日本でも外国でも、そして異世界でも、年末年始は行事ラッシュになることは一緒らしい。
一年の最後の日である今日も、難しい名前のパーティーがあった。
平たく言うと王都周辺に住まう貴族が出席する忘年会ということで、これに出席できることはとても名誉なことらしいのだけど、当の有利がよく判っていないのだから世話はない。
わたしも人のことはいえないけれど。
明日は明日で今度は国中から新年の慶賀に人が集まるらしい。その他にも午前中に色々と儀式とかがてんこ盛りということで、有利と二人軽く溜息をついたりしていた。


「今日も一日お疲れ様、。慣れない行事が続いて疲れただろう?」
いつものように部屋まで送ってくれたコンラッドは、わたしの部屋のドアを開けながら優しくそう労ってくれた。
「うん、さすがにちょっとね……いくら有利の後ろにいるだけといっても、緊張するし。……そんなこと言ったら有利のほうが疲れてるだろうけど」
わたしが肩をすくめてそう返すと、コンラッドは軽い苦笑を滲ませて首を振る。
「それは陛下もお疲れだろうけれど、男の貴族を相手にすると、は違う意味でも疲れるじゃないか。俺がずっと傍にいてあげられたらいいんだけど……」
「コンラッドは有利の護衛なんだから有利についててくれないと。わたしはヴォルフラムがときどき様子を見に来て、ちゃんと要所要所でフォローしてくれたから」
「……そうだね。ヴォルフがいるからそれほど心配はしてなかったけれど……」
柔らかな笑顔でそう言ったコンラッドは、だけどすぐに苦笑して髪をかき上げた。
「違うな、正直に言えば俺がの傍にいたいだけかな。きっと、の横に立って俺が君の婚約者だと主張したいだけなんだ」
「そんなこと言われちゃうと……」
わたしだって、本当はコンラッドにべったり張り付いていたいのが本音だったりするけど……そんなこと言ってたらキリがない。
「あのね、心配しなくっても、わたしはコンラッドしか見えてないよ」
「いや、俺が心配なのはに不埒なことをするような不心得者が居ないかということで……」
「まさか、そんな人はいないよ」
そんなことする人はコンラッドしかいないよ、とは心の中だけで付け足す。
コンラッドにされることなら、嫌なんてこと自体が少ないんだけどね。
そんな恥ずかしいことも口にはできない。
色々と思ったことを削って言うと、途端にコンラッドは難しい顔をして、わたしを包み込むように両腕を回してぎゅっと抱き締める。
は自覚が足りないのが一番問題だ」
「コンラッドは心配性過ぎ」
呆れ返ってそう言うと、抱き締められた頭上からそれこそ呆れたと言わんばかりの溜息が降ってきた。
「陛下の護衛を誰か信頼できる者と代われたらいいのに」
「またそんなこと言って」
わたしも呆れたように言いながら、ちょっとでも有利より優先するような言葉には内心で嬉しくて、抱き締められてわたしの表情がコンラッドに見えないのをいいことに、ついにやけてしまう。
本当に有利より優先してくれなくても、そう言ってくれるだけでも十分だよ。
だから抱き締めていた腕が解けて、そっと頬を撫でられたときは驚いてしまって、慌ててにやけた表情を引き締めた。
「せめて明日のパーティーの最初だけでも、をエスコートしてもいいかな?」
「え!?でも有利は?」
「始めはヴォルフとギュンターに任せるということで」
「い……いいのかな?」
そんなことを遠慮がちに殊勝な調子で聞き返しながら、頬に添えられた手を取った時点で、わたしの顔には期待が滲んでしまっていたと思う。
コンラッドは優しく微笑んで頷いた。
「きっと陛下も許してくださるよ。ヴォルフたちには尋ねるまでもないだろうし」
コンラッドの服を握り締めて、俯きながらその胸に額を当てる。
「本当にそうなったら……嬉しい、な」
小さくだけど本音を漏らすと、なぜか安心したような息をつく声が聞こえて、顔を上げるとコンラッドは胸を撫で下ろしそうな表情でわたしの頬を指先でくすぐった。
にもそう思ってもらえてよかった。真面目に陛下の傍にいろと怒られたらどうしようかと思った」
「お、怒ったりしないよ。ちゃんと有利のことはどうするか考えて、それからわたしと一緒にいてくれるんでしょう?」
「ああ、もちろん。それならは、俺の我が侭を許してくれるかな?」
「それって……あの……わたしの我が侭だよ」
恥ずかしくてまた俯きながら小さく、でもちゃんとコンラッドにも聞こえるように呟いた。
「傍にいて」
「仰せのままに」
気取って答えたコンラッドは頬を掠めていた指先を滑り降ろして、わたしは首を竦めて笑う。
「やだ、くすぐったいよ」
「なら顔を上げて。の可愛い顔を見せて」
「もう!コンラッドってそんなことばっかり言うんだから!」
ふざけあうようにお互いにくすくすと笑って、くすぐるような指先に導かれるままに顔を上げると、コンラッドのとても優しい笑顔が近づいてきた。
「もうすぐ年が明ける……それまでここにいてもいいかな?」
「それもわたしの我が侭だよ」
目を閉じるのは少し惜しかったけれど、降りてくるコンラッドに応えて瞼を降ろす。
「傍にいて?」
「仰せのままに」
コンラッドと唇を重ねて、温かなキスを交わしている間に日付と年を跨いでいたけれど、そんなことに気付く余裕がわたしにあるはずもなく、コンラッドの傍で新しい年が始まったのでした。






明けましておめでとうございます!
少々遅れましたが、年賀ご挨拶SSです。
砂を吐くほど甘くしようと頑張ってみましたが、いかがでしたでしょうか。
この二人はどっちもどっちなんだと思った瞬間でした(笑)
お持ち帰り自由ですので、よろしければお持ちくださいませv