「飲みすぎだよ、オスカー」
ソファの後ろから手を伸ばしてブランデーグラスを引っ手繰ると、わずかに中身が零れて彼女の指と男のナイトガウンを濡らした。
「………予告くらいはしようと思わんのか」
「グラス取るよって予告して、大人しく渡してくれるわけ?」
呆れたように肩を竦めて、彼女はグラスの中身を一気に煽る。
「それで、お前が飲むのか」
「愛しのオスカーがアルコール依存症にならないように、よ。なんて健気なんだろう、わたしってば」
「……自分で言っていて、空しくならんのか?」
「なるものですか。自分に酔うほど楽しいことはないんだから」
「自覚があるだけまし、ということろか」
「自覚があるのに直さないんだから、末期とも言えるよね」
「……だからそれを自分で言うな」
男はダークブラウンの髪をかきあげつつソファから立ち上がり、彼女の白い手から空のグラスを取り上げた。
「最高級とはいわんが、上等な酒だぞ」
「あらそう?よくわからなかったけど」
アルコールを嗜むことのない彼女のあっさりとした言葉に溜息をつくと、青い左目と黒い右目を眇めて細い腕を引いて寝室へと歩き出す。
「酒代だ」
「高いお酒ね!」
彼女は笑って、逆らうことなく手を引かれるままに寝室へと移動した。
「酒の代わりに、しっかりと酔わせてもらう」
「明日に残っても知らないからね」
「口の減らん女だ」
男は悠然と微笑む赤い唇に口付けを落した。
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