「息さえも凍りそう」
横を歩く少女が口を開けてわざと大きく息を吐くと、白いもやが広がり、すぐに消えた。
「子供みたいな真似をするな」
「そーんな顔をしかめられるほどの変な真似じゃないでしょ」
お互いに喋るたびに、白いもやが浮かんでは消える。だががしたように、わざと大きく息を吐き出したわけではないので、広がる範囲も狭ければもやが消えるのも早い。
「冬ってきらーい。寒いし、静かだし、なんとなく街も暗い感じになるし」
「……夏も嫌いだと言ってなかったか?」
「暑いし、汗もべたつくし、動くのが億劫になってくるし」
「お前はいつでも不平ばかりだな」
呆れたように息を吐いて、ロイエンタールはポケットから車のキーを取り出す。ただでさえ寒い気候なのに、地下の駐車場は地上より更に寒々しい気がする。
「そんなことないよ。春は好きだもの。寒い冬が終わって街が色づいてくるからね」
「秋は駄目なのか?暑い夏が終わって、やはり街が色づいていると思うが」
「新緑の緑は綺麗だけど、黄葉はなんとなく色目が地味。というか、これから地味になっていく感じ。それに冬に向かって段々生き物が減っていく感じがいや」
「注文の細かい奴だ」
「別に冬や秋に様子を変えろっていってるわけじゃないんだからいいでしょ。単なる個人の見解よ」
ようやく車につくと、ロックを解除して助手席のドアを開けた。
普段からどんな扱いをしていようと、こういったエスコートだけは欠かさないロイエンタールに、はふっと息を吐いて車に乗り込む。
が助手席に落ち着くのを待ってドアを閉めると、迂回して運転席に入ってエンジンを掛ける。
ヒーターのスイッチを入れながら、車に乗り込むときに見せたの気のない笑みの理由を訊ねてみた。
「何がおかしかったんだ?」
「へ?あ、いやー……相変わらずそつがないなあって思っただけ。いっつも人のことボロクソに言う割には、こういうとこでは女の子扱いするから」
一応それなりの交際をしているというのに、そんなことで笑われるとは思わなかった。
当たり前だろうと返答する前に、が質問してくる。
「人に文句ばっかり言うけどさ、じゃあそっちが好きな季節っていつ?」
寒さに辟易したばかりだったというのに、ロイエンタールは少し考えてこともなげに答える。
「冬だな」
「えー、こんなに寒いのに?」
思い通りの感想が返ってきて、にやりと口の端に笑みを上らせると、の肩を抱き寄せる。
「な、なに?」
「こうやっても、お前が嫌がらないからな」
夏のははときどき、暑いだの鬱陶しいだの、情緒の欠片もないことを言ってロイエンタールを邪険に扱う。
暗にそう指摘されて、は頬を赤く染めた。
「悪かったですね、我が儘で」
「そうだな、反省を求める」








自主的課題
「この寒さにかこつけて」
配布元



第7回拍手お礼のSSです。
恋愛に冷めている人ほど、恋に夢を見ていたかったのではないかと。
そういう意味ではロイエンタールが求めるのは純愛かもしれません。


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