「いいんだ、おれ別に」
聞き分けのいいことを言いながら、手は離さない。
おれの足の間に座らせたを後ろからぎゅっと抱き締めて、その肩に額を置く。
「いいんだ、別に。がコンラッドばっかになっちゃってもさ」
「だ、だからごめんってば有利……」



なんてことはない。
昼間、自主的休憩の名でギュンターの勉強から一時的撤退をしていたとき、おれの側にはコンラッドがいた。
そこにたまたまとばったりあったわけなんだけど。
駆け寄ってきたはコンラッドの名前しか呼ばなかった。
……いや、オチはおれがコンラッドの陰に隠れてには見えなかっただけなんだけど。
なんか二重に落ち込むよ。
「あーあー、兄妹なんて、恋人の前には塵みたいなもんだよなー」
「そ、そんなことないよ」
がしつこいと怒りもせずに必死でフォローしようとしているから、本当のところはもう気も済んでるんだけどね。
最近はおれが忙しかったせいもあるけど、気が付けばがコンラッドとばっかり一緒にいたことも、おれが拗ねている原因だったりする。
それに気付いているのか、いないのか。
とにかくはさっきは怒り出したおれについてきて、コンラッドとはあっさり別れた。
いつまでこんな風におれを優先してくれるかなあ。
いつまでもこんなことじゃ、コンラッドにだって悪いとわかってはいるんだけどさ。
「あーあ、が可愛いよー」
「はあ?」
いきなりなにを言い出すのかと怪訝そうな声を出したに、おれはの肩に額を置いたまま、小さく笑った。



余談だが。
それから日本に帰ったある日、大学のサークルの飲み会で勝利が酔って帰ってきた。
酔ったまま思い切りに抱きついて、当然の結果として張り倒された。
床に伸びた兄貴を見て、こいつよりは愛されてるからいいやと思い直した。





狂愛風味に十のお題
4.行き場の無い感情
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第三回拍手お礼の品です。
ヤキモチ焼きお兄ちゃんだって、いろいろと考えてはいるのです。
……実行に移せないだけで。


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