「お兄ちゃんはこの世で俺だけだ」
そう宣言すると、目の前の弟はまた馬鹿なことを言い出したというような視線を寄越した。
なにが間違っている。
「ばっかじゃねーの!いきなりなんだよ。大体、のお兄ちゃんならおれもそうだろ」
「いいや!ゆーちゃんは双子であってお兄ちゃんじゃない!」
「双子だって兄貴は兄貴だよ!」
「それにゆーちゃんのお兄ちゃんも、やっぱり俺しかない」
「関係に名前をつければそうだけど、気持ち悪い言い方すんなよ!」
「なにが気持ち悪い。お兄ちゃんと呼べといつも言っているだろう。ちゃんはいつもお兄ちゃんと呼ぶぞ」
が言ったら可愛いけど、おれがこの歳でそんな呼び方したら気持ち悪い!」
「そんなことはない!ゆーちゃんが『お願い、お兄ちゃん』と可愛く言ったら、お兄ちゃんはなんでもしてやるぞ!」
「お前、酔ってんだろ!?」
「ビール五本くらいでは酔わん!」
「飲んでんじゃねーか!」
「なに騒いでるのー?」
弟と喧々諤々言い合っていたら、話題の中心だったちゃんが風呂上りに髪を拭きながらリビングに入ってきた。うむ、我が妹ながらなかなかにグッドな眺めだ。
「知らねーよ。この酔っ払いが変に絡んでくるんだよ」
「お兄ちゃんまた飲んでるの?あ、有利、ちょっと詰めて」
ぽすんと弟の隣にちゃんが座ったので、俺は勝ち誇ってソファから立ち上がる。
「ほらみろ!ちゃんは、俺のことは『お兄ちゃん』だがゆーちゃんのことは『有利』じゃないか!」
「………なんのこと?」
ちゃんがぽかんと口を開ける。うむ、その表情もナイスだ。
のお兄ちゃんはこの世で俺ひとりだとかなんとか言い出したんだよ。ほっとけ」
「有利もお兄ちゃんだよ?」
「ゆーちゃんは双子だろう!?」
「そ、そうだけど……」
ちゃんは困ったようにゆーちゃんを見たが、ゆーちゃんは肩を竦めるだけだ。
「もしも、もしもだぞ!俺は絶対許さないが、ちゃんが結婚してみろ。お父さんとお母さんは増えるかもしれないが、お兄ちゃんはこれ以上増えない。絶対に、だ!」
だからこの世でちゃんのお兄ちゃんは俺だけだ!
と大いに悦に入っていたら、ちゃんとゆーちゃんは微妙な表情で顔を見合わせている。
「……なんだ、ふたりとも?」
「あのさあ、勝利……」
「お兄ちゃんと呼べ」
「……の結婚相手に兄貴がいたら、『お義兄ちゃん』は増えるんじゃね−の?」
………………………。
「許さーーーん!!ちゃんは絶対に一人っ子か長男にしか嫁ぐことは許さんぞ!い、いやその前に結婚自体を絶対に許さんっ!!」
「めちゃくちゃ言ってるよ。長男の嫁だけはダメだっていうのはよく聞くけど」
ちゃんが笑いながらゆーちゃんの顔を覗き込む。
「ゆーちゃんもお兄ちゃんと同意見?」
「おれは、確かに結婚はまだ反対だけどさー……もしもするなら、コンラッドにしといてよ。グウェンだけは勘弁してくれ」
「こんらっどとぐうぇんとはなんだ?」
聞きなれない横文字が混じっていて、口を挟むと、またもやふたりは顔を見合わせて、そして声を揃えて言った。
「内緒」
………。泣いてない。泣いてなんかないぞ。
仲間はずれにされたなんて、泣いてないからな。
ああ、でも秘密を示して立てた人差し指を唇に当てるのは可愛すぎるぞ、ちゃん。








狂愛風味に十のお題
5.独占欲
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拍手第4回お礼のSSです。
酔っ払いは支離滅裂なものです。
仲間ハズレの可哀想なお兄ちゃん(^^;)



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