「………うわっ、なんか変な味……」
カップから口を離した有利はいかにも不味そうに顔をしかめた。
「へ、変な味って……」
テーブルに戻されたカップからは確かに独特なベルガモットの香りが立ち上る。
「ああ、有利のはアールグレイだね。ちょっと癖はあるけど、まだ一般的な種類なんだけどなあ。じゃあ交換してあげる」
わたしがカップを差し出すと、有利は恐る恐ると覗き込んで目を丸めた。
「なにこれ、桃の匂い……?」
「白桃の紅茶だよ」
そっと口をつけて、今度はお気に召したらしい。そのままソーサーも自分の方へ引き寄せた。
今回、わたしは人からもらったフレーバーティーのセットを持っているときにスタツアしてしまった。
ティーバッグは撥水加工の袋に個別包装されていたものの、外の箱は水で完全に駄目になっていた。
それで、日本でお母さんをどう誤魔化すかは後で考えることにして、もうこっちで飲んでしまえとみんなでお茶会をすることになったのです。
全部違う種類だったので、それぞれでくじ引きのように選んで飲んでみたんだけど、アールグレイは有利の口に合わなかったらしい。美味しいのに。
「コンラッドのは何味?」
「何でしょう?なにせ元の食品の味がわからないので。でも美味しいですよ」
「必ずしも一種類のものから味や香りがつくわけでもないんだけどね。色んな花や味を混ぜて作ってあるのとか」
コンラッドからカップを受け取ると、濃い果物の香りがした。でもはっきり特定できなくて、コンラッドに断ってから一口飲んでみる。
「……マスカットティーだ」
飲んでみたいと言う有利にそのまま回し飲み。
有利がコンラッドにカップを返すと、猛然とギュンターさんが立ち上がった。
「陛下!これはなんのお茶でしょうか!香り高く大変美味なのですがっ!」
押し出されたカップを受け取った有利は、これならわかると笑う。
「ジャスミンティーだよ。うん、これは美味いよな」
有利がそのままカップを返すと、心持ちギュンターさんが落ち込んだ。有利は同意したのになぜ、という疑問は有利がヴォルフラムに尋ねてわかった。
「ふーん、色々あって面白いな。なあ、ヴォルフは何味?」
「なにか甘ったるいような感じがするな。甘味料はなにも入れていないのに」
「どれ?わ、チョコの匂いがする……へえ、味も微妙にチョコっぽい?」
「チョコレートティー?わたし飲んだことない。わたしも一口貰っていい?」
「好きにしろ」
ヴォルフラムの許可を得て有利がわたしにカップを差し出すと、横から大きな手がそれを取り上げた。
コンラッドがカップを傾け、そのままヴォルフラムに返してしまう。
「ぼくはに言ったんだ!お前に許可した覚えは……!?」
ヴォルフラムの抗議は途中で途切れ、ギュンターさんの悲鳴が聞え、有利が絶叫した。
わたしといえばコンラッドに人前でいきなりキスされて唖然と言うか呆然と言うか、対応しきれないうちに口の中に熱い紅茶を流し込まれる。
一旦コンラッドが口に含んだために適温になっていたそれを、ごくりと飲み込んでしまった。
「な………」
有利が最初の一声を上げると、硬直から解けたわたしがほぼ同時に叫ぶ。
「なにしてんだ!!」
「なにするのよ!?」
「コンラートっっ!!」
額に手を当てて溜め息をつくヴォルフラム以外の三人で詰め寄ると、コンラッドはわたしたちを押しとどめるように手を前に出しながら笑って言った。本当に言った。
「ダメだよ。俺か陛下以外の男が使った食器に口をつけては」
………え、それってつまり?
「か、間接キスとかの話……?」
「そんなの言われなかったら気にもしなかった……」
有利とわたしは同時に項垂れる。
「あんたはどこの乙女だよ……」
有利が呆れたように溜め息をつくと、ギュンターさんがぎくりと震えた。
……ああ、さっきギュンターさんががっかりしたのは、有利と間接キスしたかったんだ……。
眞魔国の大人って。
よろよろとソファーに座り直すと、コンラッドは笑顔で訊ねてきた。
「確かに、以前が持ってきてくれたチョコレートケーキと似た味だったね」
「………びっくりしすぎて、味なんて覚えてません……」
とんだお茶会になった。








自主的課題
「flavored tea」
配布元


第五回拍手お礼SS。
今更ですが、次男はただのスケベ親父なのか
乙女思考の持ち主なのか不明です(笑)



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