誰の発言か判り難い場合のセリフ色分けバージョン名前付けバージョンもあります。

「長方形のテーブルを挟んで並んだ男女は総勢10名。それぞれの手元にはコーヒー、紅茶、ウィスキーに水と飲み物からして多種多用、まさに混沌の坩堝と化した部屋は重い沈黙に包まれていた……」
「……アッテンボロー提督、どうして朗読しながら書き付けているんですか」
「それはな、ユリアン……」
「言ってやるな。三十路が近い御仁だ。きっと色々人には言えない事情が出てきているのさ」
「言ってくれるじゃないかポプラン!?大体お前は今日の座談会のメンバーじゃなかったはずなのに、勝手に押しかけてきておいてその態度はなんだ!」
「申し訳ありません、アッテンボロー少将。こいつは口から先に生まれてきた男なんで、黙っていると死んでしまうんですよ。大目に見てやってください」
「コーネフだってメンバー外だっただろ!?なんだその言い草は!」
「俺はお前のお目付け役として、無理にでもと呼ばれたんだ」
「誰に」
「俺にだよ」
「うわー、さすが予言者の嫁を持つ人は手回しが違うなあ」
「嫁の予言じゃない!お前さんが「もしもドックファイトになりでもしたら」などと巡洋艦に乗り込んで来た時点でこうなることが判っていただけだ!」
「ははあ、なるほど。それでそちらの人数が予定より多かったわけですね」
「あ、上手く割り込んできた。さすがオーベルシュタイン中将の下にいると、そういう能力も鍛えられるもんなのかね」
「お褒めにあずかり光栄だね。確かポプラン少佐でしたか?いやいや、これだけ会話が交わされているところに飛び込むなんて、逆にわけもないことだからね。それよりそろそろ座談会を始めようじゃありませんか。そちらだけで盛り上がっているのでほら、うちの提督が先ほどから苛立っておいでで……」
「ええ!?そちらさん、顔色一つ変えてないけど、苛立ってるのか」
「いや、参謀長のことではなくて……」
「いい加減にしろ!反乱軍はまともな会議の場すら設けられないというのか!?」
「うわ、びっくりした。なるほど苛立っていたのは猪提督のほうだったか」
「誰が猪だと!?」
「……この場では自由惑星同盟と呼ぶよう、ローエングラム伯から通知があったというのに、反乱軍呼ばわりしている時点で獣扱いされてもいたしかたあるまい」
「な……っ!この……能面男が何を言うか!」
「ぶっ」
「フロイライン・……ここで笑うのは自殺にも等しい行為ですよ」
「だってフェルナー大佐……能面男って……」
「それで、確かにそちらは予定通り人数こそ四人のようだが、そのメンバーにローエングラム伯やキルヒアイス上級大将といった名だたる人物がいないことは不愉快だな。参謀長殿とやらはまだしも、残りはその部下と猪と小娘とはな。こちらはヤン・ウェンリーが出向いているというのに」
「え、私かい?シェーンコップ自身の評価はともかく、私とローエングラム伯を引き合いにするのは、いささか図々しいよ」
「ヤン……ここでお前さんがそれを言うな」
「そうですよ。先輩には同盟の代表として堂々としてもらわなくちゃ。ここは一発、『ローエングラム伯が来ていないなんて、こんな屈辱には耐えられん』とか言って席を立つくらいしてくれないと」
「……そういう風に回顧録に書きたいんですね」
「あ、それは穿った見方というものだぞ、ユリアン」
「だって口調からしてすでにヤン提督じゃないですよ、それ」
「役者不足を不服としているようだが、我が軍はローエングラム伯の参謀長である小官、曲がりなりにも元帥府の一角を担うビッテンフェルト、元帥府における貴族側の有力協力者の侯爵令嬢が揃っている。そちらのほうこそ、ヤン大将を除けばすべてヤン大将の麾下の者ではないか。不服を訴えるならこちらのほうである」
「くあー!腹が立つ!冷静に的確なことを言われると余計に腹が立つ!反論の余地がないところがムライのおっさんにそっくりだ!」
「暴力は駄目ですよポプラン少佐!座ってください!コーネフ少佐、止めてください!」
「ミンツ君は真面目だね。放っておくといい。暴れたら摘み出されるだけだから」
「コーネフ少佐……何のために俺が貴官を呼んだと思っているんだ」
「売られた喧嘩なら買うぞっ」
「わーっ!ビッテンフェルト提督、挑発に乗らないで!落ち着いて座ってください!」
「……いつになったら始まって、いつになったら終わるのかな……この座談会」
「え、もう始まっていたんじゃないのかい?あ、いや、えー、始まっていたのではないのかな、レディー・
「あらいやだ。高名なヤン提督にそんな気を遣ってもらうような大層な身分じゃありませんよ。でもも呼びやすいようにどうぞ。そっちの御仁のように小娘でも構わないといえば構いませんけれど」
「ほほう、それは俺の言い方が気に食わなかったということか。侯爵家のご令嬢が、大層な身分ではないとは随分と謙遜した言い様だと思ったものだがな」
「……シェーンコップ准将、でしたね」
「侯爵令嬢に名を覚えてもらえるとは光栄の至り」
「よさないか、シェーンコップ。大人げない」
「結構ですよ、ヤン提督。こういう、いけすかない男とよく似た奴とはなぜか縁があるので、慣れていますの」
「い、いけすかないだと……?」
「うーむ、嬢さんもなかなかやるな。うちの不良中年に先制パンチを食らわせるとは。さすがはこのメンバーと一緒に選ばれるだけはある」
「アッテンボロー少将に中年呼ばわりされる謂れはないが?」
「誉められている気がしないんですけど」
「ダ、ダブルで攻撃がきた。しかも一発は味方のはずが。先輩、なんとか言ってください」
「自業自得」
「さすが的確ですね、ヤン提督は」
「フロイライン!そっちで和んでないで、ビッテンフェルト提督を止めるのを手伝ってくれ!」
「ヤダ。力仕事はしない主義なの。そっちにもう一人、軍人がいるんだから手助けを呼ぶならそっちでしょ?」
「うちの閣下が手伝ってくれるはずないだろう!」
「しかも万が一手を貸したとしても、被害が拡大しそうだな。ところで自己紹介もなしなのか、この座談会は。随分ボロボロの始まり方だな」
「まあ、キャゼルヌ少将も随分と毒舌。でも面子が面子ですからね。仕方ないんじゃないですか?」
「……さっきから、和やかとは言い難い雰囲気だと思うのは私だけだと思うかい、コーネフ少佐?」
「どうして小官に振るんですか」
「いや、一人だけ優雅にコーヒーをすすっているから……」
「では小官が一気に紹介しましょう。自由惑星同盟軍からの参加者は、ヤン提督を筆頭にアッテンボロー少将、キャゼルヌ少将、シェーンコップ准将が正式参加者で、ミンツ君は提督の従卒兼座談会の給仕。ポプランは賑やかし、小官はその目付けです」
「でも少佐、目付け役を全然してませんよね?」
「そして帝国側からはオーベルシュタイン中将、ビッテンフェルト中将、フェルナー大佐、侯爵令嬢の四名。以上、総勢11名がこの部屋にいます」
「ナチュラルに無視すんなーっ!」
「も、申し訳ないレディー……えー、
「いえ、もう言いにくいならホントにでも小娘でもいいですよ」


「いっそ、ここでもうお開きにしてしまうという提案はどうだろうか、参謀長殿?」
「シェーンコップ准将の意見に個人的には異論はないが、これではローエングラム伯への報告が不可能だ。せめて一つなりともまともな話し合いを要求したい」
「……この顔ぶれでか?」
それは不可能に近いのでは。
シェーンコップは各地で勃発する怒りの声に、天井を仰いだ。






「大人げない大人たち」
配布元:自主的課題


会話のみで進む座談会。
同盟側だけ人数が多いのは、本編で彼らが出てくることが
あるのかな〜と思ったための贔屓です(笑)


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