くわした。塾だか予備校だかに行くところだったらしいが、事情を話したらと連絡を取ってくれた。助かった。
「あ、来た来た。、どこ行ってたんだよ」
まだ時間に余裕があるという村田と話していると、向こうからが走ってくる。
「それはこっちのセリフ!ちょっと待ってって言ったのに、先に行っちゃって有利どこにもいないんだもん!有利が村田くんと会えなかったら連絡の取りようもなかったよ!」
「そうだっけ。ま、とにかく村田に会えて助かったよ。サンキュ」
一回目の眞魔国行きで壊して以来、俺は携帯電話を持っていない。
新しく買おうかとも思うんだけど、面倒なことに加えていつあっちに呼ばれるかわからないから、また壊れたらと思うとなかなか買う気にならない。けどやっぱりこういうときは携帯がないと不便だな。
「それはいいんだけどね。君達、このクリスマス商戦の始まった繁華街に、兄妹で買い物ってどうなんだよ。寂しいねえ」
「塾に行くとこのお前に言われたかないね!」
おれがムッと半目で唇を尖らせると、村田はくっくっと喉の奥で笑ってを見た。
「まあ妹ちゃんはしょうがないかな。こっちにはウェラー卿はいないし。ああそうか。じゃあ渋谷もしょうがないよね。フォンビーレフェルト卿もいないから」
「だあーっ!お前まで何言ってんだよ!おれとヴォルフは男同士だろ!」
「村田くん、時間はいいの?」
「まだ余裕あるよ。今日は君の買い物に渋谷が付き合ってるらしいけど、何を買うの?」
地団駄を踏むおれをほったらかしで会話を続けた村田は、の答えに態度を翻した。
「コンラッドに何かプレゼントしたいなって。有利に選ぶの付き合ってもらってるの」
「………渋谷ぁ〜」
「わかるか、友よ」
がしりと肩を組まれて、おれは泣き真似をしながらに背中を向ける。
「一人身のシスコンの兄に恋人へのプレゼント選びに付き合わせるなんて……」
「おれ、確かに二人の仲は認めてるけど、あんまりラブラブされるのはちょっとさあ……」
「心底同情するよ……」
「もう、なんなのよ、二人とも!」
おれたちは肩を組んだままを振り返り、そして同時に溜息をつく。
「いや〜、別に〜?」
「今、一人身同盟が出来上がったところでね……」
「一人身同盟って、有利にはヴォルフラムがいるじゃない」
「だからお前さあ!」
「そうだった。渋谷の裏切り者〜!」
「ちょっと待て!誰が裏切り者だ!いや、その前にヴォルフは仲間であって……って、ああ!一体どこからツッコミ入れればいいんだよ!」
「この時期ということは、クリスマスプレゼント?」
「ううん、あっちにクリスマスないでしょ?単にこの時期だとプレゼントコーナーが特設されるから、何かいいのないかなって」
おれが苦悩して髪を掻きむしろうともまったく気にも留めず、は頬に手を当て溜息をついた。
「いつあっちに行くかわからないから、セーターとか大きな物はダメでしょ?時計とかはあっちで役立つか疑問だしね。それ以前に、コンラッドがつけて見劣りしないくらいの物ってわたしの手持ちじゃ買えないし……」
「いっそ手編みのマフラーとかは?」
「最近グウェンダルさんにあみぐるみを習い始めて知ったんだけど……わたし、編み物は下手なの。見劣りするとか以前の問題」
「……のあみぐるみは凄いよ。グウェンのがものすごく上手く見えるから」
ヴォルフラムとは男同士と訴えても無視されるので、とりあえず今は諦めた。
「……へえ、フォンヴォルテール卿のがね……」
おれたちが引き攣った笑いで同時に溜息をつくと、は咳払いして話を進める。
「他にいい案ない?有利に聞くとグローブがいいとか、スパイクはどうだとか」
「それ、自分が欲しいものじゃないの?」
「そんなことないって!コンラッドのグローブは結構使い込んであるからそろそろ替えを用意しておいてもいいと思うんだよ。靴だって、軍靴は滑らないだろうけどプレイしにくいしさ!」
「ふうん……まあ、確かに一応理に叶ってはいるね。他にいい案がなければ、渋谷のに乗っちゃえば?」
「だってそれ……」
村田の気のない返事に、は不満そうに口を噤む。
「何か駄目なの?」
村田が下から覗き込むと、はぼそりと呟いた。
「コンラッドに休暇も有利と過ごしてって推奨しちゃうことになるもん」
「渋谷」
笑顔で振り返った村田は力強くおれの肩を掴んで、に聞こえないように耳元で力を込めて囁いた。
「野球関連商品でプレゼント候補を埋め尽くしちゃえ」
「ラジャ!」
にやりと二人で笑みを交し合った。








自主的課題
「薄氷の微笑み」
配布元



第6回拍手お礼の品です。
村田がいてコンラッドと付き合ってることも知っていて……。
時間軸がいつなのかは聞いてはいけません(笑)



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