「もー、整備士になんで陸戦格闘が必須なのさー」 が食堂のテーブルにぐったりと倒れ付していると、向かいに座った幼馴染みはその旋毛をスプーンの柄で突いてくる。 「早く食わないと時間なくなるぞ」 「うるさい、ダスティ。判ってる」 鬱陶しそうに幼馴染みの手を払い、のそりと起き上がる。 脇に避けていたトレイを引っ張って、陸戦格闘の授業で絞られたせいで出ない食欲を嘆きながらフォークを握る。 整備士だって体力勝負だと、それなりについていける自信があっただけに、ショックなのか悔しいのか。 午後の講義を乗り切るためにも、昼食はしっかり取らなくてはならない。 「まだ練習用トマホークは使ってないよな」 「まずは何事も組み手だって……受身を完璧に取れるようになれって………くぅ!あの教官、人をポンポン投げてくれて……っ」 身体中が痣だらけになってるに違いないと嘆くの頭に固い物が二つ降ってきた。 「いたっ!」 「あっと、すまない」 が頭を押さえて恨めしげに振り返ると、後ろに立っていた馴染みの先輩がトレイを片手に慌てて謝った。 「ヤン先輩」 「いや、本当にすまない。わざとじゃないんだ」 「どうしてそこで目測を誤るんだ。不器用にも程があるぞ」 固い物がぶつかったの頭を撫でながら謝るヤンの後ろで、一緒にいたラップが吹き出している。 「あれ、これ飴ですか?」 後ろから幼馴染みの声が聞こえてが振り返ると、テーブルに落ちた二つの包みのうちのひとつを摘み上げて、指先でくるりと回して裏表を見ている。 「うん、そう……疲れているときは、甘いものがいいと言うだろう?」 の横にトレイを置いたヤンが軽く頭を掻きながら言い訳がましく呟くと、テーブルを回り込んでアッテンボローの横にトレイを置いたラップが笑いながら説明を付け足してくれる。 「つまりヤンは、疲れているらしいに甘い物でもあげようと思ったわけだが、少し気を利かせて目の前に飴を落として驚かせようとしたら……」 「目測を誤ってに直撃させたわけですね」 一緒に笑いそうになっているアッテンボローに、ヤンは僅かに赤くなりながらむっつりと頭を掻いている。 は遠慮なく先輩を笑う幼馴染みの手から飴の包みを引っ手繰り、テーブルにあるもう一つの飴も拾い上げた。 「ありがたくいただきます、ヤン先輩」 甘いものは好きですと笑顔で飴を手にしたに、ヤンは仏頂面を苦笑に変える。 「つまらないものだけどね。私も陸戦格闘は苦手だから、気持ちはよく判る」 「ヤンの場合、シミュレーション以外の実技は全部だめだろう」 呆れたように指摘するラップの横で、アッテンボローは笑いを堪えて俯いた。 |
「頑張らなくても良いよ」 配布元:capriccio 第9回拍手お礼の品です。 随分親しげなので、知り合ってから既にしばらく経っている頃かと。 どこまでヤンが不器用なんだと言われそうなほど不器用な話(^^;) 銀英伝短編へ お題ページへ |