「俺は宇宙を手に入れてみせる」 遠くを見据える、その苛烈な瞳が。 「どうした、?」 ラインハルトに声をかけられて、は初めて自分がぼんやりと相手を眺めていたことに気がついた。 運ばれてきたコーヒーはまだ温かな湯気を立てているが、それでも沈黙するには長すぎる時間。 「ああ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」 「疲れているんじゃないのか?」 「いや、それを宰相閣下に言われるとさあ」 苦笑しながらコーヒーに手を伸ばし、カップに紛れてそっと小さく溜息をつく。 宰相で軍務尚書で宇宙艦隊司令長官で統帥作戦本部長の人物に、疲れていると指摘されるほど疲れることはしていない。 これは単に、物思いに耽っていただけだ。 それも下らない、小さな個人的感傷。 「いつまで友人で、いられるのかなって……」 いつまで友人でいられるのかと、珍しくそんなことを考えてしまっただけだ。 再会したときだって、すでに大将閣下だった。それでも、今の立場とは比べ物にならない。 常に前へ進み、高く飛び続けるラインハルトと、いつまで対等な友人でいられるのだろうか。 言うつもりもなかったのに、つい小さな弱音をこぼしてしまった。 案の定、ラインハルトは目を瞬き、そしてふいと横を向く。 「下らない」 思ったとおりのことを言われる。 「まったくもって反論できない」 「当たり前だ。友人関係など、心の持ち方ひとつだ。お前は身分や地位などというものに振り回されるような、柔な奴じゃないだろう」 「柔というか、常識知らずのように言われている気がするのは気のせい……?」 貴族なら、宰相なら、まだ同じ臣民だ。けれど、皇帝になれば話は変わる。 皇帝であることは、限りなく自由であるわけではない。むしろ、それ故に縛られることも多いはず。 たったひとり、孤高に立つその姿を見たいような、見たくないような。 「……お前が望むなら、別の関係だって築けるんだがな」 「別の関係?」 それはなんだと首を傾げると、ラインハルトは途端に咳払いして話題を戻す。 「とにかく、いついかなるときも、お前さえ望めば俺たちは友人だ」 「俺は宇宙を手に入れてみせる」 遠くを見据える、その苛烈な瞳がを映すときは柔らかい。 その言葉と、その瞳が、なによりも証に代えてに約束する。 望み続ける強さがある限り、確かに友人なのだと。 |
狂愛風味に十のお題 9.証の代わりに 配布元 珍しく感傷的に。 友達が皇帝になるなんて状況、 普通に考えればありえないです(^^;) 銀英伝長編へ お題部屋へ |