「日が落ちるのが早くなってきたね」
人が仕事をしている横で、ソファーに寝そべって気持ちよく昼寝をしていたはずの人物がぽつりと呟いたので、ラインハルトは驚いて顔を上げた。
太陽が位置を変え、西に沈む寸前の光が彼女の眠りを妨げて叩き起こしたようだ。眩しそうに手をかざして茜色に染まった窓を見ている。
「もう秋だからな」
ラインハルトがそれだけ言って書類に戻ると、それが不満だったらしい。クッションを打ち捨ててがデスクの前までやってくる。
「ひょっとしなくても、ずーっと仕事してたわけ?」
「お前のように暇じゃないからな」
「効率悪っ!疲れたら頭の回転鈍くなるんだからね。ちょっとくらいは休みなさいよ」
「お前みたいに暇じゃ……」
「だったら休みなんて取らなきゃいいじゃない!ずっと元帥府に篭ってろ!」
資料をまくっていたラインハルトの手が止まる。
顔を上げてまじまじと見つめるラインハルトに、は居心地悪そうにむっと眉を寄せた。
「……なんだ、構って欲しかったのか」
「なっ!?」
はすぐに心外だと言わんばかりの表情を作ってみせたが、その前に顔が赤く染まれば答えはわかったものだ。
そう考えれば、本格的に昼寝の体勢に入る前に暇だ暇だと言い続けていたのに、部屋から出て行かなかった理由もわかる。
「うううう自惚れるのもいい加減にしろっ」
「あと五分待て。これが終われば遊んでやる」
「だから違うってば!もういいっ」
くるりと背を向けたは、後ろから手を掴まれて後ろに体勢を崩した。振り返る
とラインハルトがの右手を掴みながら、視線は資料に落としている。


「離しなさいよ」
「いやだ」
簡潔に答えて、の要請とは逆に簡単には振り払えないように掴んだ手に力を込める。
「俺がなんのために休暇を取ったと思っている」
「休暇はゆっくり骨休めするためのものでしょ!休暇を休暇にしてないのは自業自得じゃない」
「邸なら、こうやってお前が視界にいるからだ」
一日中放っておいて、さらりとそんなことを言う。
騙されてやるものかと思いながら、はラインハルトに背を向けた。もちろん右手は掴まれているから部屋を出て行くことなどできない。
夕焼けに部屋のすべてが茜色に染まる。
デスクもソファーも空間すら赤く見える今ならば、の顔の色だって茜に染まって見えるのが当たり前。
今ならたった一言で嬉しくなったなんてわからないだろう。








自主的課題
「茜に染まる」
配布元


第五回拍手お礼のSSです。
銀英伝長編でラインハルトと恋人設定の未来時間。
ですが、このふたりで甘い話って今の関係からは連想が
難しいのか糖度不足な気がしてなりません(^^;



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